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『正直不動産』、なぜ今期No.1の評価?特別番組の前に徹底検証

文=上杉純也/フリーライター
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『正直不動産』、なぜ今期No.1の評価?
『正直不動産』公式サイトより

 この4月にスタートした各局の連続ドラマが続々と佳境を迎えるなか、SNSを中心に“今期No.1ドラマ”と話題になっている作品がある。

 山下智久主演の『正直不動産』(NHK総合)だ。すでに放送は終了しているが、あまりの好評ぶりを受けて、ドラマとしては異例となる3度目の連続再放送が行われ、さらに『正直不動産 感謝祭』と銘打った特別番組が本日放送されることになった。

 そこで今回は、この『感謝祭』をより楽しむべく、本作がなぜこれほど面白かったのか、その理由を徹底考察してみたい。

不動産に詳しくなくても楽しめるストーリー

 まずは本作の簡単な内容から説明しておこう。登坂不動産の営業マン・永瀬財地(山下智久)は、“嘘もいとわない”セールストークで営業成績No.1を維持し続けてきたやり手だった。だがある日、アパートの建設予定地にあったほこらを壊したことから、祟りによって突然、嘘がつけなくなってしまう。

 それまでは客にとってデメリットな事実は巧妙に隠し、得意のセールストークでおいしい情報ばかり並べてきたが、言わなくていいことまでペラペラとしゃべるようになってしまい、毎回毎回お客は大激怒。契約寸前の案件は次々と台なしになってしまう。“正直すぎる不動産屋”となった永瀬は、果たしてこれから生き残れるのか……というストーリーだ。

 つまり本作は、“家を売る人”と“家を求める人”の痛快な人間ドラマである。同時に、不動産に特段詳しくない人でも普通に楽しめる痛快お仕事コメディーなのだ。

 不動産業界を描いているが、不動産業界の“本当の姿”に迫っているかというと、乖離している表現も、ややあるに違いない。だが、それでいいと思う。リアルな姿に迫りたいなら、ドラマではなくドキュメンタリーにすればいいのだから。ただ、その現実との乖離は“実際の警察”と“刑事ドラマでの現実”に似ているといえるだろうか。だからこそ、不動産に詳しくなくても楽しめたのである。

 さらに“事故物件”や“欠陥マンション”など一般の人でも知っているテーマから、“地面師”のような難しいテーマもわかりやすいエピソードを交えてストーリーが進んでいく。そのため、不動産業界の内情部分でも見ているだけで勉強にもなるつくりになっている。おそらく、物件や契約についての豆知識や不動産会社の営業テクニックなどは、我々が家を探す立場になったときに大いに役立つに違いない。

 不動産業界のことが、エンターテイメントとしてちゃんと昇華されているのだ。たとえば、第2話の『1位にこだわる理由』では、ある意味“不動産あるある”の話だった。売主や家主などのオーナーと借主の間にある“お互いの新生活”を始めるに当たっての“不思議なご縁”について、リアルな不動産契約の話と、ちょっぴりいい話を上手に融合させた秀逸なエピソードに仕上がっていたといえよう。

永瀬財地に関する設定の妙

 次は主人公・永瀬財地の設定だ。永瀬は自分が契約を取った土地の地鎮祭で、ほこらを壊したことをきっかけに、その祟りで嘘がつけなくなってしまうというのが本作の最大のポイントである。だが、よくよく考えてみれば、“最初から永瀬が嘘をつかなくても営業成績No.1の営業マン”という設定でも成立する物語なのである。すなわち、周囲の営業仲間たちは全員嘘つきで、永瀬だけが正直者という設定でも十分成り立つが、それを巧みに捻っているのだ。

 永瀬が嘘と本音を、祟りによる偶然の産物によって上手く使い分けることによって、次第に正直な営業スタイルが身についていき、功を奏するどころか徐々に信頼を勝ち取っていく。1人の人間として、営業マンとして成長していく物語になっているのである。

 そしてこの“嘘がつけなくなる”理由を祟りにした点も面白い。そもそもは永瀬が偶然にほこらを壊したことからすべてが始まったワケだが、“ライアー永瀬”はその生き方を神様によっていさめられる運命だったと受け取れるのである。この“神様設定”を加えることによって、本作は上質のファンタジーに変貌したともいえるのだ。

脇役にも感情移入できる演出

 3番目は脇役のキャラクターがそれぞれ“生きている”点である。ドラマの中には主人公のほか主要メンバー2~3人くらいしかキャラが“立っていない”作品も多々見受けられる。しかし本作は、登場人物それぞれの魅力的な部分をしっかりと描いているのだ。

