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日本の半導体産業復活への効果乏しく…補助金4千億円で台湾TSMC工場を誘致

文=編集部
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台湾TSMC
台湾TSMCのHPより

「産業のコメ」と呼ばれる半導体の不足は、多くの業界にとって頭痛の種だ。スマホやパソコンの需要拡大で世界的に足りなくなり、自動車メーカーが減産に追い込まれるなど影響は甚大だ。

 政府は先端半導体工場の新設や増設を支援するための関連法改正案を閣議決定した。経済安全保障上の重要性が増す先端半導体を、国内で安定的に供給できる体制を構築する。台湾積体電路製造(TSMC)がソニーグループと共同で熊本県に建設する新工場を認定第1号に想定している。

 政府は2021年度補正予算案に財源として6170億円を計上した。TSMCの新工場向けには、当初の設備投資額の半分にあたる4000億円を拠出する。世界最大の半導体生産受託会社であるTSMCとソニーグループは共同で熊本県に合弁会社を設立し、半導体の新工場を建設する。

 この工場は熊本県菊陽町にあるソニーの画像センサー工場の隣接地に建設。22年に着工を予定し、24年末までに生産開始を目指す。設備投資額は8000億円規模で日本政府が半分を補助する見通し。1500人の新規雇用を見込む。

 合弁会社の株式の過半はTSMCが保有し、経営権を握る。ソニーの半導体子会社ソニーセミコンダクタソリューションズが570億円出資し、20%未満の株式を取得する。新工場では回路線幅22~28ナノメートル(ナノは10億分の1メートル)の半導体を生産。最先端製品ではないものの、日本のメーカーが国内で生産できる40ナノメートルよりは微細で自動車や家電向けに広く利用されているという。月間生産能力は300ミリウエハー換算で4万5000枚を見込む。

 ソニーグループは熊本県や長崎県でスマートフォンや車載向けの画像センサーを生産し、世界シェアは首位。光を集めるセンサー部分は自社製造するが、画像データを処理する演算用半導体はTSMCなどに生産を委託している。世界的な半導体不足が続くなか、調達先の確保が課題になっていた。ソニーは新しい工場の大口顧客となり、画像センサーに組み込む演算用半導体の安定確保を図るのが狙いだ。

 ソニーグループの吉田憲一郎会長兼社長はかねてから「半導体を安定的に調達できるかどうか、日本の国際競争力維持のために大事だ」と話している。デンソーも自動車部品向け半導体を安定して調達するため、新工場に専用設備を設けるなど参画を検討している。

“半導体ナショナリズム”広がる

 技術覇権をめぐる米中対立は、米国が自国生産第一主義を鮮明にする引き金となった。「米国による先端技術の囲い込みにつながる」との危機感を日本や中国、さらには欧州の政策当局に抱かせた。

 米バイデン政権は自国の半導体生産能力の増強のために、総額5兆円を超える支援策を検討している。これが日欧韓中などで“半導体ナショナリズム”が広がる誘因となった。経済産業省は6月、「半導体戦略」をまとめた。経済安全保障の観点から先端半導体工場の国内立地の必要性を訴えてきた。TSMCが米国、中国に次いで日本に拠点の設置を決めたのは、水面下での交渉の成果といえる。

 政府は半導体の安定確保を国家戦略と位置付けている。「新しい資本主義実現会議」がまとめた成長戦略に「先端半導体の国内立地の複数年度に渡る支援」と明記した。本年度の補正予算案に盛り込む経済対策で基金を創設、TSMCの新工場の設備投資額の半額程度の4000億円を支援する方針だ。

 海外企業にこれだけの補助金を拠出したことは過去に例がない。半導体をめぐっては世界で熾烈な調達競争が繰り広げられており、欧米や中国政府も自国への工場の誘致のために、日本を上回る補助金を出す方針を示している。

TSMCを誘致する理由

 半導体ビジネスは、一つの企業が設計から製造までを一貫して引き受けるのではなく、工程ごとに得意な企業が、得意な分野に特化する水平分業が進められてきた。設計・開発は米国が、製造装置の生産は日本が、そして、半導体そのものの生産は台湾の企業がそれぞれ分業することで、製品を安く提供するグローバルサプライチェーンが出来上がった。

 中国が5兆円を投じて半導体王国になって、2025年までに半導体の自給率を高める計画を打ち出した。これに危機感を募らせた米国は5兆円を投じて国内生産を強化するとした。米インテル、台湾のTSMC、韓国のサムスン電子が米国に新工場の建設を決定、あるいは建設を検討している。日立製作所グループの日立ハイテクも半導体の技術開発拠点を米国に作る計画を発表した。こうした動きが強まれば日本が強みを持つ半導体の製造装置や素材を担う企業が海外に移転し、国内が空洞化する恐れが出てきた。

 そこで経産省は、国内で半導体を生産する計画を打ち出した。半導体の受託生産で世界最大の台湾のTSMCを誘致することにしたのである。1990年には半導体企業の売上高トップ10にNEC、東芝、日立製作所、富士通、三菱電機、松下電器産業(現・パナソニック)の6社が名前を連ねていた。日本は半導体王国だったのだ。ところが、2020年にはトップ10から日本企業の名前は消えた。

 半導体産業は巨額の設備投資が必要になる。最先端工場では1棟1兆円規模に膨らむ。日本企業はオーナー経営者らが大型投資を即決する韓国・台湾勢や、国から巨額補助金を受ける中国メーカーとの投資競争に敗れた。日本のサラリーマン経営者は、大きなリスクが伴う巨額投資に躊躇しがちになるからだ。

 半導体製造装置を除くと、日本の半導体メーカーで一定の生産能力をもつのは、メモリー大手のキオクシアホールディングス、画像センサーのソニーグループ、自動車向けマイコンのルネサスエレクトロニクスぐらいだ。

 巨額の補助金をエサに、やっと誘致にこぎつけたTSMCが新工場を作っても、日本がかつてのような半導体王国に復活するのは容易ではない。また、TSMCは世界市場を常に視野に入れており、補助金の縛りがきくのは最初の数年間とみられている。「TSMC熊本工場は、日本企業の工場とは考えないほうがいい」(半導体企業首脳)といった醒めた見方もある。

(文=編集部)

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