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江川紹子の「事件ウオッチ」第192回

江川紹子が斬る“検察の堕落”…「高知・香南官製談合事件」2度の逮捕・勾留取り消しの闇

文=江川紹子/ジャーナリスト
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異例の勾留取り消し請求をした高知地検
異例の勾留取り消し請求をした高知地検(写真は高知地検HPより)

 厚生労働省局長だった村木厚子さんが巻き込まれた冤罪事件(2009年)は、検察側がストーリーに沿った供述を関係者に強要し、物証よりも供述頼みの捜査を行ったために起きた。あの教訓はどこへ行ったのだろうか――。そんな思いにかられる事態が今、高知県で進行中だ。

 官製談合事件の容疑で逮捕・起訴された被告人が、検察の勾留取り消し請求で釈放されるという異例の展開。この件では、捜査機関をチェックする裁判所の対応にも、大きな疑問符がついている。

同一容疑での再逮捕は許されるのか?

 問題となっているのは、高知県香南市の住宅管財課長が、市営住宅解体工事の入札に関する情報を漏らした、として官製談合防止法違反などに問われている事件。当初の高知県警の発表によれば、課長は情報を市議に伝え、市議が建設業者に教えて最低制限価格に近い価格で落札させた疑いがかけられた。市議と業者は容疑を認めていると報じられているが、課長は一貫して否認している。

 県警は9月1日、この3人を逮捕。ただし課長については、勾留に対する異議申立が認められ、同月4日未明に釈放された。

 ところが同月11日、今度は高知地検が課長を同じ被疑事実で再逮捕した。今度は勾留に対する異議申立は認められず、身柄拘束下での取り調べが続いた。課長は、任意の取り調べに応じても逮捕されたことで、これ以上協力しても無駄だと考え、弁護人の助言を得て黙秘に転じた。同地検は22日、課長を市議や業者とともに課長を起訴。その後、市議は斡旋収賄容疑で、業者は贈賄容疑で再逮捕・追起訴されている。おそらく、捜査機関としてはこの贈収賄事件の立件がいちばんの目的だったのだろう。

 課長については公判前整理手続に付されることになり、日程も決まっていた。しかし、地検が突然、勾留の取り消しを裁判所に請求し、それが認められて11月12日に釈放された。

 報道によれば、検察側が課長関与のストーリーの拠り所としてきた市議の供述が変わった、という。つまり、最低制限価格に関する情報を課長から聞いた、という市議の証言が得られなくなり、検察側が描いていた裁判での立証計画が頓挫したのだろう。そのため、検察側が証明予定事実を明らかにするはずだった公判前整理手続の日程も飛んだ。

 驚かされたのは、課長がまったく同じ容疑で、その釈放からわずか1週間で再度逮捕されたことだ。

 報道によれば検察側は、課長が釈放後に任意の調べに応じなかったから再逮捕に踏み切った、としている。9月14日付け高知新聞は見出しで「釈放後 不出頭続く」と書いた。

 しかし、弁護人の市川耕士弁護士によれば、事情は異なる。

 課長は最初の逮捕前、少なくとも6回の取り調べに応じた。当初は早朝から深夜、日付が変わるまでの長時間の取り調べが続いた。弁護人が就いて取り調べの際に同行するようになってからは、1回につき2時間程度となり、深夜にわたる取り調べはなくなった。弁護人は同行しても、取調室には入室させてもらえない。廊下で待機し、課長が助言を必要とする時に、取調室から出てきて相談するという形で対応した、という。

 釈放後も、一度は任意の取り調べに応じた。その後も連日の出頭を求められたが、同行を決めていた弁護人の予定がつかず、1週間後に応じると連絡。約束通り、9月11日に市川弁護士が同行して出頭したが、その取り調べの最中に再逮捕された。

 このような再逮捕は許されるのだろうか。

 龍谷大学の斎藤司教授(刑事訴訟法)は「これまでに明らかになっている情報に基づけば」としたうえで、次のように指摘する。

「実務、研究者とも、同じ容疑での再逮捕は許されるというのが一般的な理解。ただし、逮捕は人身の自由に対する極めて重大な侵害だ。いつでも再逮捕できるわけではない。許されるのは、(前回の逮捕の時にはなかった)新たな証拠が見つかり、それにともなって罪証隠滅や逃亡のおそれなどの必要性が生じ、権限の濫用にならない場合だ。

 今回は、任意で取り調べに応じる意思表示をしており、どこに罪証隠滅や逃亡の危険があるのか理解しがたい。単に、捜査機関が身柄拘束して取り調べをしたい、という目的があからさまだ」

 近畿大学の辻本典夫教授(刑事訴訟法)も、「捜査側は、自分たちの見立て通りに供述を取ることに終始しているように見える。また検察の悪いところが出た事件ではないか」と指摘。さらに「裁判所の対応にも疑問を感じる」という。

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