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藤野光太郎「平成検証」IRカジノ解禁の真実(4)

カジノ管理委員会の致命的な欠陥…職員の異動を規制しない“ザル法”の実態

文=藤野光太郎/ジャーナリスト
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安倍晋三首相(中央)(「首相官邸HP」より)

第1の欠陥――「推進する政府」と「規制する機関」が最初から骨がらみ

 世の中には、ただでさえ「カネにまつわる事件と犯罪」があふれている。もし、民設民営の巨大カジノビジネスに対する行政の監視が甘ければ、カジノは無数の事件や犯罪を引き寄せ、国民にはうかがい知れない複雑・巧妙な贈収賄による疑獄、金融犯罪などの温床となる。

 巨大なカネは権力そのものであり、政官は容易にその力に屈しがちだ。特に、深層で巨額のカネと政治/行政の権力が共謀すれば、仮に事犯が発覚して摘発され世に報じられたとしても、国民に伝えられる“結末”は単なる「尻尾切り」にすぎない場合が少なくない。

 本連載の初回から述べてきたように、IRカジノを本気でメディアが注視するのであれば、これを監視する「カジノ管理委員会」にまずは焦点を当てる必要がある。国民に代わってカジノビジネスを管理・監督・監視すべき権能が一手に与えられた同委員会の職責は重く、国民の猛反対を無視して禁断の扉を開いた安倍晋三内閣と同委員会は、彼らが高らかにうたった「廉潔性の確保」を字義通りに全うせねばならない。

 しかし、前回までの記事で筆者は、カジノ管理委員会が「素人目にも穴だらけ」で、「いくつもの重大な欠陥・問題を孕んで」おり、「職責を全うできるか」は疑わしく、今のままでは「管理・監督・監視にはならない」と書いた。監視機関が「欠陥だらけ」であれば、国民に公言した「廉潔性の確保」を全うすることはできない。

 カジノ管理委員会は、公正取引委員会や国家公安委員会などと同じく、「内閣府設置法」に基づき内閣府の外局として設置された。それらは、国家行政組織法に基づき環境省の外局として設けられた原子力規制委員会や、同じく法務省の外局である公安審査委員会などと同じ「行政委員会」であり、独立した巨大な権能を与えられている。

 2011年3月11日に東京電力が起こした「東京電力福島第一原発事故」を機に、日本の国民と政府は、いくつもの教訓を“学んだはず”だった。その主要なひとつが、原発を「推進する政府」と「規制する機関」とを明確に分離することである。長年、原発を推進してきた政府は、その規制機関を事実上、傘下に置いて牛耳ってきたことで、天下りや贈収賄による癒着にまみれた原発を「安全神話」で偽装し、その結果として「3.11巨大原子力災害」を引き起こしたからだ。

 事故後の現在、環境省の外局に設置された原子力規制委員会には、カジノ管理委員会と同じく任期5年の委員が5人置かれている。その職責は言うまでもなく、「独立した行政権限による原発の安全規制」だ。「推進」と「規制」が骨がらみにならぬよう、「職員の異動」や「民間登用」を規制し、省庁から規制庁に異動した職員が出身官庁に戻ることを「ノーリターン・ルール」で禁じた。

 また、原子力を推進する民間の組織・団体・企業から登用した職員の出戻りにも同様のルールが適用された。そうした機構上の刷新によって、少なくとも表面的な「形式的な分離」を示したわけだ。

 とはいえ、昨年9月1日に施行した「原子力規制委員会設置法」で「原子力規制庁の職員の原子力利用推進に係る事務を所掌する行政組織への配置転換を認めない」と“出戻り”を禁じていたにもかかわらず、わずか1カ月後に政府は、「原子力の仕事に直接関与する部署以外であれば(出戻りを)認める」と運用ルールの解釈を変更した。設置法は3.11原発事故の教訓を蔑ろにするザル法と化したのである。

 ところが、内閣府の外局として設置されたカジノ管理委員会には、最初から職員の異動に関する「形式的な分離規制」さえ設けられていない。原発の規制委員会と同じく、カジノの規制機関も天下りや贈収賄での馴れ合いを回避するためには当然、「政府から機関分離」する必要があったはずだ。

 その厳格性を欠いたまま始動した同委員会は、人事や運営以前に、「組織そのもの」が起動時点ですでに緩々なのである。警察庁や国土交通省から異動してきた職員は、出身官庁に戻ることもカジノ関連産業に異動することも事実上、不可能ではない。

 周知のように、IRカジノ法を閣法として起案し、国会で合法化した安倍晋三内閣は、経済再生のための数多ある政策案を打ち捨てて、日本史上初の「外資を含む民間カジノ業者による賭博の合法化」を強行採決した。「カジノが財源を潤す」との名目で法制化されたIRカジノ法は、それを起案した政権による「民間賭博ビジネスの奨励」を命題として抱えている。

 外資含みの民間企業によるカジノ賭博の振興で業者に稼がせたカネを期待することが法の目的とされているからには、それを規制・抑圧すれば辻褄が合わなくなる。従って、政府から異動してきて、いずれは政府に戻ったりカジノ関係組織等へと流れていく可能性が大きい職員は当然、将来の異動先で「減点」となるような“厳格規制の実行”には腰が引ける。

 つまり、カジノを規制する行政組織が「職員の異動先を無規制」としたことは、規制機関としての致命的欠陥なのである。最初から原子力規制委員会設置法と同じ「ザル法」ということだ。仮に、政権を揺るがすような巨大疑獄が察知されたとしても、組織そのものが人事面で政権に牛耳られた現在のカジノ管理委員会には、はじめから手も足も出ないのである。

 その結果、規制対象の背後に潜む巨大な「力」の影が大きければ大きいほど、事犯を一瞥した瞬間に、職員や管理職が目を背けがちになる。逆に、それが“許容範囲”の相手であれば、厳しい規制と処断に躊躇することはない。「規制」と「推進」を分離しなければ、そうした歪な“監視”が必然であることは十分に想定内だったはずである。

(文=藤野光太郎/ジャーナリスト)

(以下、次稿)

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