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片田珠美「精神科女医のたわごと」

大阪ビル火災、京アニなど過去の事件を模倣の可能性…コピーキャットの連鎖が深刻

文=片田珠美/精神科医
大阪ビル火災、京アニなど過去の事件を模倣の可能性…コピーキャットの連鎖が深刻の画像1
「gettyimages」より

 12月17日午前、大阪・北新地のビルの4階に入っていた心療内科と精神科のクリニック「西梅田こころとからだのクリニック」で火災が発生した。この火災で、28人が負傷し、うち27人が心肺停止状態に陥り、現時点(17日午後4時20分現在)で19人の死亡が確認されたという。男が火をつけたとの情報もあり、放火とすれば無差別大量殺人と考えられる。

 無差別大量殺人は、次の6つの要因が重なった結果起きることを、アメリカの犯罪心理学者レヴィンとフォックスが明らかにしている。

1)  長期間にわたる欲求不満

2)  他責的傾向

3)  孤立

4)  破滅的な喪失

5)  コピーキャット

6)  武器の入手

 たしかに、無差別殺人犯は、人生がうまくいかず、長年にわたって欲求不満を抱いており、孤独な生活を送っていることが多い。しかも、自分の人生がうまくいかないのは他人や社会のせいと思い込んで、怒りと恨みを募らせ、復讐願望を抱く他責的傾向も強い。

 それに拍車をかけるのが被害者意識であり、ときには何らかの精神疾患によって被害妄想を抱いていることもある。たとえば、2019年に「京都アニメーション」に放火した当時41歳の男は、自分が応募した作品が「パクられた」と思い込んでいたようだが、「京都アニメーション」によれば、そのような事実はなかったらしく、被害妄想を抱いていた可能性が高い。ちなみに、この男は精神障害者手帳2級を所持していた。

 こうした状況にあっても、何らかの引き金がなければ、凶行に及ぶことはない。引き金になるのは、しばしば本人が「破滅的な喪失」と受け止めるような失職、別離、経済的損失などの喪失体験である。客観的には、そんなにたいしたことではないように見えても、本人が大切なものを失ったと感じ、「もうだめだ。自分の人生は終わりだ」と思い込むような出来事が引き金になることが多い。現在、コロナ禍の影響もあり、1つの仕事を失うと、次がなかなか見つからないという状況も影響しているのかもしれない。

 さらに、過去の事件を模倣する「コピーキャット」も重要だ。今回の事件が「京都アニメーション」事件の模倣である可能性は十分考えられる。それだけでなく、最近相次いで発生した列車内で油をまいて火をつける事件も模倣の対象になったのではないか。

 最後の要因として、大量破壊を可能にする武器の入手が挙げられる。今回の事件で凶器として用いられたのは火だが、火をつける前に油をまいたのかもしれない。「京都アニメーション」放火殺人事件以降、ガソリンを入手するのは難しくなったが、普通の油は簡単に入手できる。京王線事件で使われたのはライターの油であり、誰でも入手可能だ。

「拡大自殺」の可能性も

 火をつけた男は、現場となったクリニックとどういう関係にあったのか。通院中の患者だったのか、以前通院していた患者だったのか、それとも以前勤務していたスタッフだったのか。

 あくまでも個人的見解だが、私自身が心療内科と精神科のクリニックで診察を長年担当してきた臨床経験から申し上げると、メンタルクリニック通院中の患者には上記の6つの要因が積み重なりやすい。

 うまくいかないことが多いからこそ、心身に不調をきたすのだから、当然欲求不満が溜まる。また、しばしば孤立しているし、本人が「破滅的な喪失」と受け止めることも少なくない。たとえば、自分が望むような診断書を主治医に書いてもらえなかっただけで、「もうだめだ」と絶望し、自暴自棄になることもある。

 さらに、これまで理不尽な目に遭ったことが多いせいか、些細な出来事でも被害的に受け止める傾向が強い。たとえば、受付でぞんざいに扱われたとか、自分だけ診察時間が短かったとか感じて、激高する患者もいる。とくに、精神疾患によっては被害妄想を抱いていることもあり、そうなると被害的に受け止める傾向に拍車がかかる。

 だからといって、メンタルクリニック通院中の患者がみな攻撃的なわけではない。むしろ、内気でおとなしく、自己主張がうまくできない方が多いという印象を私は抱いている。そこのところは十分ご理解いただき、偏見を持たないようにしていただきたい。

京都アニメーション」事件では、放火犯自身も重症を負い、一時は生死の境をさまよった。今回、火をつけたとされる男は、現在どのような状態なのだろうか。自分自身も巻き込まれて重度の火傷を負い、場合によっては死亡することを想定していたとすれば、もともと自殺願望を抱いており、赤の他人を巻き添えにして無理心中を図った「拡大自殺」とも考えられる。非常に強い絶望感と復讐願望が重なって犯行に及んだ可能性が高い。

 これまでの無差別大量殺人でもそうだったように、今回の事件の模倣犯がまた続出するのではないかと危惧せずにはいられない。「コピーキャット」による負の連鎖をいかにして断ち切るか、そろそろ本気で考えるべきだろう。

(文=片田珠美/精神科医)

参考文献

片田珠美『無差別殺人の精神分析』新潮選書、 2009年

片田珠美『拡大自殺―大量殺人・自爆テロ・無理心中』角川選書、2017年

片田珠美/精神科医

片田珠美/精神科医

広島県生まれ。精神科医。大阪大学医学部卒業。京都大学大学院人間・環境学研究科博士課程修了。人間・環境学博士(京都大学)。フランス政府給費留学生としてパリ第8大学精神分析学部でラカン派の精神分析を学ぶ。DEA(専門研究課程修了証書)取得。パリ第8大学博士課程中退。京都大学非常勤講師(2003年度~2016年度)。精神科医として臨床に携わり、臨床経験にもとづいて、犯罪心理や心の病の構造を分析。社会問題にも目を向け、社会の根底に潜む構造的な問題を精神分析学的視点から分析。

Twitter:@tamamineko

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