 永瀬が教育係を務める新入社員・月下咲良(福原遥)は、なぜ不動産業界を志したのか? なぜ必要以上にカスタマーファーストにこだわるのか? 永瀬をライバル視する同僚の桐山貴久(市原隼人)は、なぜ異常なまでの上昇志向の持ち主なのか? これらの疑問が、その回ごとのエピソードと上手く絡まって、徐々に明らかになっていくのである。

 特に、桐山がライバル会社であるミネルヴァ不動産のスパイではないかという疑惑がかけられた第6話『仕事をする理由』では“桐山のスパイ疑惑”と“月下が抱く桐山への不信感”と“桐山と彼の父親にまつわる過去”という3つの要素が巧みに展開された。序盤のあるシーンで視聴者に対して桐山のスパイ疑惑を色濃く提示したかと思ったら、中盤過ぎで幼少期の桐山と父の回想シーンを挟む流れになっていた。これによって、永瀬や月下とともに視聴者も桐山への不信感を一つひとつ払拭していく構成になっていたのである。そして最後には、本作の主軸テーマである“正直営業に変わった永瀬の活躍”が合わさり、すべてが集約される形になっていた。まさに、“お見事”のひとことだ。

 また、永瀬たちが勤める登坂不動産の面々だけでなく、登坂不動産を敵視するライバル会社・ミネルヴァ不動産のNo.1社員である花澤涼子(倉科カナ)らが、それぞれ背負っている過去も明らかになっていく。それによって、花澤は単なる敵役ではなくなった。観るものが感情移入できるキャラクターになっていたのである。

福原遥演じる新人・月下咲良の成長

 4番目は、“人は変われる”、“成長できる”ということを真正面から描いている点だ。その代表例が、福原遥演じる新人の月下である。最初はなかなか契約を取ることができずにクビ寸前まで追い込まれていた。だが、第5話『優しい嘘』で、両親の離婚で離れ離れになっていた父・昌也(加藤雅也)と再会し、再婚する家族と住む家を自分が探したことをきっかけに大きく成長。第7話『過去の自分と今の自分』では、入社当時は理想を掲げるだけだった彼女が、永瀬の残業を手伝い、営業で助太刀できるまでになった。そこから第8話『信じる事』で永瀬の頼れる相棒となり、第9話『決戦! 眺めのいい部屋』ではミネルヴァ不動産の花澤涼子と、結果的には負けたものの堂々と渡り合うまでになっていた。

 並のドラマなら最終回で月下が活躍して永瀬を助け、それによって永瀬も月下のことを一人前と認める流れ。だが、なんと最終回のラストでは永瀬を抜いて営業No.1に輝くのである。第6話のラストで会社を辞め、不動産ブローカーとなった桐山も、永瀬からアドバイスを求められると、さりげなくヒントを与える“ツンデレキャラ”に変身していた点も印象深い。

見事な伏線と回収

 最後は毎回毎回、伏線とその回収が見事だったことだ。第8話でAという人物が実は別人なのではないかという疑いが浮上するのだが、最後にそれを見破るヒントとなったのが、序盤に出てきた和菓子の手土産の“つぶあん派”か“こしあん派”かのエピソードだった。さらに最終回『正直不動産、誕生』では、第1話『嘘がつけなくなった不動産屋』で永瀬が助けた和菓子職人の石田努(山﨑努)が再登場し、困っている永瀬を今度は助ける側に回るなど、“フリ”と“オチ”が効果的に機能していたのである。

 本作は“勧善懲悪モノ”としての一面もあるのだが、だからこそ見終わったときにスッキリする。同じ放送局で、伏線と回収があまりにも雑だとして、SNSで騒がれている某朝ドラとは大違いだ。

 さて、本作は最終回で登坂不動産社長・登坂寿郎(草刈正雄)とミネルヴァ不動産社長・鵤聖人(高橋克典)との数十年にわたる因縁に“一応の決着”がつく形で、その幕を閉じた。だが、実は本作には原作の漫画『正直不動産』(原案・夏原武、脚本・水野光博、作画・大谷アキラ)があり、現在も雑誌『ビッグコミック』(小学館)で連載中だ。ということは、ドラマの続編も可能なのである。今夜放送される『正直不動産 感謝祭』を楽しみつつ、いつか実現するに違いない“パート2”に大いに期待したい。

上杉純也/フリーライター

上杉純也/フリーライター

出版社、編集プロダクション勤務を経てフリーのライター兼編集者に。ドラマ、女優、アイドル、映画、バラエティ、野球など主にエンタメ系のジャンルを手掛ける。主な著作に『テレビドラマの仕事人たち』(KKベストセラーズ・共著)、『甲子園あるある(春のセンバツ編)』(オークラ出版)、『甲子園決勝 因縁の名勝負20』(トランスワールドジャパン株式会社)などがある。

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