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大阪は東京の3倍、人口100万人当たりコロナ死者数…重症者は東京より少、なぜ?

文=明石昇二郎/ルポライター
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吉村洋文・大阪府知事の公式Twitterアカウントより

「新型コロナ死者数全国一位」に返り咲いた大阪府

 東京都における今の感染爆発も異常だが、大阪府はそれにも増して危険な状況にあるようだ。2月9日、大阪府が不名誉なこと極まりない「新型コロナ死者数全国一位」の座に返り咲いた。この日、公表された東京都の死者数は11人であり、累計で3269人となったのに対し、大阪府は31人で累計は3278人となり、東京都を9人上回った。

 以来、ワーストの座をキープし、その差も日々広がり続けている。感染「第5波」下にあった昨年5月16日、15人の死者が確認された大阪府の累計死者数が1958人となり、同日までの東京都の累計死者数1951人を7人超えていた。以来、昨年10月6日までのおよそ5カ月もの間、大阪府はワーストの座にあったのだが、それ以降は東京都が抜き返していた。ワーストに返り咲いたのは、その時以来のことだ。

 言うまでもなく大阪府は、東京都よりも人口が少ない。今年1月1日現在の推計人口は、東京都が1398万8129人であるのに対し、大阪府は879万7153人と、その差は1.6倍。にもかかわらず、大阪府の死者数のほうが多いのである。いったい今の大阪で何が起きているのか。

東京では「80人に1人」でも大阪では「62.7人に1人」

 2月10日、東京都のモニタリング会議で専門家が、「現在、都民のおよそ80人に1人が検査陽性者として、入院・宿泊・自宅のいずれかで療養している」と発言し、世間を驚かせた。では、大阪府でこの値はどうなっているのか。2月12日時点の数字で筆者が計算してみたところ、大阪府で入院・宿泊・自宅のいずれかで療養している人は14万254人であり、今年1月1日現在の大阪府の推計人口は879万7153人なので、62.7人に1人が新型コロナで療養中――ということになる。

 比較の意味で同じ日の東京都の値も計算してみたが、2月12日現在、入院・宿泊・自宅のいずれかで療養している人は17万8808人であり、今年1月1日現在の東京都の推計人口は1398万8129人なので、78.2人に1人が新型コロナで療養中――ということになる。2月10日の時点よりも若干悪化しているが、それでも大阪府のほうがひどい値だ。

 NHKが報じたところによれば、直近1週間(2月4日から2月10日まで)の「人口10万人当たりの感染者数」を見ても、大阪府は全国で最も多い1031.05人と、全国で唯一1000人を超えているのだという。現在の大阪府は、新型コロナウイルスに感染する頻度が日本一高い地域なのである。だから新型コロナ死者数も全国一位なのか。

感染した入所者を家族に引き取らせる介護施設

 ただし、重症者数は大阪府より東京都のほうが多い。国の基準で集計した重症者数は2月12日現在、大阪府の193人に対し、東京都は611人。東京都の3分の1である。にもかかわらず、大阪府の死者数のほうが多いのは、大阪府の医療現場が今、危機的な状況下にあることを示すシグナルなのか――。

 と考えていたところ、2月12日のTBS『報道特集』が、まさにその「大阪府の新型コロナ死者」問題を取り上げた。2月11日までの10日間における人口100万人当たりの新型コロナ患者の死者数は、東京都が6.0人であるのに対し、大阪府は21.7人と、3倍以上にもなっているのだという。

 同番組では、大阪府民の感染者が医療にたどり着けていない現状をレポートしていた。クラスターが発生した大阪府内の介護施設に医師の往診チームが訪れると、その前日、間に合わずに100歳の入居者が亡くなっていた。保健所の手が回らず、この介護施設で陽性患者を確認してから10日以上が経っても治療を受けられずにいたのだという。この施設では、医療に携わった経験のない介護職員まで感染者の看護に借り出され、疲弊していた。

