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トヨタ、データ改ざん不正続出…原因は“裸の王様”章男社長が主導した無理な「短時間車検」

文=桜井遼/ジャーナリスト
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トヨタ、データ改ざん不正続出…原因は“裸の王様”章男社長が主導した無理な「短時間車検」の画像1
レクサス・LS(「Wikipedia」より)

 グローバルに新車販売を伸ばして2021年4~6月期の連結純利益が前年同期の5.7倍の8978億円と過去最高で業績好調のトヨタ自動車だが、足元で不祥事が相次いでいる。

 今年5月にトヨタ系の老舗ディーラーグループで不正車検が発覚したのに続いて、7月20日にはトヨタの子会社が運営する高級車販売店「レクサス高輪」でも不正車検を行っていたことが発覚した。さらにトヨタ子会社で部品・用品卸会社であるトヨタモビリティパーツでは、社長の吉武一郎氏が複数の社員にパワーハラスメントを繰り返していたことが発覚し、7月30日付けで辞任した。

 おもねりへつらう部下からの「好業績の立役者」との声に満足顔のトヨタの豊田章男社長だが、相次ぐ不祥事の発覚はモラルハザードの現れと指摘する声もある。

車検を依頼していた顧客をだましていた

 最初の不祥事が発覚したのは昨年12月だった。トヨタ創業時からトヨタ車の国内販売拡大で苦楽を共にしてきた老舗の販売会社である愛知トヨタ(ATグループ)傘下にあるネッツトヨタ愛知が、不正車検を行っていたことが国土交通省・中部運輸局の抜き打ち監査で発覚した。

 不正車検の舞台となったのは、ネッツ愛知で最も車検取り扱い台数の多い店舗である「プラザ豊橋店」だ。2018年12月以降、2年間で5000台以上、車検で定められた項目を検査しなかったり、整備記録簿に虚偽の内容を記載して保安基準適合証を不適切に交付していた。こうした行為は道路運送車両法違反で、国土交通省はプラザ豊橋の車検業務の取り消しと店舗に配置していた自動車検査員を解任する行政処分を行った。

 トヨタ系販売会社を代表するディーラーである愛知トヨタで、しかもトヨタのおひざ元である愛知県での不祥事に、トヨタグループ内外に衝撃が広がった。事件を受けてトヨタは全国の販売会社に対して同様の事例がないかの調査を指示したが、法令違反の報告はなかった。

 ところが、さらに大きな衝撃を受けることになる。国土交通省・関東運輸局による監査で、今度はトヨタの子会社であるトヨタモビリティ東京が運営する「レクサス高輪」でも、不正車検を行っていたことが明らかになった。不正は19年6月から2年間、565台に対して検査を実施しなかったり、基準を満たす数値に整備記録簿を改ざんしていた。

 このレクサス高輪での不正車検の影響は大きい。トヨタの直営会社が運営している店舗であるのに加え、レクサス高輪はトヨタの高級車販売チャネルであるレクサス販売店の模範となる店舗として内外に紹介されてきた。トヨタは北米で成功したレクサスチャネルを日本市場に展開する際、マスコミ向けにレクサス高輪の見学会を実施した。従来の自動車販売店と異なる「高級ホテルのようなおもてなし」を重視した販売店としてアピールした。そのレクサス高輪に車検を依頼していた顧客をだましていたわけだ。

「顧客よりも章男社長ファースト」

 プラザ豊橋、レクサス高輪のサービス部門の社員が不正に走ったのは短時間車検に原因があると説明する。「短時間車検」で決められた時間内に車検を処理するため、検査項目を省いたり、再検査しないで済むように数値を改ざんしていたという。

 トヨタは販売会社の収益の柱となるアフターサービスに注力しており、車検を効率的に処理する短時間車検の導入を販売会社に推進してきた。そしてこれを主導したのがトヨタの豊田章男社長だった。

 一方で、トヨタは新型車を積極的に投入して国内新車シェアを伸ばし、トヨタ車の保有台数は増加の一途をたどっている。しかし、若者のクルマ離れの影響もあって、どの販売会社もメカニックが恒常的に不足しており、とくにトヨタ系の販売会社はサービス受け入れ能力が限界を迎えている。

 それだけではない。衝突被害軽減ブレーキなどの先進的な装備の普及など、自動車の電子化もあって一般の整備工場では対応できない修理なども増えており、正規ディーラーにアフターサービスを依頼する傾向が強まっている。

 さらに、トヨタグループであるデンソー製の燃料ポンプの不具合による大量リコールなどもあって、販売会社のサービス工場はフル稼働の状態が続いている。本来ならトヨタが主導してアフターサービスの受け入れ体制など、抜本的な見直しが急務だったはずだが、トヨタの販売店担当者は「短時間車検で効率をアップして処理能力を増やせとしかいわない」(トヨタ系販売会社)という。

 豊田社長に反論すると左遷されるという意識が根付いているトヨタだけに、短時間車検による弊害を誰も指摘できなくなっていた。「トヨタグループは上から下まで、顧客よりも章男社長ファースト」(トヨタ系ディーラー)の状態が続く。

パワハラ問題も発覚

 しかも豊田社長を頂点とするヒエラルキーが固まってしまっているせいか、部下の人格を否定する社風がグループ全体に広がっている。トヨタ系のカー用品販売店「ジェームス」を展開するなど、トヨタの国内カー用品・補修部品販売統括会社として20年1月に発足したトヨタモビリティパーツの初代社長に就任した吉武一郎氏が7月30日付けで突如辞任した。複数の社員に対して不適切な言動があったことが理由だ。トヨタは上司のパワハラで自殺した社員の遺族と4月に和解したばかり。それだけに新たなパワハラ問題の発覚を、早々に処理したようだ。

 ただ、自殺した社員の遺族に対して豊田社長は謝罪するとともに、人事制度見直しなどの再発防止策を約束したばかりで、舌の根の乾かぬうちに新たなパワハラ問題が起こっていたことになる。

 グローバルで新車販売が好調で業績も好調なトヨタ。しかし、周囲の批判の声をことごとく抹消し、事実上「裸の王様」となっている豊田社長や現在のトヨタの社風に対して、表に出さなくても内心、不満を抱いている社員は少なくない。そしてそれを示すかのように相次いで発覚している不祥事は氷山の一角かもしれない。トヨタが転落する日はそう遠くない。

(文=桜井遼/ジャーナリスト)

桜井遼/ジャーナリスト

桜井遼/ジャーナリスト

自動車業界の現場を中心に取材するジャーナリスト

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