過去にも散々あった「橋下徹はヒトラー」論争、今回だけ維新が激怒の裏事情
国会議員秘書歴20年以上の神澤志万です。
コロナ禍の下、衆議院では連日予算委員会が開かれていますが、なかなか建設的な質疑はありません。たまに岸田文雄首相の声が大きくなると「机たたき反論」などと書かれたりしていますが、通常の議論の範囲内であり、特別に激高したわけではないです。
つまり、ネタがないんですよ。永田町で話題に上ることといえば、予算委員会の質疑内容よりもトラブルネタばかり。国会議員は当選したら「国民のため、日本のため、よりよい未来を創造するために……」と目標を持つはずですが、腹の内を明かさず、駆け引きばかりで性格がねじ曲がった人が多いなあ、と思うことも少なくありません。これでは投票率が下がるのも当たり前ですよね。
菅元首相のヒトラー発言に維新が猛抗議
こうした永田町のドロドロを象徴しているのが、立憲民主党の菅直人元首相の「ヒットラー発言」騒動ですね。菅元首相が1月21日にツイッターで「橋下氏をはじめ弁舌は極めて歯切れが良く、直接話を聞くと非常に魅力的。しかし『維新』という政党が新自由主義的政党なのか、それとも福祉国家的政党なのか、基本的政治スタンスは曖昧。主張は別として弁舌の巧みさでは第一次大戦後の混乱するドイツで政権を取った当時のヒットラーを思い起こす」と書いたことが炎上したのです。
このツイートに日本維新の会が激怒、2月1日に馬場伸幸共同代表が菅元首相の事務所を訪れ、謝罪と撤回を求めて抗議したことが報じられました。なんかもう、漫才を聞いているかのようにおもしろいですね。
菅事務所と馬場事務所はお隣同士なので、いつでも抗議はできたはずですが、維新は立民の泉健太代表あてに抗議文を出しています。泉代表が、大先輩である菅元首相に何も言えないことを読んでいたんだと思います。案の定、泉代表は何も言っていないようで、今回の「直接抗議」に至ったようです。
一方で、維新もおかしいんですよ。たとえば、橋下徹氏は政界から引退され、今は維新に籍はありませんが、以前からヒトラーに例えられ続けてきました。亡くなられた石原慎太郎元都知事や評論家の西部邁氏、さらにはナベツネこと渡邉恒雄・読売新聞グループ本社代表取締役兼主筆からも「ヒトラー呼ばわり」されていたんです。
今回、ここまでこじれてしまったのは、泉代表がスルーしているからだといわれています。実は維新はそんなに怒っていなくて、菅元首相の浅慮と、それを正せない泉代表の不甲斐なさをアピールするのが狙いらしいです。いわれてみれば、そんな気もします。
長老議員が新人女性議員にパワハラ恫喝?
泉代表のように、立場があっても大先輩を叱れない例は、国会では枚挙に暇がありません。先日も、ある政党の国対(国会対策委員会)の部屋から、男性議員の怒鳴り声が廊下まで響いていたそうです。国対室ですから、政策闘争や権力闘争の末の怒鳴り合いかと思いきや、聞こえてくるのは男性の一方的な怒鳴り声、しかも国会議員が使用すべきではない言葉ばかりだったとか。
居合わせた議員によると、「長老的な立場の議員による女性の新人議員へのパワハラ」で、ほどなく政調会長やラグビー経験者の屈強な体格の議員が間に入って止めたそうです。
噂はすぐに広まり、神澤にも聞こえてきたわけですが、その女性議員は「人格を徹底的に否定され、秘書の悪口も言われた」と涙ぐんでいたそうです。仮に女性議員に落ち度があったとしても、怒鳴り散らすことはないと思いますが、実は永田町では珍しくありません。特に、シニアの議員ですね。事務所の人は大変だなと思いますが、なんでこんな人が当選するんでしょうね。
このパワハラ議員も、「長老」なので、党の幹部から特に注意されなかったそうです。どこの政党も情けないですね。
辻元清美氏は参院選出馬で当選確実か
なんだか永田町の「大人げなさ」ばかり書いてしまいましたが、そんな永田町の住人たちの今年最大の関心事は、なんといっても7月の参議院選挙です。国会延長などがなければ、7月10日に投開票となります。過去の政権交代も参院選の敗北がきっかけになっていますから、わりと緊張感があります。コロナの対策で国民の不満が募っていますからね。
すでに立候補予定者の名前も挙がっていて、昨年の総選挙で落選した立憲民主党前副代表の辻元清美氏の「参議院鞍替え」が話題になりました。比例代表で出るそうです。辻元氏については、「大阪府選挙区からか、大阪を捨てて当選しやすい全国比例か」と注目されていました。大阪は維新の勢いがあるので当選の可能性は五分五分でしょうが、全国比例だと知名度もあるし、支援してくれる労働組合もあるので、当選確実と見られています。
ただ、辻元氏は大阪で衆議院議員を7期も務めていますから、「大阪にとどまるのでは?」という指摘もありました。選挙は終わるまでわかりませんが、「より確実に国政に戻れる手段を選んだ」と冷静に見られています。
辻元氏は小泉純一郎首相(当時)や鈴木宗男議員に舌鋒鋭く迫る姿が印象的ですが、出馬表明は「涙の記者会見」となりましたね。これには「やめとけばいいのに」という声が圧倒的多数でした。特に地元・大阪では「もう地元では人気がなくメッキがはがれているが、あまり接点のないよその地域は知名度で辻元を選んでしまうかも?」などと言われているようです。NPO団体出身議員として、バックパックにスニーカーで登院されていた原点に返ってがんばってほしいです。
辻元さんは早大卒ですが、高校卒業後はいったん就職されるなど、家庭環境が裕福でないことが知られており、それをテレビのバラエティ番組で話したそうですね。同情した人も多かったようです。好感度アップでよかったと思っていたら、参院選出馬会見とタイミングが合いすぎですよね。
これについては立民議員たちも「計算高いなあ」と呆れていましたが、バラエティ番組に出られるのも知名度があってこそですよね。とはいえ、支援者さんたちも「最初からシナリオができとったんか。やられたと思ったわ」とおっしゃっていました。ネットの反響も微妙ですしね。
ちなみに、あの山尾志桜里元衆議院議員が国民民主党から東京都選挙区で出馬するとの噂もあります。国民民主は都民ファーストの会と手を組んだので勝算があるかもしれませんが、どうなるのでしょうか。
参院選に向けて各党が動き出していますから、またご報告します。お楽しみに。
(文=神澤志万/国会議員秘書)
『国会女子の忖度日記:議員秘書は、今日もイバラの道をゆく』 あの自民党女性議員の「このハゲーーッ!!」どころじゃない。ブラック企業も驚く労働環境にいる国会議員秘書の叫びを聞いて下さい。議員の傲慢、セクハラ、後援者の仰天陳情、議員のスキャンダル潰し、命懸けの選挙の裏、お局秘書のイジメ……知られざる仕事内容から苦境の数々まで20年以上永田町で働く現役女性政策秘書が書きました。人間関係の厳戒地帯で生き抜いてきた処世術は一般にも使えるはず。全編4コマまんが付き、辛さがよくわかります。