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木村誠「20年代、大学新時代」

円安が大学生の海外留学コストを直撃…それでも千葉大学は全員留学を課すのか?

文=木村誠/大学教育ジャーナリスト
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千葉大学の総合校舎1号館(「Wikipedia」より)
千葉大学の総合校舎1号館(「Wikipedia」より)

 国立大で志願者数が一番多い大学はどこか。ここ数年、1万人台を少し超えたところで千葉大学と神戸大学が争っている。2022年度は神戸大だが、2020~2021年度は千葉大であった。公立大を含めると、2022年度は新設の大阪公立大学がトップに躍り出た。やはり、募集人員が多い大学が志願者を集める傾向にある。

 千葉大は2019年6月に、2020年度の入学者から、学部・大学院ともに授業料を年額10万7160円も値上げすると発表した。53万5800円から64万2960円となり、受験生が激減するだろうという予測もあったが、2020~2021年度の志願者数は国立大でトップだった。当時、2020年度以降の全入学者に最大2カ月の海外留学を義務づけるため、授業料の値上げ分は主にその原資に充てるはずであった。在籍中の学部生の授業料は、2020年以降の入学者は64万2960円、2019年以前の入学者は53万5800円となっている。

 ところが、2020年から新型コロナウイルスが世界を襲い、海外留学は事実上ストップ状態になった。もちろん、千葉大も例外ではない。2020~2021年度の全入学者に課すはずの留学は実施不能にならざるを得なくなったが、大学は値上げ分を返還しなかった。予定通り、留学支援の教材開発や教員確保などに投入したのであろう。

 コロナの終息が期待できそうだった2022年度からは留学を開始できるはずだったが、コロナ禍が長引く中で、今度は急激な円安になった。留学先によって違うだろうが、欧米通貨のドルやユーロに対する円安が進んでいるだけに、円による留学コストが急上昇し、海外留学に今度は円安という暗雲が立ち込めているのだ。

 また、コロナによるオンライン授業が普及していることも、海外留学制度に微妙な影響を与えている。最近では、そこに追い打ちをかけるようにコロナ感染者が急拡大している。

優秀な外国人留学生は日本に来ない?

 文部科学省は5年後の2027年をめどに、コロナの影響で激減したインバウンド外国人留学生をコロナ禍前の水準である30万人超に戻すとの目標を示した。しかし、各国間で優秀な留学生人材の獲得競争が激化している現状で、達成できるかどうか微妙だ。優秀な留学生の受け入れ態勢ができていない、と言われているからだ。

 外国人留学生といえば、人手不足に対する補完策ぐらいにしか考えてこなかった企業も多い。円安は留学中は経済的メリットが大きいが、就職して本国に仕送りする際には不利になる。そのため、優秀な外国人留学生はあまり日本に来ないのではないだろうか。

 また、海外留学するアウトバウンド日本人学生10万人超という目標も、千葉大の入学定員の半分にあたる1200人の留学計画を考えれば、それほど難しくないように思える。私立大では、全員を留学制度の対象とする新学部の開設が続いているからだ。

 近年、海外留学が必須の国際系学部は激増している。学科ではなく学部全体が留学必須の主な大学は、国立大では千葉大だけだが、私立大では国際教養学部などグローバル関係の学部を擁する大学に多い。

 留学必須の場合、留学先にはいろいろなパターンがある。国際教養大学のように、海外協定校との交換留学で多くの選択肢があるケースもある。たとえば、早稲田大学の国際教養学部の日本人学生は、世界各国の300以上の大学などから留学先を選べる。

 また、立命館大学のグローバル教養学部のように、特定の大学(オーストラリア国立大学)との協定であるデュアル・ディグリー・プログラムが全面的に組み込まれているケースもある。一方、同志社大学のグローバル・コミュニケーション学部では英語コ―スと中国語コースがあり、留学先は英語圏か中国・台湾の大学となる。両者は対照的だ。

 円安がさらに進めば、コスト高によって海外留学プランを見直す学生も出てくるだろう。オンライン授業の普及によって、「海外の大学で勉強したい」という本人の願いに対しても、「日本の大学でも受講できるはず」という親の声も高まると考えられるからだ。

高等教育の家計負担が重い日本

 コロナ禍でここ1、2年は中断されたが、米ハーバード大学や英ケンブリッジ大学といった海外の有名大学への進学を志すケースが2023年以降は劇的に増えるという予想も、円安の影響や長引くコロナ禍で微妙だ。海外留学に限らず、日本は大学生の経済的負担が大きいという背景も看過できない。

 アメリカ、イギリス、オーストラリアなどは授業料が高いが、奨学金などが充実している。他の欧州諸国は、高等教育の学費負担そのものが低い。その点、日本は高等教育にかかる費用の5割以上を家計が負担しており、公的な負担は3割にすぎない。この割合は、OECD加盟国平均の半分以下といわれている。

 ただ、アメリカの州立大も実質民営化が進み、学費が上がる傾向にある。特に今年に入ってインフレ懸念が高まっており、それに伴って学費も急騰している。アメリカの私立大では、年間授業料800万円弱(1ドル137円換算)に達するところもある。日本の国立大の平均は首都圏の一部有力大を除き約53万5000円、私立大でも医学部を除き80万~150万円が相場である。

 今まではアメリカやイギリスなど英語圏の大学への留学志望者が多かったが、ヨーロッパには留学生も含めて大学の授業料がほぼゼロの国もある。ドイツやノルウェー、アイスランド、フィンランドなどだ。また、フランス、イタリア、スペインなども、留学生も含めて学費はかなり安い。英語圏にこだわらなければ、本人の問題意識に従って選べる留学先の候補は広がるはずだ。ただ、その場合でも、円安の影響ゼロというケースは少なそうだ。

日本国内で留学効果が期待できる分校も出てきた

 2020年秋、アリゾナ州立大学/サンダーバードグローバル経営大学院―広島大学グローバル校が広島大学東広島キャンパス内に設置された。国立大として初めてのケースである。

 アリゾナ州立大学は「THEインパクトランキング2022」で世界2位(米国1位)で、イノベーションなどの分野では世界トップクラスであると評価が高い。4年間を広島大キャンパスで学ぶ「4+0」と、後半はアメリカで学ぶ「2+2」のコースがある。授業料は年間約340万円と相当な額だが、アメリカでは珍しくない。

 このように、留学しないでも日本の大学キャンパスで外国の実績ある大学の学位を取れるようになれば、選択肢は広がる。コロナ禍においても海外留学に夢を持つ学生は増えていると思われるが、コロナ終息が見えない中で円安が直撃して深刻な状況が続いている。日本のグローバル化の学びの多様化を考える機会とすべきであろう。

木村誠/大学教育ジャーナリスト

木村誠/大学教育ジャーナリスト

早稲田大学政経学部新聞学科卒業、学研勤務を経てフリー。近著に『ワンランク上の大学攻略法 新課程入試の先取り最新情報』(朝日新書)。他に『「地方国立大学」の時代–2020年に何が起こるのか』(中公ラクレ)、『大学大崩壊』『大学大倒産時代』(ともに朝日新書)など。

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