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木村誠「20年代、大学新時代」

早稲田大学、学生からの不信認トップの田中総長が再任…日本大は改革に壁

文=木村誠/大学教育ジャーナリスト
早稲田大学の大隈講堂(「Wikipedia」より)
早稲田大学の大隈講堂(「Wikipedia」より)

 2022年6月16日に早稲田大学の総長選挙があり、現職の田中愛治氏が再任された。9月から新任期に入る。

 前回の総長選では田中氏は2位であったが、トップの人の得票数が過半数に達せず、1位と2位の決選投票となり、田中氏の当選が決まった。教職員やOB代表や理事などによる投票である。

 おもしろいのは、総長選の1カ月前の5月に学生の信認投票があることだ。この5月にも実施され、不信認の得票数トップは877票で現職の田中総長であったが、他の立候補者とは300~400票の差だった。「信認しない候補者はいない」が2663票で、早稲田の学生も優しくなったものである。もっとも、在籍学生数4万9275人のうち投票率は7.9%で、むしろ無関心層が圧倒的に多いということであろう。

 それでも、日本大学のように学内トップが逮捕される状況になれば、この信認投票で学生の意思を表明することができ、その結果は総長選挙管理委員会も尊重しなければならない。学内民主化を実現する制度の一つとして、注目できる。

 その点、日大当局は2021年末に記者会見を開き、脱税事件など一連の不祥事の張本人である田中英壽前理事長と永久に決別し、「今後一切、彼が日本大学の業務に携わることを許さない」と公表したものの、新たな学長と理事長の選び方には問題点もある。学生や教職員による選挙ではなく、旧来の選考プロセスになっているからだ。

 学生数日本一の日大と2位の早大で民主的なトップ選びが一般化すれば、日本の私立大学の改革が期待できる。

早稲田の政経は志願者数が2年で3000人減

 ただ、選考プロセスが民主的だからといって、そこで選ばれたトップが遂行する方針に疑問があれば、当然、その論点を明確にする必要がある。大きな集団で、トップを決める選挙戦になれば、まず避けられないのが怪文書。早大の総長選でもあったようだ。

 また、共通テスト利用入試を含む早大の一般選抜志願者数が10万人ラインを切り、OBからは人気凋落を憂える声も聞こえる。

 しかし、これは将来のキャリアプランに従って学部や学科を選ぶ受験生が増えたためだろう。早稲田ならどの学部でもよいという受験生が減っている上、他の私大のように複数の一般選抜の入試方式で同学部を複数回受験できないため、学内併願が減ったこともある。ただ、2022年は全学で9万3884人と、前年比102%と微増になっている。

 特に政治経済学部、国際教養学部、スポーツ科学部で大学入学共通テストを必須にしたことによって、従来は多かった私大専願生の減少につながった。なかでも政経学部は共通テストの数学I・Aを必須科目にし、その上「総合問題」という正体不明の科目が個別試験に登場、受験者は不安に陥った。その影響で、一般選抜志願者数は2020年に7881人だったのに対し、2021年に5669人と前年より28%減、2022年も減少は止まらず、2020年比で38%減の4872人と大きく減少している。

 しかし、早大の入試担当教授に私が取材したときには、志願者減を承知の上での入試改革ということであった。

 むしろ、再任された総長は、財政投融資を主な原資にした10兆円大学ファンドの運用資金による3000億円の配分を目指す「国際卓越研究大学法」(最多5~7大学を認定)に応募した拡大路線の是非が問われるだろう。「稼げる大学」と揶揄される「国際卓越研究大学」は、大学の応募をもとに国が審査する方針だ。国際的に優れた研究成果の創出や、年3%の事業成長を目標とする。国際卓越研究大学選定のメンバーは閣僚など政府関係者が半数近くを占めており、本当に世界レベルの研究を評価できるのか、疑問もある。

 朝日新聞の調査では、5月時点で応募に積極的な私大は早稲田のみ。この低成長時代に年3%の事業目標なんて可能かという疑問もあるが、早大はベンチャー支援や外部資金の獲得などで「達成を見込める」という。

 ただ、早大の応募に、伝統の在野精神と学の独立は失われたのだろうか、というOBの声もある。

日大新理事長に作家の林真理子氏が就任

 田中前理事長の逮捕と辞任を受けて、日大の次なるトップにどのような人物が来るかが注目されてきた。林真理子新理事長の誕生で、マスコミでは期待と不安が入り交じっているが、私は新学長の選考に注目していた。

 日大のトップ選びは、早大のような学生の信認投票はもちろん、教職員やOBによる学内直接投票も行われない。日大の理事や教職員らで構成する「学長候補者推薦委員会」での投票で決められる。

 学生や教職員などの意見を反映する直接投票制度は大学の自立のためには欠かせない、と思うが、現在はそうでもないようだ。企業経営者の中には、社長を従業員の投票で選ぶ会社がどこにあるのか、という論調で、稼げる大学こそ本来のあり方、と公言する者もいる時代だ。

 学長に文理学部教授の広田照幸氏が選出されていたら、日大も変わったかもしれない。東京大学教育学部卒で、教育社会学が専門、日本教育学会の前会長も務めた人物だ。2006年から日大文理学部教授となったので、学内人脈が形成されるには時間が足りなかったのかもしれない。

 最近の著書『学校はなぜ退屈でなぜ大切なのか』(ちくまプリマー新書)では、学校教育の目的は既存の社会に適応し競争社会で生き抜くためではなく、生徒や学生が未来の社会を作り出す主人公になることが教育の本来の理念、と指摘する。思えば当然の教育思想だ。それを日大で、教員同志に支えられて実現していくプロセスを見たかった。

日大のマッチョな体質を変えるのは至難の業か

 その分、新理事長への就任が決まった林氏への期待は大きい。リベラルな広田氏と違って、「令和」に決まる際の元号に関する懇談会メンバーを務めていたように、比較的保守的なスタンスも受け入れやすかったのであろう。

 林氏は「日大のマッチョな体質を変えたい」と初心を語るが、これは至難の業だ。日大全共闘への敵対組織として、日大は50年前に田中前理事長のような体育会系学生を登用し、それをベースに現在の校風が築かれた、といっていいくらいだからだ。

 だからこそ、新理事長が「日大を風通しの良いところにしたい。どんなことを考えているのか教職員、学生に聞いて反映させたい」と言うように、学長の直接選挙制度の再構築も必要だろう。

 また、同時に女性の多様な登用を期待したい。マッチョ体質を変えるには、本人たちの自覚と再生も大切であるが、一定数のメンバーチェンジも欠かせない。

 何よりも、田中前理事長のように、実益を分配することによって既得権益層が大学内のさまざまなところに構築され、大学改革へのカウンター勢力になってしまっていた。そのため、校風の改革は抵抗が大きく、また一部政治家など学外の勢力の干渉も増えるが、それを突破する力を新理事長と、マスコミ界を中心に新理事長に連帯を示している、その同志たちに期待したい。

 日大と早大が変わることによって、日本の大学風景が新たな変化を迎えるための息吹となるかもしれないからだ。

木村誠/大学教育ジャーナリスト

木村誠/大学教育ジャーナリスト

早稲田大学政経学部新聞学科卒業、学研勤務を経てフリー。近著に『ワンランク上の大学攻略法 新課程入試の先取り最新情報』(朝日新書)。他に『「地方国立大学」の時代–2020年に何が起こるのか』(中公ラクレ)、『大学大崩壊』『大学大倒産時代』(ともに朝日新書)など。

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