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便利屋化する自衛隊と忖度官僚(4)

自衛隊、政権浮揚の道具化…必要性に疑問の災害支援も、本来の国防業務に支障

文=編集部
自衛隊
防衛省・自衛隊のインスタグラムより

自衛隊の災害支援活動が、あまりにも政権アピールの道具に使われている」

 ある防衛省幹部は現在の災害支援活動のあり方について、こう肩を落とした。「非武装中立」を掲げてきた戦後の日本にとって、自衛隊は鬼っ子であり続けたが、被災地での災害支援はそのイメージを刷新する上で大きな役割を果たしてきた。その災害支援に首相官邸が過剰に介入し、現場の不満が溜まっているという。

静岡での土砂崩れでの災害支援、官邸が「動画を送れ」と逐一命令

「とにかく今何やってるか、動画を逐一送れ!」――。今年7月3日に静岡県熱海市伊豆山で発生した土石流災害で陸上自衛隊が災害支援活動に出動し、土砂の除去や行方不明者の捜索などに懸命に取り組むなか、官邸からはこのような指示がひっきりなしに飛んでいたという。冒頭の防衛省幹部はこう振り返る。

「官邸からは、とにかく動画を伝送しろという指示がすごいプレッシャーとともに来ました。悪天候でヘリが飛ばせない時はドローンを飛ばせというような、緊急性が疑問視される命令が相次ぎ、急きょ映像伝送のための専従隊員を編成しなければならなくなったほどです。確かに自衛隊は時の政権に従うのが当然ですが、その映像から得た情報をもとに何か新しい指示があるわけでもなく、ただの『知りたがりの欲求』のみ。菅首相(当時)へのご機嫌取りのためだったのかもしれませんが、現場の作業効率が落ちる上に士気を下げることにもつながるため、現場からは不満が出ていました」

 7月は東京五輪開催を目前に控え、菅義偉政権は新型コロナウイルスのワクチン接種率向上を至上命題にしていた時期だ。静岡の大規模土砂災害でも落ち度があってはたまらないという政権のプレッシャーが強かったことは容易に想像できる。ただ、現場に来もしない官邸スタッフから、支援活動に何一つ貢献しない指示が飛んでくるのは行き過ぎというものだろう。

16年の熊本地震、官邸高官「自衛隊の出動期間を長引かせるように」と知事に要請か

 自衛隊の災害出動がなぜ政権の支持率を左右するのか。大規模災害が発生すると一定期間新聞やテレビをはじめとしたメディアはそれ一色になるため、政府の判断に注目が集まる。さらに、テレビやインターネットの映像でのインパクトが強いというシンプルな理由も大きい。普段、見慣れない迷彩柄の制服に身を包んだ自衛官が大型車両やヘリを使いながら人命を救助する映像は国民の印象に残る。

 今回の静岡県の土砂災害では7月31日まで約1カ月の間、陸上自衛隊約9000人が動員されたが、人命救助など本来の目的とは別に、政権の「やってる感」をアピールする効果は小さくなかっただろう。

 16年に発生した熊本地震の際には「官邸高官が熊本県の蒲島郁夫知事に『できるだけ自衛隊への活動要請を長引かせてほしい』と内々にお願いした」(官邸関係者)との情報もあるなど、大規模災害における自衛隊の災害支援活動は、時の政権にとって重要なアピールの場となるのは間違いない。

安倍長期政権で緊急性が疑問視される自衛隊出動が散見

 そんななか、第二次安倍政権以降、自衛隊を出動させるような緊急性や必要性が疑問視されるケースも散見されるようになった。

 例えば大雨で7月7日に島根県出雲市で土砂崩れが相次いだとして県が災害派遣要請をし、陸自が約30人を派遣し土砂の撤去作業などに取り組んだが、陸自関係者によると「人力でできる範囲で土砂を撤去しただけで、警察や消防、地元の土建業者でも十分にできた」という。出雲市は大規模な自治体ではないにしても、一義的な災害対応を担うはずの島根県警は約1500人の警察官を擁している。たった30人程度の自衛官が普段の訓練スケジュールを曲げてまで出動する緊急性があったかは疑問が残る。

 また、8月10日、台風9号から変わった温帯低気圧の影響で青森県むつ市と風間浦村などを結ぶ国道279号で落橋や土砂崩れが発生し、青森県から陸自に救援物資輸送に係る災害派遣要請も同様だ。約80人の自衛官が青森県の用意した水・食料などの救援物資を風間浦村に輸送するなどし、17日まで約1週間出動したが、人的被害が出ていたわけでもなく、本来は地元警察や消防などで対応可能な事案といえる。

 派遣要請は自治体の判断によるもので、今夏に発生した広島市の大規模水害では自衛隊は出動していない。

自衛隊出動は国費で自治体負担は大幅減、被災住民へのアピールで派遣要請する面も

 緊急性や必要性に疑問が残る自衛隊の災害派遣が生まれる理由について、事情に詳しい陸自幹部はこう打ち明ける。

「自治体サイドから見れば『自衛隊を呼んだ』ということで地元住民にアピールできる部分はあると思います。それに人件費やマンパワーなど負担の問題がある。自衛官は国家公務員ですが、本来災害対応の主力となるべき警察官と消防隊員は地方公務員であり、自衛隊の派遣が実現すれば自治体の負担は大幅に減少します。こういう状況があるので、自治体側からすれば『呼び得』になる現状がある。自衛隊は本来外敵と戦うための組織であるため、本来の仕事である訓練などは欠かせません。必要性、緊急性は十分に吟味していただいた上で派遣要請は行ってほしいというのは自衛隊側の本音ではあります」

 自衛隊が「災害支援のプロ」と見られること自体は否定すべきことではない。また、派遣要請があれば駆けつけるのも当然の任務ではある。ただ、本連載で紹介した、新型コロナウイルスへのワクチンの大規模接種センターの開設プロセスでも露見したように、自衛隊への「安くてマンパワーのある便利屋」というような扱いが常態化するのは良いこととはいえまい。本来、時の政権に先見性があれば、「便利屋」に頼まなくても専門家や適切な民間業者を活用して危機を乗り切れるはずである。

(文=編集部)

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