子宮頸がんのもっとも大きな原因であるヒトパピローマウイルス(HPV)の感染を予防する「HPVワクチン」に関し、積極的勧奨が再開された。
HPVワクチンは平成25年度から定期接種となったが、副反応の疑いがある症例の報告があり、厚生労働省は同年6月に同ワクチンの積極的勧奨を取りやめていた。それが昨年、副反応の疑いと報告された症状とHPVワクチンに直接的な関連は立証できないという結論に至り、HPVワクチンの接種による有効性が副反応のリスクを明らかに上回るとして、積極的勧奨を再開することとなった。
HPVワクチンについて、有明子どもクリニックの村上典子医師に話を聞いた。
「HPVは子宮頸がん等を発症する原因となります。HPVの感染が長期間に及ぶと、正常とは異なる細胞が形成される異形成やがん化が起こります。HPVは100種類以上の遺伝子型があり、そのなかで子宮頸がんを発症するリスクがもっとも高い遺伝子型はHPV16、18型で進行も早いことがわかっています」
また、HPVウイルスは性感染症を引き起こすことも知られている。
「HPV6、11型では性感染症である線形コンジローマを発症し、低リスクではありますが、がん化の可能性があり注意が必要です」
近年、子宮頸がんは20~30代の若い女性に増加傾向にあり、毎年約1万人の女性が子宮頸がんに罹患し、約3000人が死亡しているとの報告もある。
「現在、日本で承認されているHPVワクチンは、HPV16、18型を予防する2価とHPV6、11、16、18型を予防する4価の2種類で、子宮頸がんの原因の50~70%を防ぐことができます。HPVワクチン接種のスケジュールは、初回接種→2カ月後→6カ月後のタイミングで接種していただきます。個人差はありますが接種完了後、約20~30年間は抗体価が保たれ、予防効果が期待できます。
海外では、9つの型のHPVの感染を予防する9価のHPVワクチンが承認されており、90%以上の子宮頸がんを予防するといわれています。日本でも2020年に9価のHPVワクチンが承認されましたが、公費対象ではなく自由診療のみでの任意接種となります」
9価ワクチンは高価であるが、接種を希望する人が少なくないという。今後、日本でも9価ワクチンを公費対象とする検討を行うべきだろう。
HPVワクチン、男性も接種すべき理由
「HPVワクチンは男性も接種可能であり、海外では男性の接種も進んでいます。男性がHPVワクチンを接種する大きなメリットが2つあります。1つは尖形コンジローマの予防です。もう1つはパートナーへの感染を防ぐことです」
尖形コンジローマは2000年以降増加傾向にあり、HPVワクチンの接種は男性にとっても大きなメリットがあるといえるだろう。しかし、男性のHPVワクチン接種は自費となる。
「私がこれまでHPVワクチンを接種した患者様に副反応が出たケースはありませんが、一般的なHPVワクチン接種に伴う服反応は、接種部位の痛みや腫れ、赤みなどが起きることがあります。アナフィラキシーや神経系の症状が起こることは稀ですが、万が一に備えワクチン接種後15分はクリニック内で待機し、健康観察を行っていただきます」
ワクチン接種時には、副反応とは別に血管迷走神経反射が起き、失神することもある。血管迷走神経反射とは、ワクチン接種に対する不安や緊張が大きい場合に、一時的に脳への血流が減少し起きる症状であり、ワクチンの副反応と区別すべきものである。
子宮頸がんの95%以上はHPVの感染が原因であり、性交渉の経験がある女性のうち50~80%はHPVに感染していると推計される。感染から長い年月をかけゆっくりとがんへと進行していく。女性の人生に大きな影響を及ぼす子宮頸がんだが、ワクチンで防ぐことができる。HPVワクチンの積極的勧奨が中止されていた期間に接種を逃した1997~2005年度に生まれた女性を対象として、公費によるキャッチアップ接種も行われる。
対象となる女性はぜひ、HPVワクチン接種を検討してほしい。同時に、早期発見・治療のために20歳を過ぎたら子宮頸がん検診を受けることが重要である。
(文=吉澤恵理/薬剤師、医療ジャーナリスト)