金融と家電量販店の異色のコンビが3年で“喧嘩別れ”となった。
家電量販店大手ノジマはスルガ銀行との資本・業務提携を解消し、スルガ銀行株をすべて売却した。ノジマはスルガ銀の発行済み株式の18.46%保有する筆頭株主だったが、関係を断った。売却額は174億円に達する。ノジマは提携を解消したのは「経営に対する考え方に大きな違いがあったから」だとした。他方、スルガ銀は「ノジマから保有する当社株式を処分したと申し入れがあった」と、表面的な事情を説明するにとどめた。
スルガ銀の経営危機が両社を急接近させた。シェアハウスなどをめぐる組織的不正が発覚し、スルガ銀は窮地に陥った。ノジマは19年5月、スルガ銀と業務提携し、10月、スルガ銀の創業家である岡野家から13%の株式を140億円で買い取った。以前から保有していた分と合わせて18.52%(当時)を握る筆頭株主に躍り出た。20年6月の株主総会でノジマの野島広司社長がスルガ銀の副会長に就き、ノジマはスルガ銀を持ち分法適用会社に組み入れた。
筆頭株主になったノジマは20年4月、生え抜きの有國三知男社長(当時)を辞任させ、元栃木銀行副頭取の鷹箸一成氏を新しい社長とする人事案を水面下で提案した。野島氏を含めた複数が社外取締役となり、指名委員会、報酬委員会の委員長ポストを求めるなど、事実上の経営支配を目論んだ。
スルガ銀側は佐川急便の持ち株会社SGホールディングス出身の嵯峨行介氏を新社長に据え、ノジマの要請をことごく拒否。野島氏だけを社外取締役副会長に迎えた。役員人事をめぐる抗争は21年6月の株主総会を前に再び火を噴いた。巻き返しを図るノジマは、社長を含め取締役の過半をノジマ側が提案する役員に入れ替えるよう迫った。ノジマのスルガ銀に対する最後通牒である。
スルガ銀の経営陣はこの要求を拒絶。前社長の有國会長は退任するが、嵯峨体制の続投を決定した。返す刀で野島氏の副会長の退任を取締役会で決めた。スルガ銀から肘鉄を食らったノジマは資本・業務提携の解消を申し入れ、スルガ銀を持ち分法適用会社から外した。これ以降、“協議離婚”の交渉が続き、ようやく22年3月に離婚が成立したということだ。
「ノジマが第2の岡野家になることを警戒した」というスルガ銀幹部の発言の真偽のほどは
スルガ銀は静岡県沼津市の相互扶助組織を源流とし、1895年に設立された。初代頭取からずっと岡野家の出身者がトップの座を占めてきた。1985年、頭取に就いた岡野光喜・前会長は30年以上にわたって経営トップに君臨し続けた。
シェアハウス「かぼちゃの馬車」やワンルームマンションへの融資で、審査書類の改ざんや契約書の偽造といった不正行為が横行した。不適切融資の規模は1兆円超に達した。18年10月、金融庁から融資業務の一部停止を含め業務改善命令を受けた。岡野前会長ら当時の経営陣は引責辞任した。
創業家のファミリー企業が融資を受けた450億円の返済は滞ったままだった。ガバナンス不全の元凶は創業家、岡野家への忖度とファミリー企業への情実融資にあると判断した金融庁は、「岡野家との決別」を要求した。
こうしたどん詰まりの状況をノジマが救ったのである。ノジマが創業家が所有していた株式をすべて買い取ることにより、創業家は株式売却で得た資金と手持ち不動産の売却を原資にスルガ銀行からの借り入れを完済した。
スルガ銀幹部は「ノジマが第2の岡野家になることを警戒した」と言っているが、ノジマは経営破綻寸前のスルガ銀を救済したわけで、金融庁もそれを多とした。それでも金融庁は本音では「ノジマが銀行経営に乗り出すことは良しとしていなかった」(関係者)。一方、野島氏が「経営権を握って当然」と考えたとしても、資本の論理としては間違っていなかった。金融庁のトップが「(スルガ銀を)地銀のモデル行だ」と持ち上げたりしたこともあって、スルガ銀行の経営のカジ取りに金融庁は細心の注意を払っていたわけだ。ノジマも銀行とメーカーの違いについて理解が足りなかったのかもしれない。メーカーなら純粋な資本の論理で支配できただろう。
スルガ銀側は最初から最後まで、したたかだった。「ノジマの金は欲しいがノジマに銀行を経営してもらいたいとは言っていない」という立場を貫いた。一言で言ってしまえば「銀行の経営に口を出すな」だった。だから双方の思惑の違いが解消することはなかった。溝はどんどん広がっていった。異業種タッグは何の成果をあげることはなく、空中分解した。
新生銀行の傘下に入るのか
今後の焦点は、スルガ銀がノジマから引き取った自己株式をどうするかである。当面、保有し続ける意向という。スルガ銀は不正融資問題に関連し、訴訟リスクを抱えたままだ。ノジマに代わる新たなパートナーを探し出し、資本・提携することもあり得る。その場合、自己株式を買い取ってもらい、ニューマネーを手にするつもりだろう。
金融筋によると「新しいパートナーとして新生銀行が有力視されている」という。北尾吉孝社長が率いるSBIホールディングス(HD)は21年12月、新生銀行を株式公開買い付けで手に入れた。新生銀を「第4のメガバンク」構想の中核に据える。第二地銀をSBIはグループ化して数だけ多くなったが、本当に戦力になる地銀、第二地銀は存在しないのが実情だ。そこで、SBIグループ入りした新生銀がかつての高収益銀行だったスルガ銀行に目をつけたという解説がついている。
「新生銀もスルガ銀も、銀行という皮をかぶっているが、一皮むけばノンバンク。新生銀は消費者ローンの会社だし、スルガ銀も個人向けローンで稼いできた。似た者同士で親和性があるのではないか」(有力地銀の頭取)
金融業界では剛腕として知られる北尾氏が率いるSBIHDだけに、新生銀の傘下に入るつもりなら、スルガ銀にはそれなりの決意が必要になる。
(文=Business Journal編集部)