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法社会学者・河合幹雄の「法“痴”国家ニッポン」第16回

「カジノ日本導入」に見え隠れする20兆円の巨大パチンコ産業…「外圧に負けて」のまやかし

構成=松島 拡 監修=法社会学者・河合幹雄
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 萩生田光一・文部科学大臣の「身の丈」発言をきっかけに一気にストップがかかった大学入学共通テストにまつわる諸問題、そして菅義偉・内閣官房長官が窮地に立たされている「桜を見る会」にまつわる一連の疑惑の影に隠れて、同じく菅官房長官の“お膝元”である神奈川県横浜市などを“震源”として密かに進行中なのが、「カジノ問題」、つまりはカジノを含む日本型のIR(統合型リゾート)の導入問題だ。

 この問題に詳しいのが、法社会学者で桐蔭横浜大学法学部教授の河合幹雄氏だ。本サイトの連載『法社会学者・河合幹雄の「法“痴”国家ニッポン」』を、今回は河合氏へのインタビュー形式で掲載する。

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神奈川2区選出の衆議院議員である、菅義偉・内閣官房長官。神奈川2区は、横浜市西区・南区・港南区で構成される。(写真:つのだよしお/アフロ)

「外資の圧力でしぶしぶ……」は本当か

――政府は2019年11月19日、カジノを含む統合型リゾート(IR)の開設についての自治体からの認定申請を2021年1月4日から7月30日まで受けつけると発表しました。2009年にいち早く名乗りを上げた大阪府・市や、2019年8月に立候補を表明した横浜市などが有力と報じられていますが、河合先生はどう見ていますか?

河合幹雄 メディアの報道や知り合いの政府関係者の話などを総合すると、大阪府・市と横浜市、それからいわゆる“地方枠”として長崎県、この3カ所でほぼ話がついているようです。同じく誘致を正式表明している和歌山県は、自民党の有力者、二階俊博幹事長の地元で、彼自身が誘致に相当乗り気と聞いていますが、どうやら厳しい情勢のようですね。

――政府はIRを観光振興による成長戦略のひとつと位置づけて、外国人観光客にターゲットを絞り、事業者の選定についても豊富なノウハウを有する外資系企業を想定しているとされます。実際、横浜市については、アメリカ・ラスベガスの大手カジノ企業が進出を狙っているといわれ、和歌山県でも、2019年5月にフランスの大手カジノ企業が日本事務所を開設するなど、外資系カジノ企業の動きが活発化しています。そうした状況についてはどのように受け止めていますか。

河合幹雄 メディアでは、政府はアメリカなどからの要求に押されてやむなくカジノ解禁に踏み切ったかのように報じられていますが、実相はまったく異なるのではないかと見ています。というのも、業界通の警察OBから聞いた話を総合すれば、日本においてカジノが解禁されたのは、外圧うんぬんではなく、やはりパチンコ業界の強い要望があったからだ、と。つまり、ギャンブル離れの著しい若年層を再び取り込みたいという、パチンコ業界の思惑によるところが大きいというわけです。

 事実、国会においてカジノ解禁を強力に推進した国際観光産業振興議員連盟(IR議連)には、自民党の野田聖子元総務相や竹本直一内閣府特命担当相など、パチンコの業界団体・パチンコチェーンストア協会の「政治分野アドバイザー」を務める大物議員が多数名を連ねています。政府としては、パチンコ業界のそうした思惑が前面に出てしまうと国民のいらぬ反発を招くので、表向きは外圧に負けてしぶしぶカジノを解禁したように見せたい。パチンコ業界の監督官庁である元警察関係者の話ですから、信憑性はそれなりに高いと思いますね。

横浜市の“方針転換”にトランプの影

――2019年8月、横浜市の林文子市長は、IR誘致に対する姿勢を従来の白紙から推進へと方針転換。これに対し、候補地の山下ふ頭の利用業者でつくる横浜港運協会の会長で、誘致に強く反対している「ハマのドン」こと藤木幸夫氏は、会見を開き、林市長の変節の背景にはアメリカの圧力があったことを示唆しました。

