映画『ダイ・ハード』シリーズの世界的ヒットにより日本でも人気を博した米俳優ブルース・ウィリス(67)が失語症と診断され、俳優業を引退することを公表し、ファンのみならず多くの人がショックを受けている。この公表により、失語症という病気を初めて知ったという人も多いだろう。失語症について、医療法人社団TLC医療会「ブレインケアクリニック」の名誉院長、今野裕之医師に聞いた。
「失語症とは、言語を司る脳の部位がダメージを受けることで起こる病気です。損傷を受けた場所によって症状が変わりますが、言葉を読む、書く、話す、理解する、繰り返すことなどが困難になります。原因は主に脳出血や脳梗塞などが多いですが、脳腫瘍や脳炎などが原因になることもあります」
失語症は言語障害であり「言葉に関する機能」がすべて低下してしまう。実際の症状は、「人の話を理解できない・話そうとしても言葉が出てこない・言葉を間違える・言葉を上手く発音できない・文字や文が読めない・意味がわからない」といったもので、日常生活を送る上で必要な最低限のコミュニケーションも取れなくなる。失語症によってコミュニケーションが取れない状況に、大きな失望やストレスを感じることになる。
「発症は50代以降に多くなり、日本の失語症の患者数は50 万人を超えるといわれています。発症のほとんどの原因が脳血管障害で、全体の約 90%を占めているという報告があります」
脳梗塞や脳出血、くも膜下出血などによる脳血管障害が起き、失語症を発症するケースが多いが、脳出血の原因となる動脈瘤などは自覚症状がないため、50歳を過ぎたら脳ドッックを受け、予防や治療を行うことも重要だろう。
脳梗塞やくも膜下出血などの大きなリスクは動脈硬化であり、動脈硬化は血管壁を傷つけ出血を引き起こす。動脈硬化の原因となるのが高血圧、脂質異常症、糖尿病などの生活習慣病や喫煙である。食生活や生活習慣の改善、禁煙などによって動脈硬化を防ぎ、脳梗塞や脳出血、くも膜下出血のリスクを下げることができる。
「治療は、その原因によって変わります。原因疾患の治療とともに言語療法士によるリハビリテーションが行われます。仕事を辞めるかどうかはその人の症状の程度やどのような仕事をしていたかにもよりますが、うまく言葉が出てこなくなるようであれば、ブルース・ウィリスさんのように俳優という言葉で表現する仕事の場合、発症前と同じようにこなすことはかなり難しくなると予想されます」
万が一、自分や身近な人が失語症になった際は、「話し、聞く」というリハビリを積極的に行ってほしい。急がずゆっくりと会話や挨拶を行うことで、失語症の進行を抑えることが期待できる。
世界中の人に映画などで感動や夢を届けたブルース・ウィリスが、引退とともに失語症という病気を広く認知させたことは、医療においてもその功績は大きい。リハビリによってブルース・ウィリスの失語症が改善することを祈りたい。
(文=吉澤恵理/薬剤師、医療ジャーナリスト)