ファミリーマートが無人コンビニを増やす。2024年度末までに約1000店に拡大する方針だという。先ごろ、「無人店舗」「セルフレジ」「ウォークスルー」など、“人を介さない”決済システムが登場している。そもそもは人手不足への対策だったが、コロナ禍の後押しで加速していきそうだ。果たしてどんなものか、ざっとおさらいしておこう。
2021年3月からすでに稼働している無人店舗「ファミマ!!サピアタワー/S店」(丸の内)の場合は、AIカメラで客が手に取った商品を認識することで無人決済を可能にしている。
具体的にはこうだ。天井に設置された約50台のカメラが入店した人物を認識し、その客の動きを追跡する。客が棚から取った商品をその都度認識、商品を持ったまま決済エリアに進むと、購入する商品リストがタッチパネルに表示される。リストに間違いがなければ、決済手段(交通系ICカード、クレジットカード、現金)を選んで支払うという流れ。決済が完了しなければ出口のゲートが開かない仕組みだ。
一度手に取った商品を棚に戻せば、支払い画面の商品リストが訂正される。たまにそれが反映されていないこともあるので、そのときは客がタッチパネル上で修正する。なお、アルコールについてはパネル上で「20歳以上ですか?」との確認が出るほか、バックヤードで人の目による確認も行われる。
ただし、この店舗では、おでんやファミチキなど人手を介する商品の扱いはない。振り込み用紙による収納代行サービスもむろんできないので、「普通のコンビニが無人になった」わけではない。ポイントを貯めたり支払いに充てることも、現状では未対応だ。
カメラは客を動きで捕捉しているので、マスクをしていたり帽子をかぶっていても問題ない。筆者もこの無人決済システムを幾度か体験しているが、商品を認識する精度はかなり確かなものだった。
よくある「スマホアプリで完結」は万能ではない
ファミマの無人コンビニは、よくあるコンビニのセルフレジとは違い、商品のバーコードを客が読み取る必要がないのが特徴だ。この新店舗は無人決済システム技術を提供するTOUCH TO GO社とのタッグによるもの。TOUCH TO GOはJR駅構内での実証実験店舗を経て、2020年3月には高輪ゲートウェイ駅に無人コンビニと同スタイルのウォークスルー店舗を開業している。
無人店舗といえば「手ぶらで入って手ぶらで出てくる」という「アマゾン・ゴー(Amazon Go)」を思い浮かべる人もいるだろう。日本でも、モバイルオーダーで使われるように、アプリを事前にダウンロードし、それにクレジットカード等を紐づけることで、手ぶら決済を可能にすることは可能だ。
しかし、不特定多数の客がぶらりと入ってくる駅ナカやコンビニで、「先にアプリをダウンロードして、カードを登録してください」というのでは、逆に不便で、かつ客を選別することになりかねない。コンビニではまだまだ現金払いの客も多いのだ。スマホ一つで完結します、というのは一見優れているようだが、スマホ操作が苦手という世代を締め出すことにもなりかねない。万人がスムーズに買い物できないとすれば、「新しい技術で便利になりました」といくら企業側がアピールしても、自己満足と言われても仕方がない。
また、商品自体に電子タグを付け、レジで自動認識する方式もあるが、商品数が数百点にも上るコンビニでは「そのタグつけ作業、どの段階で誰がやるんですか?」という話だ。そもそも無人化の目的の一つは人件費削減なのに、本末転倒になってしまう。
無人化は企業のため? 消費者のため?
コロナ禍により非接触が呼びかけられ、小売りの場ではさまざまな試みが進んでいる。たとえば、イオンは自社で展開するセルフスキャン決済「レジゴー!」への対応店舗を増やす方向だ。
「レジゴー!」は、スマホサイズの専用端末(あるいは自分のスマホにアプリをダウンロード)を使って、客自身が商品をカートに入れる際にバーコードを読み取っていき、最後にセルフレジで決済する。購入する物の読み取りが済んでいるので、レジに並ぶことなくスピーディーに会計できるというのが売りだ。
筆者も店舗で「レジゴー!」を試したことがあるが、慣れた買い物客は迷うことなく端末を手に取り、どんどんバーコードを読み取っている。子連れ客では、親よりも小さな子どものほうが使いたがる様子も見られた。このシステムによってレジ打ち人員が削減できるとすれば、企業にとってメリットは大きいだろう。
先のTOUCH TO GO社の無人店舗では、本来3人程度必要なアルバイトを1名に減らすことができるという。単純にいうなら人件費が3分の1になるというわけだ。それを聞くと、無人化は企業メリットが大きいように聞こえるが、実はそれだけでもない。
それは、アルバイトを確保しにくい立地でも出店が可能になるという点だ。8月には羽田空港に、TOUCH TO GOのシステムを利用した無人ギフトショップ「ANA FESTA GO」がオープンしたが、今後は地方空港にもこの無人スタイルを広げていく目論見がある。地方空港では近隣に人家が少ないことが多く、通ってくるのも車が必要なため、働き手を確保するのがなかなか難しいからだ。無人店舗であれば、その点のハードルが下がり、これまで出店しにくかった場所にも「買い物ができる場」が広がるというわけだ。
無人化は買い物難民の救世主になるか
言わずもがなで、日本は急激に高齢化が進んでいる。人が多く住んでいる地域であっても、高齢者が増えていけば、店舗で働く人員の確保はますます難しくなってくるだろう。早朝・深夜ともなればなおさらだ。
また、買い物のために車がマストな地域でも、高齢者となり免許を返上してしまえば、あっという間に買い物難民となってしまう。現役世代の人々にとっても、決して他人事ではない。今は難なくスマホやITツールを使いこなせている世代も、いつかは老いる。スマホに文字を入力するのも難儀する時代は来るだろうし、できるつもりの操作がなぜかうまくいかないことも増えてくる。なんでもデジタル化すれば、今より作業がスピーディーになり、間違いも減って効率化になるというのは、なかなか乱暴な話ではないかと思っている。
そもそもDX(デジタルトランスフォーメーション)とは企業の効率化のためではなく、利用者の不便を解消するためにこそなされるべきだ。近くにコンビニがない、深夜に開いている店がない、家から遠出ができない、そういう身近な不便を解消するためにテクノロジーが使われ、たとえデジタル弱者であってもストレスなく暮らせる社会を期待したい。
(文=松崎のり子/消費経済ジャーナリスト)
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