
(1)軒並み強い今年度の設備投資計画
新型コロナウィルス感染症に伴う影響やロシアのウクライナ侵攻等により日本経済を取り巻く環境は厳しさを増しているなか、今年度における企業の設備投資計画は旺盛である。
実際、先々月公表された4-6月期の法人企業景気予測調査(財務省・内閣府)の設備投資計画を見ると、GDP設備投資の概念に最も近い「ソフトウェアを含む設備投資額(除く土地投資額)」が全産業合計で前年度比+16.0%となっており、アベノミクス主導で設備投資が大きく盛り上がった2013年度以来の高い伸びを記録している。
また、先月公表された6月短観の設備投資計画(日銀)を見ると、「ソフトウェアを含む設備投資額(除く土地投資額)」が全規模合計で前年度比+15.5%となっており、本基準で集計された2004年度以降で最大の伸びを記録している。さらに、今月公表された日本政策投資銀行の設備投資計画調査を見ても、大・中堅企業の全産業ベースで前年度比+26.8%となり、1990年度以降で最も高い伸びを記録している。
成長会計に基づけば、これまでは有形・無形の固定資産の蓄積が停滞することで、資本投入量や全要素生産性の低迷を通じて潜在成長率の低迷につながってきた。このため、逆説的に考えれば、経済全体や企業それぞれの成長期待が高まることによって設備投資が拡大すれば、需要拡大を通じた生産性向上により賃金も上がり、経済成長の好循環につなげることによって経済の長期停滞から抜け出すことができる可能性がある。
(2)背景に脱炭素・デジタル化の加速、レジリエンス強化
政策投資銀行の設備投資計画調査によれば、計画が大幅に増加した背景として、コロナ禍の長期化により先送りされた投資の再開に加え、脱炭素やデジタル化の加速、レジリエンス強化に向けた取り組みの押し上げが指摘されている。
実際、新型コロナに加えて、ウクライナ危機等による国際秩序の再編、インフレ、円安等のリスクが増大している。新型コロナウィルスを受けたサプライチェーン寸断の一部の例をピックアップしても、世界的な旅客機の減便に伴う航空輸送の減少や、世界最大の経済大国である米国でも入国に伴う隔離措置により技術者の移動に障害が生じたりしている。EUでも国境通過に要する時間の増大や移民の停滞に伴う労働力不足等により、医療関連物資の供給に障害が生じた。中国でも出稼ぎ労働者が地方から戻らないことによる労働力不足や、都市封鎖による陸上輸送の遅延やコンテナ船の減便が生じている。そして、肝心の日本でも、中国や東南アジアからの自動車や電子部品の供給制約が発生している。