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木村誠「20年代、大学新時代」

「理系女子」は本当に増えるのか?名古屋大と富山大が女子枠導入、芝浦工大は拡充

文=木村誠/大学教育ジャーナリスト
芝浦工業大学の豊洲キャンパス(「Wikipedia」より)
芝浦工業大学の豊洲キャンパス(「Wikipedia」より)

 政府の教育未来創造会議は第一次提言で、理工系等を専攻する女子学生の増加を目標として掲げている。現在、理工系の女子学生の割合は7%で、男性の28%に比べ、明らかな差がある。これは、高校生の段階で理科離れが進んでいるためだ。進路選択で理系を選択する生徒は約2割にすぎない。

 そのため、大学の学部生になると、先進国の集まりであるOECD平均で理工系が27%なのに対して、日本は17%となっている。そのうち女性については、OECD平均が15%、日本7%で半分以下だ。もっとも、OECD平均でも女性の理系選択者は男性に比べ、かなり低い。ただ、日本の女子学生の7%が低すぎることは間違いない。関心や適性だけでは説明がつかないだろう。

 戦後の大学政策の影響は無視できない。もともと大学は国家にとって必要な教育・医療・ものづくりの役割を担う人材育成の教育機関だったのが、太平洋戦争後の新制大学改革を経て、大学進学率が上昇し始めた。団塊の世代やその子どもたちの多くが大学に進学する時代になり、大学が足りなくて、文部省(現文部科学省)は私立大の大幅な入学定員超過にも目をつぶった。

 その時代に新設された短大や地方私大は、実験や実習などで施設・設備などのコストがかかる理工系を避け、文系の学部や学科を中心に大幅に増強したのだ。それが女子受験生の受け皿になった。当時の地方の女子受験生は親の願いもあり、地元の文系学部などに進むケースが多かった。それが、現在の理系女子学生7%になった一因だ。

 この歴史と現実を見据えて、女子受験生の選択の道を広げることが大切だ。教育未来創造会議は第一次提言では、①女性活躍プログラムの強化、女子学生の確保等に積極的に取り組む大学への基盤的経費による支援強化、大学ガバナンスコードの見直し、女性の在籍・登用状況等の情報開示の促進など、②官民共同修学支援プログラムの創設、③女子高校生の理系選択者の増加に向けた取組の推進、などを挙げている。

名古屋大、富山大に新たな「女子枠」

 理工系で女子学生の確保に積極的に取り組む大学は着実に増えている。国立大でも、名古屋大学は2023年度から学校推薦型選抜で工学部の2学科に「女子枠」を導入する。電気電子情報工学科の募集定員を現在の11人から12人に、エネルギー理工学科を4人から6人に増やして、それぞれ半数を女子枠とする。

 また、富山大学は2023年度から工学部の工学科電気電子工学コース、知能情報工学コース、機械工学コースの3コースで、学校推薦型選抜として「女子特別推薦」(募集人員、合計8名)を実施する。この3コースは、今まで女子学生の割合が10%未満と極めて少なかったという。多様な学生の受け入れと、理工系女性人材育成の要請に応えるためである。

 また、私大でも、芝浦工業大学が工学部で実施していた女子対象の学校推薦型選抜を、2023年度からシステム理工とデザイン工、建築の各学部に広げて全学部実施とする。芝浦工大は以前から推薦入学(学校推薦型選抜)で女子枠を導入して注目されており、その先駆性が評価されていた。

 思えば、10年前の2012年に九州大学理学部数学科が、導入予定だった「女性枠」入試を取りやめたことを思い出す。女子枠は男女逆差別で法の下の平等に反するのではないかという批判が集まり、同大学では同枠で入学してくる女子学生に配慮して中止にしたという。隔世の感がある。

 その意味で、2022年度にスタートした奈良女子大学工学部や2024年度に新設予定のお茶の水女子大学共創工学部(仮称)は、理系女子を育てる場として注目される。奈良女子大はアンブレラ方式で奈良教育大学と経営統合しているが、DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進している。お茶の水女子大の共創工学部(仮称)も、2024年度に人間環境工学科(入学定員26名)と文化情報工学科(同20名)を新設予定となっている。

 私立女子大でも、京都女子大学はデータサイエンス学部を、武庫川女子大学も既設の建築学部に加えて社会情報学部を2023年度に新設する予定だ。

 大学サイドの受け皿づくりは着々と進んでいる。

恵泉女学園は中1から理系学習が充実

 ただ、大学の受け入れ態勢の充実だけでは足りない。中学生の頃から、女子生徒の理系に対する意識変革を進める必要がある。

 たとえば、東京の恵泉女学園は中1のときから、生物の内臓の観察や化学実験を年20回以上実施しているという。中3までに雪の結晶づくりや放射線の観察などの実験観察をする。同校は「園芸の恵泉」と言われ、協働しながら植物栽培をするなどの伝統があった。このような女子中高生が積極的に参加する態勢づくりを、各校で進める必要があるだろう。

 それを支える公的プロジェクトも進んでいる。たとえば、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)では「女子中高生の理系進路選択支援プログラム」を2022年度にスタートさせた。女子中高生の理系分野への興味・関心を高めて理工系大学へ進むことを促すため、科学技術分野の第一線で活躍する女性たちとの交流会・実験教室・出前授業の開催を支援する。

「Path to Science for Girls」という女子中高生支援プロジェクトでは、全国の女子中高生に最先端のサイエンスを研究している女性の先輩たちの姿を紹介し、自分の進路や将来の目標などについて広い視野を持ってもらうように支援する取り組みを進めている。このような学校内外の取り組みに積極的に参加して、女子中高生の理系への自発的関心を高めることが大切だろう。

 また、高校の文理選択基準も入試における数学がポイントであったが、私大文系でも数学が必須になるケースが増加し、今までのような文理分けに対する疑問や問題点が出ており、見直される可能性がある。

“リケジョ”が活躍するには卒業後のケアも必要だ

 提言にある「女性の在籍・登用状況等の情報開示の促進」という対策も、意外と重要なポイントだ。

 国立大の理学部数学科を卒業した優秀な学生が、当時、公的な大企業に就職して研究部門に配属されたが、女性は一人のため職場で孤立してしまい、精神的に耐えられなくなり、大学の研究室にリターンした。このようなケースはよく聞く。

 社会学者の上野千鶴子さんが指摘するように、アカハラ(研究教育に関わる優位な力関係のもとで行われる理不尽な行為)は理系が特にひどいという。これは大学の研究の場だけでなく、民間の理系研究部門でも少なくないのである。

 これでは、理系を志す女子学生は将来の展望が開けないだろう。まずは、大学卒業後に希望を持って働ける職場を多く提供する必要がある。各企業において、女性社員の在籍率と離職率が情報開示されることから始めるべきだ。

 理系女子が活躍することは、日本の大学や職場の風通しが良くなることにもつながるからだ。

木村誠/大学教育ジャーナリスト

木村誠/大学教育ジャーナリスト

早稲田大学政経学部新聞学科卒業、学研勤務を経てフリー。近著に『ワンランク上の大学攻略法 新課程入試の先取り最新情報』(朝日新書)。他に『「地方国立大学」の時代–2020年に何が起こるのか』(中公ラクレ)、『大学大崩壊』『大学大倒産時代』(ともに朝日新書)など。

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