河合幹雄 藤木氏は父親の代から横浜市を仕切り、横浜エフエム放送の代表取締役社長や横浜スタジアムの取締役会長を務める実力者で、林市長の後援会長でもありますから、裏切られたという思いはあると思います。ただし会見では、「林市長に顔に泥を塗られた」と不快感を示しつつも、「泥を塗らせた人がいる。ハードパワーを感じる」と述べ、林市長の背後に菅官房長官、さらにその裏にアメリカのトランプ大統領の存在があると暗に指摘し、林市長に対する同情も示しています。

 確かに、横浜市における運営事業者の最有力候補とされる、アメリカのIR運営会社ラスベガス・サンズのCEOは、トランプ大統領の最大の支持者で、2016年11月、当選直後のトランプ大統領と安倍晋三首相のトランプタワーでの会談を実現させたとされる人物です。藤木氏の発言が、そうした事実を踏まえた本心からのものなのか、実は日本のカジノ解禁がパチンコ業界の意向によるものだということを知りながら、あえてそれを隠すために述べたものなのかはわかりません。

 ひとついえるのは、林市長や、横浜市を地元とする菅官房長官は、藤木氏の協力なくして横浜市で事業をするなど不可能だと重々承知のはずだ、ということ。とすれば、誘致を正式表明した以上、藤木氏を説得して仲間に入れる算段はすでについている、と考えるのが自然ではないでしょうか。ただ、戦前生まれの藤木氏は、“戦争バンザイ”の安倍政権を嫌っているようですし、やはりきちんとした“思想”のある人ですから、安々とそれに乗るかはわかりませんが。

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どうしてもネガティブなイメージが付きまとうカジノ産業。(写真はGetty Imagesより)

パチンコ産業の巨大さは異常

――日本におけるカジノ解禁が、パチンコ業界の意向によるものだというのが事実だとして、果たして今後、その思惑通りにうまくことが運ぶでしょうか。

河合幹雄 最初に最大3カ所開設されるIRについては、外資系企業を運営事業者に選定するのが既定路線ですが、最終的に国内のIRの数は10カ所程度まで増やされるとの見通しもあります。パチンコ業界がそこへ食い込んでいけば、ある程度の成功を収めることはできるでしょう。

 しかし、政府の掲げる観光立国とか、成長戦略の一環とか、そういうレベルでの成功はまったく望めないと思います。なぜなら、わが国のIRは、ビジネスとして成功するための戦略や構想というものを完全に欠いたまま進められてきたからです。そもそも2016年12月に成立したIR推進法からして、誰をターゲットとしてどんなカジノを誘致するのか、という具体的な方針はまったく示されていなかった。横浜市への誘致に熱心な菅官房長官にしても、おそらく最終的な成功にはさほど関心はなく、建設時に地元の業者が潤えばいい、という程度の考えなのではないでしょうか。

 それにそもそも、カジノの売上高というのは、世界トップのマカオでさえせいぜい4兆円程度。それに対して日本のパチンコ・パチスロの市場規模は、ピーク時の30兆円からすれば減少したとはいえ、2018年時点でまだ19兆5000億円もある。要するに、パチンコと比べれば、カジノに期待できる売上など、もともとたかが知れているわけです。カジノで若年層を取り込み、かつての栄華を取り戻したい、などというパチンコ業界の目論見など、うまくいくはずがないと思いますね。若者は皆、貧乏だし、ゲームのほうが興味あるのではないでしょうか。

(構成=松島 拡)

河合幹雄

河合幹雄

1960年生まれ。桐蔭横浜大学法学部教授(法社会学)。京都大学大学院法学研究科博士課程修了。社会学の理論を柱に、比較法学的な実証研究、理論的考察を行う。著作に、『日本の殺人』(ちくま新書、2009年)や、「治安悪化」が誤りであることを指摘して話題となった『安全神話崩壊のパラドックス』(岩波書店、2004年)などがある。

Twitter:@gandalfMikio

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