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EUで輸入禁止の成長ホルモン剤使用の米国産牛豚肉、日本では輸入容認の理由

文=小倉正行/フリーライター
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成長ホルモン剤使用の米国産牛豚肉、日本では輸入容認
「gettyimages」より

 EUは人口4億4720万人を擁しているが、そのEUの人々の食生活を守っている食品安全基準は、日本をはるかに上回る厳しいものだ。

(1)食肉の成長ホルモン剤残留問題

 17-βエストラジオール(成長ホルモン剤)の発がん性については、医療目的の使用に伴う乳がん、子宮内膜がん、卵巣がんのリスクの上昇等、ヒトの疫学的データから十分な証拠があり、動物実験においても長期間投与による発がん性の十分な証拠があるとみなされており、この点については国際的な合意が得られている。

 EUは発がん性があるとされる食肉の成長ホルモン剤使用と食肉への残留を認めない。そのため、肥育に成長ホルモン剤を使用している米国産牛豚肉の輸入を禁止している。日本は、成長ホルモン剤の食肉への残留を認めているため、肥育に成長ホルモン剤を使用している米国産牛豚肉の輸入や豪州産牛肉の輸入を認めている。

(2)神経毒性があるネオニコチノイド農薬問題

 EUは2018年に3種類のネオニコチノイド農薬の屋外散布を禁止したが、日本はその使用を認めている。

(3)遺伝子組み換え食品(GMO)問題

 EUは遺伝子組み換え食品(GMO)の表示の義務化を例外なしで実施。日本は大豆油などの加熱処理した食品の遺伝子組み換え表示を免除している。

(4)ゲノム編集食品問題

 EUはゲノム編集食品を遺伝子組み換え食品と同じ扱いにして、安全性審査や表示を義務付けている。日本は安全性審査や表示の義務化はなく、事実上野放しの状態。

(5)アフラトキシン規制問題

 アフラトキシンは自然界で最高の発がん性を持っており、汚染された飼料を食べた乳牛からは、その10分の1の発がん性を持っているアフラトキシンM1を含んだ乳が生産される。EUは「アフラトキシンM1の摂取量は合理的に達成可能な範囲でできる限り低くすべき」との立場を表明している。アフラトキシンM1基準値として、生乳は0.05μg/kg、調製粉乳は0.025μg/kg、乳幼児向け特殊医療目的の栄養食品は0.025μg/kgを設定している。

 日本のアフラトキシンM1基準値はEUのそれの10倍から20倍緩い。2010年度に日本で行われた乳児用調製粉乳のアフラトキシンM1汚染実態調査では、粉末から0.177μg/kgのアフラトキシンM1が検出された。これはEUでは流通が認められない数値である。

予防原則

 このようなEUと日本の差は、環境保護の世界で使われている予防原則をEUは食の安全分野でも使用していることに起因する。予防原則は、1960年代後半から70年代に当時の西ドイツで酸性雨や北海の海洋汚染に対する厳格な規制政策として採用された。

 その考え方は、「科学による決定的で確実な理解がいまだ得られていない場合にも行動する」というもの。その後、80年代から90年代初めにかけてオゾン層保護、北海保護などに関する国際会議の宣言や議定書で予防原則が採用され、世界的に普及してきた。そして、92年の地球サミット(国連環境開発会議)で採択された「環境と開発に関するリオ宣言」で予防原則が正式に採用された。

 EUは80年代から食品安全分野で予防原則を取り入れてきた。89年には予防原則に基づいてホルモン剤を使用した米国からの食肉の輸入を禁止した。BSE問題では96年に英国からの牛肉の輸出を禁止し、遺伝子組み換え食品についても例外のない全面表示の義務化を行っている。そして、EUは2002年に採択された「食品法の一般原則を定める規則」で食品法の重要事項として予防原則を取り入れ、正式に法制化したのである。

 日本は環境問題では予防原則を導入しているが、食品安全分野では頑なにその導入を拒否している。より安全性の高い食品の確保のためには、予防原則の導入は不可避といえるであろう。

(文=小倉正行/フリーライター)

小倉正行/フリーライター

小倉正行/フリーライター

1976 年、京都大学法学部卒、日本農業市場学会、日本科学者会議、各会員。国会議員秘書を経て現在フリーライター。食べ物通信編集顧問。農政ジャーナリストの会会員。
主な著書に、「よくわかる食品衛生法・WTO 協定・コーデックス食品規格一問一答」「輸入大国日本 変貌する食品検疫」「イラスト版これでわかる輸入食品の話」「これでわかる TPP 問題一問一答」(以上、合同出版)、「多角分析 食料輸入大国ニッポンの落とし穴」「放射能汚染から TPP までー食の安全はこう守る」(以上、新日本出版)、「輸入食品の真実 別冊宝島」「TPP は国を滅ぼす」(以上、宝島社)他、論文多数

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