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取り込み詐欺「パクリ屋」被害、なぜ増加?信用調査会社に聞いてみた

構成=長井雄一朗/ライター
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東京商工リサーチ本社
東京商工リサーチ本社

 古典的な経済犯罪の一つとして「パクリ屋」がある。最初は小口取引を重ねて期日通りに代金を支払い、相手を信用させて取引量を増やす。やがて大量の商品を仕入れて、経営悪化を理由に債務を踏み倒す。手口は単純かつアナログだが、令和の時代でも減らないどころか、コロナ禍で被害が増加しているという。狙われるのは、経営者や営業マンだ。

「長引くコロナ禍で販路に窮する企業は多いですが、新規の企業との取引には注意も必要です。登記簿を取ったり、調査会社を使ったりして、取引会社の内実を審査することが重要です」と解説する、東京商工リサーチ情報本部情報部の増田和史課長に話を聞いた。

「パクリ屋」が狙う“三種の神器”とは?

――「パクリ屋」の手口や歴史について、教えてください。

増田和史氏(以下、増田) 日本の企業間取引では、掛け売り、支払手形、小切手などの商習慣があり、物品納入から支払いまでは一定の期間があります。「パクリ屋」は、その商習慣の隙を狙っています。まずは少額の取引を行い、徐々に取引量を増やして信用を得てから、大口の取引を持ちかけ、納品後に債務を踏み倒します。納品物は別会社に横流しされるため、追跡するのはかなり困難です。この手の取り込み詐欺は戦後直後からあるといわれており、今でも都内だけで年間数百件発生しているとされますが、それは氷山の一角でしょう。

――どういう商品を扱う企業がターゲットになるのでしょうか。

増田 食料品、日用雑貨品、パソコンなどのOA機器は換金性が高いため、「パクリ屋」にとっては“三種の神器”です。一方、建材住設機器などを扱うニッチな「パクリ屋」もありました。地域の特産品を扱う地方の企業や営業所が狙われるケースも増えています。「パクリ屋」が遠方に注文するのは営業マンの直接訪問を避けるためで、メールのやり取りだけで完結するからです。

――「パクリ屋」の企業を調査したことはありますか。

増田 「パクリ屋」と思しき会社の調査依頼を受けることはあります。これまでに、訪問しただけでは見破るのが難しいケースもありました。大企業かと思うような看板や名刺、ホームページまで作り、信用調査への対策として、優良企業に見せかけるニセ決算書も準備していました。つまり、ちゃんとした会社だと思わせるような舞台装置を仕掛けているのです。そのニセ決算書も見ましたが、よく読むとおかしいところはあるものの、一般の営業マンが見抜くのは難しいでしょう。

「パクリ屋」の多くは、代表交代や本社移転を頻繁に繰り返します。また、社歴の古い会社を買い取ることで、歴史のある会社だと装うケースもあります。

「夜逃げ型」から「弁護士受任型」へ

――コロナ禍で「パクリ屋」の被害が増えているそうですね。

増田 もともと、リーマン・ショックや東日本大震災など経済危機や自然災害が起きた際には、詐欺師は活発に動き出します。社会不安や先行きの不透明感につけ込むわけです。今回のコロナ禍では、非対面の営業でも不審に思われなくなった点が「パクリ屋」にとってはメリットになりました。また、「弊社のネット販売が好調で、テレワーク需要でPCの注文が殺到している」などと、もっともらしいことを言って取引を持ちかけるわけです。

――手口としては、かなり大がかりな詐欺ですよね。

増田 振り込み詐欺に代表されるように、若い詐欺師は手間のかからない詐欺を行う傾向があると聞きます。しかし、「パクリ屋」は、ニセの会社や決算書を作り、納入された商品を別会社に流すなど、アナログで手間がかかります。そのためか、取り込み詐欺を行うのは高年齢層が多く、今年1月に逮捕された神奈川県の七里物産の実質経営者・A氏も80代でした。同社の動きが活発化したのは2021年4~7月と見られ、この時期に東京商工リサーチには多くの問い合わせが寄せられました。A氏は過去に「パクリ屋」行為で逮捕歴があり、業界では有名人でした。

――昭和のドラマで、やり手の営業マンが「パクリ屋」に騙され、会社に乗り込んだら、もぬけの殻になっていたというシーンを覚えています。

増田 昭和の時代は「夜逃げ型」が多かったですが、今は「弁護士受任型」に変わってきています。通常の倒産を装い、弁護士が表に立って当人は雲隠れするというものです。そのうち「債務者と連絡がつかない」「依頼者から弁護士費用が支払われない」などの理由で弁護士が債務整理から降り、うやむやのまま終わります。倒産が意図的なものかどうかは立証が難しく、仮に首謀者が逮捕されても、すでに資金は還流され、回収は期待できません。

――どうすれば「パクリ屋」被害を防ぐことができますか。

増田 新規取引の場合は、相手の会社のことを必ず調べるべきです。商業登記簿は誰でも取得できますし、代表交代や移転歴を確認するのは定石です。「パクリ屋」は常習性があるため、ほとぼりが冷めたら別の場所で活動するケースが多い。そのため、登記内容で役員、社名、住所などが重複している可能性も高いのです。都内には「パクリ屋」に何度も利用されてきた、いわくつきの場所も存在します。そのため、東京商工リサーチでは長年にわたって関連データを蓄積しています。

 経営者や営業マンの中には、「パクリ屋」に騙されても隠したり、騙されたことにすら気づいていないケースもあります。しかし、一度引っかかると、与信管理が甘い会社としてリストが闇に流れる危険があります。先行きが見通せない今の時代こそ、気を引き締めることが大切です。

長井雄一朗/ライター

長井雄一朗/ライター

建設専門紙の記者などを経てフリーライターに。建設関連の事件・ビジネス関係で執筆中。

Twitter:@asianotabito

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