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木村誠「20年代、大学新時代」

近畿大学が“早慶と並ぶ私大トップブランド”を自称する理由…中堅私大の人気格差

文=木村誠/大学教育ジャーナリスト
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近畿大学本部キャンパス(東正門)(「Wikipedia」より)
近畿大学本部キャンパス(東正門)(「Wikipedia」より)

 産近龍甲(京都産業大学・近畿大学・龍谷大学・甲南大学)や日東駒専(日本大学・東洋大学・駒澤大学・専修大学)は、1980年代に5教科の共通1次試験の導入による受験生の国公立大学離れと、東京など大都市志向の高まりによる私立大学総難化時代の立役者であった。当時から有名私大であったMARCH(明治大学・青山学院大学・立教大学・中央大学・法政大学)や関関同立(関西大学・関西学院大学・同志社大学・立命館大学)に次ぐ中堅私大上位校として、受験生の関心を集めていた。

 ところが、18歳人口の減少や受験生の地元志向の高まり、さらに東京を中心に大学入学定員の厳格化や大学入試改革もあって、その中堅私大の間でも人気の格差が生まれつつある。

 首都圏の日東駒専では、相次ぐ不祥事で長期低落傾向に陥りそうな日本大と、キャンパスの東京都区内回帰で人気が上がっている東洋大とでは対照的だ。関西圏の産近龍甲では、やはり近畿大の躍進が目立つ。

 東洋大と近畿大に共通しているのは、その強い広報力である。他に、グローバルな学風で知られる国際基督教大学、立命館アジア太平洋大学(APU)、神田外語大学も要マークであろう。「THE世界大学ランキング日本版」の国際性の項目でいずれも私大の上位につけており、キャンパスの独自の雰囲気が評判だ。

「早慶近」で私大トップを自称する近畿大

「関関同立」は全国的に通用する関西圏のブランド大学であるが、近年は大阪府立大学と大阪市立大学の統合で誕生した“マンモス”大阪公立大学や、「早慶近」を自称する近畿大に猛追されている印象だ。

 志願者数日本一の近畿大は、1970年から研究が始められ、2002年に完全養殖に成功した「近大マグロ」などで有名になったものの、最近までは「関関同立」などのいわゆる“ブランド大学群”には入っていなかった。かつては中堅私大の雄として「東の日大、西の近畿大」と称されることを目指していたほどだ。ちなみに、日本大は近畿大創業者の世耕弘一の出身校である。

 しかし、昨今では近畿大は「早慶近」と、全国区で私大トップブランドを自称している。その根拠のひとつは、2022年の「THE世界大学ランキング日本版」で、慶應義塾大学601~800位、近畿大と早稲田大学は801~1000位で、私立総合大学で早慶と共に上位トリオに入っているからだ。同ランキングは他にも医療系が主体の私大が名を連ねているが、1000位内にMARCHや関関同立の名はない。そして、MARCH+関関同立の9大学に共通しているのは、医学部がないことだ。

 同ランキングの審査基準は、被引用論文ランキングなど医学部系のある大学が有利になっていると指摘される。近畿大のランキング入りは医学部の存在価値を示したといってよいが、だからといって、近畿大が総合的なブランド力において関関同立を超えたとはいえないだろう。学力偏差値をモノサシに受験生からの評価を見ると、近畿大の各学部は全般的に上昇中ではあるものの、同じ大阪府下の関西大の一部学部とからみ合っている以外は、総じて関関同立レベルには達していないからである。

 近畿大は2022年に情報学部を新設して15学部となった。同学部も志願倍率が10倍を超えており、いよいよ関西圏屈指の有力私大になろうとしているようだ。今後は、お家芸の広報力のみに頼らず、建学の精神「実学教育」の研究教育の分野で「近大マグロ」に続く大きな成果を挙げてほしいところだ。

