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大阪IR誘致、29年の開業表明…“巨大な廃墟”化の懸念、巨額税金投入の是非

文=編集部
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大阪の夢洲(「gettyimages」より)

 大阪府と大阪市は昨年12月21日、誘致を目指す統合型リゾート施設IR)の「区域整備計画案」を公表した。2029年の秋から冬ごろに施設を開業したいと考えていることを表明した。開業時期は、これまでは「20年代後半」としか示していなかった。

 25年の国際博覧会(大阪・関西万博)の予定地である人口島・夢洲(ゆめしま)にIR施設を整備する。延べ床面積は約77万平方メートル。カジノのほか国際会議場、展示場といった施設や、客室数で市内最大級の3つのホテル、3500人を収容する劇場などが計画されている。ホテルでは全客室の20%以上がスイートルームになる。 海外の富裕層をターゲットとする。

 大阪IRの事業者は米MGMリゾーツ・インターナショナルとオリックスを中核とする共同企業体。初期投資額は約1兆800億円で、半分弱にあたる約5300億円は関係企業による出資で賄う。MGM、オリックスが40%ずつ折半出資し、残り20%は関西企業を中心に20社の出資を仰ぐ。

 20社の合計の出資額は1000億円強となる。岩谷産業、NTT西日本、大阪ガス、大林組、関西電力、近鉄グループホールディングス、京阪ホールディングス、サントリーホールディングス、JR西日本、JTB、ダイキン工業、大成建設、大和ハウス工業、竹中工務店、南海電気鉄道、日本通運、パナソニック、丸一鋼管、三菱電機、レンゴーの20社である。初期投資額の51%にあたる5500億円は融資で調達。すでに三菱UFJ銀行、三井住友銀行から融資を確約する「コミットメントレター」を受け取り、2行を中心に金融機関が協調融資団をつくる。

 大阪IRでは、予定地の周辺でヒ素やフッ素による土壌汚染が確認されているほか、掘削調査で地中に液状化の恐れがある層の存在が判明している。市は汚染残土の処分などの環境対策費として790億円を負担する。財源は起債である。区域整備計画案の骨子では年間来場者数は2000万人。近畿圏の経済効果は年間1兆1400億円と想定。大阪府や市は納付金や入場料などで毎年1060億円の収入を見込む。夢洲周辺の整備や子育て支援などに使うとしている。

 MGMとオリックス連合の共同事業体・大阪IRに小規模出資する20社の名前が具体的に盛り込まれた。関西電力、パナソニック、サントリー、NTT西日本、近鉄など、地元になじみのある企業が参画することで、地元に安心感が醸成されることを期待している。

 住民の根強い反対でIR誘致が中止された横浜市では、地元企業の協力が十分でなかったと指摘されており、大阪府・大阪市は地元企業との連携に力を入れてきた。府・市は両議会で区域整備計画の同意を取り付け、4月ごろに国に認定の申請を行う予定にしている。

和歌山、長崎は厳しい情勢

 政府は21年10月から22年4月までIRの区域整備計画の申請を受け付ける。最大3カ所が選ばれる見通しだが、現在、申請準備を進めているのは大阪府・市、和歌山県、長崎県の3地域のみ。本命視された横浜市は撤退し、東京都は検討作業を休止しており、誘致合戦は盛り上がりを欠く。

 和歌山県はカナダのクレアベスト・グループを事業者とし、和歌山市の人口島・和歌山マリーナシティへの誘致を目指している。施設の名称は「The PACIFIC」とし、米カジノ大手シーザーズ・エンターテインメントが運営するカジノ施設のほか、1万2000人収容の国際会議場、計2638室の宿泊施設などを備え、27年秋ごろに開業する計画だ。

 初期投資は4700億円。年間来場者約1300万人を見込む。和歌山県に入る入場料・納付金の見込み額は、開業後5年間で入場料が計600億円、納付金が1100億円と想定。ギャンブル依存症への対策費に充てる。和歌山IRは大阪のそれと完全に競合する。「関西にカジノは2つも必要ない」(関係者)ことから、誘致の見通しはかなり厳しい。

 長崎県は佐世保市のリゾート施設ハウステンボスへの誘致を目指してきた。IRの設置運営予定者としてオーストリアの国有企業カジノ・オーストリア・インターナショナルの日本法人(CAIJ)を選定。初期投資額で3500億円、年間来場者840万人を見込む。初期投資費用はCAIJ側が全額用意する。コンソーシアム(共同事業体)を形成して資金を供出することにしているが、パートナー企業のなかに数百億円を捻出できるような大企業は見当たらない。初期投資3500億円の資金調達のめどがたっていないと報じられている。

 IRの旗振り役だった菅義偉前首相のお膝元でもあり、本命視されてきた横浜市が、反対派の山中竹春市長の誕生で一転して撤退を決めた。誘致活動を進めるのが西日本の3地域のみとなり、政府の判断に影響を及ぼすことになりそうだ。

 さらに、猛威を振るう新型コロナウイルスがIR環境を一変させた。コロナ以前につくられた大規模集客施設の青写真や経済効果を見直すことなく突き進めば、IR施設は巨大な“廃墟”になる恐れさえ出てきた。バブル時代に相次いで建設されたリゾート施設に閑古鳥が鳴いたのと同じ轍を踏むことになるからだ。

 withコロナ時代にIRが必要不可欠な施設なのかどうかを十分に吟味しないと「令和の時代の戦艦大和をつくることになる」(関係者)。

(文=編集部)

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