 驚かされたのは、クラスターが発生した高齢者施設から、感染した80代の親を自宅に引き取るよう要請され、離れて暮らしていた50代の娘が、実家で親の介護に当たっていたシーンだ。娘さんは、実家を訪問した医師に対し、「私、『濃厚接触者』になりに来た。自ら火の中に飛び込んできた」と嘆く。今回の「第6波」でもまた、大阪の医療体制は崩壊していた。

 一方、番組には、保健所ではなく専門の医師が入院調整に当たり、持病のある高齢患者の救命に成功している沖縄県の医療現場も登場。大阪府の現状と比較される。

 こうした例をはじめとして、「第6波」で各地の自治体では、感染爆発で保健所が機能不全に陥る中、地域の開業医や薬局などが保健所の仕事を手分けしてサポートし、入院できずに「自宅療養」をする患者を地域一帯で見守り、重症化を防ぐ取り組みが実践されている。パンクした保健所の実情を踏まえた取り組みは、言うなれば“オミクロン・シフト”である。

 ところが大阪市には保健所が1つしかなく、270万人もの大阪市民の感染症対策を、ここが一手に引き受けているのだという。保健所の手が回らず、大阪府が「新型コロナ死者数全国一位」となった背景には、この「1つの保健所」問題もあると、『報道特集』は考えていたようだ。

どうすれば、大阪府の死者数を減らせるのか

 その『報道特集』に対し、放送2日前の2月10日、会見の場で同番組の質問を受けていた吉村洋文・大阪府知事が嚙みついた。同日、次のようなツイートを発信したのだ(原文ママ)。

吉村洋文大阪府知事)

「維新が保健所を減らした!」というネット上のデマを、全国放送の記者から質問がありました。維新府政市政で保健所を減らしたことはありません。府保健所を中核市に順次移行していますが、これはあるべき姿で、数も減っていません。府内の常勤保健師数も減っていません。逆に増えています。詳しくは↓

「全国放送の記者」とはおそらく、『報道特集』キャスターの金平茂紀氏のことを指しているのだろう。そして番組放送後、吉村知事の支持者や大阪維新の会の支持者らが、SNS上で猛然と『報道特集』批判を繰り広げていた。

 だが、大阪府が危機的状況にある今、考えなければならない問題は、「どの知事が保健所や保健師の数を減らしたのか」について責任追及することではなく、

「どうすれば、感染者の増加に感染者数の入力作業がついていけずに1万2700件もの入力漏れが発生するような事態を防げるのか」

「どうすれば、保健所による健康観察の対象を原則65歳以上に限定するようなことをしなくて済むのか」

「どうすれば、高齢者施設で療養している新型コロナ患者の症状が悪化した場合に、すぐに119番通報するのを控えるようなことをしなくて済むのか」

そして

「どうすれば、大阪府の死者数を減らせるのか」

なのである。本稿でも触れたとおり、『報道特集』も保健所の数だけを問題視していたわけではない。

大阪府は、こうした問いかけに対する答えを持ち合わせていないから、今の悲惨な状況がある――と考えるのが自然だろう。

(文=明石昇二郎/ルポライター)

明石昇二郎/ルポライター、ルポルタージュ研究所代表

明石昇二郎/ルポライター、ルポルタージュ研究所代表

1985年東洋大学社会学部応用社会学科マスコミ学専攻卒業。


1987年『朝日ジャーナル』に青森県六ヶ所村の「核燃料サイクル基地」計画を巡るルポを発表し、ルポライターとしてデビュー。その後、『技術と人間』『フライデー』『週刊プレイボーイ』『週刊現代』『サンデー毎日』『週刊金曜日』『週刊朝日』『世界』などで執筆活動。


ルポの対象とするテーマは、原子力発電、食品公害、著作権など多岐にわたる。築地市場や津軽海峡のマグロにも詳しい。


フリーのテレビディレクターとしても活動し、1994年日本テレビ・ニュースプラス1特集「ニッポン紛争地図」で民放連盟賞受賞。


ルポタージュ研究所

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