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小林敦志「自動車大激変!」

日産&三菱の「軽EV」はEV普及が進まない日本の車事情を変えるのか?

文=小林敦志/フリー編集記者
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日産の「サクラ」(「日産の公式サイト」より)
日産の「サクラ」(「日産の公式サイト」より)

 2022年5月20日、軽自動車規格となる新型BEV(バッテリー電気自動車)、日産「サクラ」と三菱「eKクロス EV」が発表された。日産は2019年に開催された第46回東京モーターショーに、そして三菱は2022年1月に開催された東京オートサロン2022においてコンセプトカーを出品しており、その正式発表に注目が集まっていた。

 筆者が感じているだけでなく、世の中的にも、世界の自動車メーカーが積極的にBEVをラインナップしていく中、日系メーカーがBEVのラインナップで出遅れているのではないかということは、すでに周知の事実のように見える。今さら欧米や韓国メーカーの後を追うように、たとえばSUVタイプBEVや高級BEVのラインナップを行ったとしても、よほど“日系BEV”としてのインパクトが大きくない限りは、後追いイメージを拭うことはできないだろう。

 これは性能などではなく、内燃機関車で中国メーカーがいくらがんばったとしても、“所詮は後追いだ(現状では日本車とはいい勝負をしているようにも見えるが)”というイメージを持たれ続け、いつまでたっても欧米や日本、韓国メーカーより、ある意味“格下”に見られてしまっていることに近いことが、BEVでは日系メーカーで同じことが起こるかもしれないと筆者は不安を感じている。

 かつて日本車が世界を席巻し始めた頃、日本車といえばコンパクトで燃費もよく、壊れにくいということで注目された。日系BEVとしては日本車の原点回帰ではないが、コンパクトサイズで良質なBEVの供給こそが出遅れ挽回を牽引していくものと考えるし、業界内でもそのような話は出ている。

 グローバル市場も考えれば、当時の日本の軽自動車よりやや大きかった、かつての韓国の軽自動車規格ぐらいのサイズで、今のガソリンエンジンを搭載する軽自動車並みの快適装備の充実や質感、性能を備え、トールワゴンスタイルだけでなく、SUVなど多彩なラインナップを揃えれば、少なくともASEANなど世界の新興国では勝機があるのではないかと考える。

 今や世界レベルで新車販売の状況を見れば、新興国市場の方が“伸びしろ”があるし販売台数も期待でき、世界の主要メーカーも重要市場と位置付けているのだから、そこに特化してもいいのではないだろうか。

「軽EV」強調は諸刃の剣?

 話を今回の軽規格の新型BEVに戻すことにする。現状で日産や三菱のプロモーションを見ていると、“軽EV”ということを強調しているように見える。登録車に対し、維持費も安い軽自動車というカテゴリーが存在する日本では仕方ないのかもしれないが、このプロモーションは諸刃の剣のようにも見える。

“100年に一度の変革期”にあるとされる自動車産業の中で、車両電動化が進んでいる。少なくとも日系メーカーより電動車でリードする欧州のBEVを見ていると、内燃機関車と電動車は“似て非なる存在”との立ち位置で電動化に取り組んでいるようにも思える。

 今時、エンジン始動はボタンを押すプッシュスタートが主流だが、ドライバーが任意に“始動”させなくても、乗り込むと自動的にスタンバイ状態になったり、ボンネットが開かないBEVなどが欧州ブランドにはあるが、こんなちょっとした部分でも「やっぱり内燃機関車と違うんだな」と、オジさん世代の筆者でもなんだかワクワクして試乗している。

 まだ日本が元気いっぱいだった頃、携帯型カセットテープ再生機(録音機能があるものもあった)や、温水洗浄便座など生活様式を一変させるような製品を世に送り出し、世界から注目された。温水洗浄便座を開発した様子を取り上げたテレビ番組を見たとき、番組内で開発に携わった人が「それまで世の中になかった新しいプロダクトはワクワクしたものを与えなければ売れない」といったことを語っていた。