私学助成金減額の日本大は再生なるか

 東京地裁は、2022年3月29日、日本大の田中英寿前理事長に執行猶予付きの有罪判決を言い渡した。執行猶予付きということもあって、弁護側は控訴しなかった。判決では「国内最大規模の教育機関である学校法人の理事長という立場での犯行」としている。日本大への2021年度分の私学助成金約90億円が不交付となり、日本私立学校振興・共済事業団事業団の規定では、5年間で本来の額より315億円ほどの減収となる可能性がある。さすがの日本大も、かなり厳しい経営になりそうだ。

 田中前理事長は、学部の教育や研究にはあまり口を出さず、大学経営に専念していたという。日本大はもともと学風の違う各学部の独立性が強く、いくつかの単科大学の集合体のようだ、とも言われていた。学生運動が盛んな頃のように大学経営に直接批判を向けさえしなければ、自由に研究や教育できる余地は多く、文理学部や芸術学部のようなリベラルな学風も健在だった。

 ただ最近は、さすがに学内でも田中前理事長に批判的な動きはあったようだ。しかし、学部を超えた教員や学生と連帯した大きな動きにはつながらず、結局は一部理事のブローカーのような動きを許すことになってしまい、資金力を強めた前理事長など大学経営陣の専横が強まる結果となった。

 アカデミックな世界は、制度的なガバナンス改革だけでなく、学内で自由に批判できる全学的な校風を作ることが大切だ。全国に多くの付属高校がある日本大は学内進学者を多く抱えているので、志願者はそうは減らないだろう。2022年の一般選抜の志願者で見ると、さすがに7700人弱減り、前年比8%減(大学通信調べ)であったが、この数字は、中央大の受験料実質値上げによる1万5000人減少の前年比19%減よりは少ない。

 私学助成金の減額分を持ちこたえ、改革によって教育研究に力を注いで学内に自由闊達な学風が広がれば、再生の道は期待できそうだ。

国際性の高さで注目の私大3校

 2022年の「THE世界大学ランキング日本版」で、国際性が高い私大として注目できるのは、国際基督教大・立命館アジア太平洋大・神田外語大であろうか。

 最近、秋篠宮家出身の眞子さんとパートナーの小室圭さんの出身校で有名になった「ICU」の略称で知られる国際基督教大は、他の中堅私大とは別格の印象だ。専任教員の40%近くが外国籍という事実に裏付けされるグローバルな校風で、日本人学生は英語で議論できるレベルを目指す「リベラルアーツ英語プログラム」が卒業の要件となっている。

 大分県別府市にある立命館アジア太平洋大は、海外からの外国人学生が多く在籍している。就職の実績面や受験生の評価ともいえる学力偏差値は“イマイチ”の印象もあるが、国際色豊かで、外国人教員の割合が50%近い。留学生の中には、帰国後に母国の大学教員になった者もいると聞く。

 神田外語大は、2022年の「THE世界大学ランキング日本版」で「教育充実度」では全国私大3位、「国際性」では同16位にランクイン。キャンパスの国際色というより、外国語教育のノウハウとその実績を買われている。グローバル・リベラルアーツ学部は、短期留学と3年次の長期留学など2回の留学が必須で注目されている。同学部に入学直後の6カ月間は「グローバル・チャレンジ・ターム」と呼ばれ、2021年度から三菱みらい育成財団の「21世紀型 教養教育プログラム」に採択されている。

 このように、MARCHや関関同立などの有名大学でなくても、よく調べれば自分を伸ばせる中堅クラスの私大は少なくない。
(文=木村誠/大学教育ジャーナリスト)

木村誠/大学教育ジャーナリスト

木村誠/大学教育ジャーナリスト

早稲田大学政経学部新聞学科卒業、学研勤務を経てフリー。近著に『ワンランク上の大学攻略法 新課程入試の先取り最新情報』(朝日新書)。他に『「地方国立大学」の時代–2020年に何が起こるのか』(中公ラクレ)、『大学大崩壊』『大学大倒産時代』(ともに朝日新書)など。

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