 現状のBEVは、まさに内燃機関車からBEVへ乗り換えることによるライフスタイルの変化に対する“ワクワク感”を消費者に与えないと、なかなか普及は進まないだろう。

 このあたりは、そう遠くない時期に軽自動車業界の二大巨頭ともいえるスズキとダイハツが共同開発するともいわれているが、軽自動車規格のBEVをリリース予定としている様子。ガソリンエンジンを搭載する軽自動車を見ても、両社のラインナップは多彩で実にユニークなモデルも多い。ワクワクする軽BEVの登場は、スズキやダイハツにおおいに期待したいところである(日産や三菱の軽自動車の販売規模ではラインナップの多様化は難しく、売れ筋に特化せざるをえない事情もある)。

“軽規格BEVなので補助金込みで200万円を切って買える”ということも強調しているが、現状の軽自動車ユーザーをターゲットにしているのなら、軽自動車ユーザーは確かに日々の維持費などにはシビアなので、その点では燃料がガソリンから電気になることへのメリットはあるが、軽BEVの購入時、いわゆる初期コストはたとえ補助金が期待できるとはいえ、負担が大きい(カスタム系の最上級軽トールワゴンに乗っているユーザーなどは支払総額ベースでは許容範囲なのかもしれないが/軽自動車でも二極化が激しい)。

 販売現場でも「軽自動車ユーザーへのアプローチは難しい」との声も大きい。そして、登録コンパクトカーやそれ以上の大きいクルマに乗っている人のダウンサイズニーズが期待できるとしている。

47万円の低価格で衝撃を与えた初代アルト

 ただし、今回登場した2車は“軽自動車=街乗り”と割り切り、1回の満充電による航続距離は日産「リーフ」の半分ほどになっている。しかし、今や軽自動車は高速道路でもよく見かけ、遠乗りユースも目立っている。“使い方限定”にも見られてしまう軽BEVは、16歳で運転できた軽自動車創世期に“先祖返り”したようにも見えてしまう。

“自宅に充電設備の設置が可能な戸建て住宅に住み、ミニバンなどファーストカーを持ち、セカンドカーとして軽自動車を所有するお客”あたりに的を絞っているような話も販売現場で聞かれたが、その話を聞いて、なんだか47万円という価格で衝撃を与えた(安い)初代「スズキ アルト」がデビューした頃のことを思い出した。衝撃的なデビューを果たし、軽自動車のセカンドカーニーズを見事に開拓したという点では、日本のカーライフに強いインパクトを与えたといっていいだろう。しかし、今回の軽BEVにそこまでのインパクトがあるかといえば、現段階ではそこまで世の中に衝撃は与えていないように見える。

 つまり、欧州BEVでは高級ブランドモデルも多く価格がネックになるし、そもそも日系モデルユーザーが輸入車へ乗り換えるのはまだまだ敷居が高い。といって、日系モデルでBEVといえばほとんど存在しないに等しい。その中で「なんかおもしろいBEVが出てきた」と思わせるのが、今回の新型軽規格BEVではないかと考えている。

 テレビコマーシャルなどを見ていると、ヤングファミリーなど若年層へ強くアピールしようとしているが、意外なほど年配ドライバーも電動車に注目している。そして、年配層は愛車のダウンサイズにも積極的である。しかも、最新トレンド製品としての“ワクワク”感については敏感に反応し、今時の若者よりクルマに対する思い入れが強いので、年配層のドライバーの方が軽規格BEVの存在に注目するといってもいいだろう。

 最近、「ライズ」や「ヤリス クロス」などの登録コンパクトSUVあたりが年配層にもウケているが、これも今までセダンなどを乗ってきた中で、ワクワクした気持ちで運転できそうだと思わせるところも後押ししているのは間違いないものと考えている。

 今回の軽規格BEVは、遅々として進まない日本の車両電動化の突破口になるのではないかと筆者は期待しているのだが、そのあたりの事情については次回に詳述したい。

小林敦志/フリー編集記者

小林敦志/フリー編集記者

1967年北海道生まれ。新車ディーラーのセールスマンを社会人スタートとし、その後新車購入情報誌編集長などを経て2011年よりフリーとなる。

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