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うつ病、運動が最善の治療・予防法との研究結果…抗うつ剤の弊害が社会問題化

文=岡田正彦/新潟大学名誉教授
うつ病、運動が最善の治療・予防法との研究結果…抗うつ剤の弊害が社会問題化の画像1
「gettyimages」より

 現代社会では6人に1人の割合で、生涯に1度は「うつ病」を経験するとされています。うつ病とは、「1日中気分が落ち込んでいる」「何をしても楽しめない」「眠れない」「食欲がない」「疲れやすい」などの症状が続いた状態です。

 うつ病を予防したり治療したりする方法について、英国の研究者が納得のデータを発表してくれました【注1】。結論を先に言えば、運動を一生懸命にするのが、うつ病の最善の治療法だという話です。

 その研究は、世界各国で発表されてきた348編もの研究論文を集めて精査し、そのなかから3,000人以上の患者を3年以上にわたって追跡したという、信頼性の高いもの15編を厳選してまとめたものです。それぞれ米国、欧州、オーストラリア、そして日本などから発表された論文で、対象とされた患者数を合計すると19万1,130人にもなっていました。

 結論は、習慣的に毎週2時間半以上、運動をしている人は、うつ病になるリスクが25パーセント少ない、という明確なものでした。また、その半分くらいの運動をしている人では、リスクが約18パーセント少なくなっていました。つまり効果は、運動の量に比例していることになります。

1回30分の早歩き

 では具体的に、どんな運動をどれくらいすればいいのでしょうか? この研究では、運動の強さをMETs(メッツ)という単位で測りました。これは、「何もしないでボッーと座っているとき」の運動の強さを1メッツとするという、わかりやすい単位です。

 この研究の結論を正確に言えば、週に「8.8メッツ×時間」を超える運動量が効果的だということです。たとえば「少し早めに歩くとき」の運動強度が約3.5メッツですから、1回30分(0.5時間)の早歩きを週に5回すれば、1週間で

3.5(メッツ)×0.5(時間)×5(回)≒8.8

という計算になり、この基準を満たすことになります。きつめの運動、たとえばジョギングなどであれば、もっと短い時間でもこの基準に達します。つまり運動の種類は問わないということですから、自分のライフスタイルに合ったやり方をすればいいのです。

 うつ病の症状のひとつが、夜なかなか眠れず、翌日に体の疲れや心の悩みを持ち越していくというものです。その不眠についても多くの研究が行われており、やはり昼間の運動が最大の治療法であることが証明されています。

抗うつ剤による悪影響

 ところが、うつ病を思わせる何らかの症状があって医療機関を受診すると、必ず出されるのが「抗うつ剤」と呼ばれる薬の数々です。脳内の神経伝達物質の量を高めるとされている薬で、代表はSSRIという記号で総称されるものです。パロキセチンやフルボキサミンなどの一般名で呼ばれ、それらを主成分とする商品が多数あります。

 米国では、これらの薬を服用したら家族が自殺したとか、おとなしかった父親が殺人を犯してしまったなどとして、製薬企業を訴えた裁判が数多くあります【注2】。ある有名な医学専門誌には、そんな薬のひとつを開発した企業が臨床試験のデータを隠ぺいしている、という告発記事も掲載されていました【注3】。薬を飲んだ人たちの症状が、むしろ悪化してしまったことを示すデータも隠されていたようです。

 抗うつ剤に限らず、精神疾患に使われている向精神薬そのものにも、重大な問題が指摘されています。トーマス・P・インセル博士は、米国で精神疾患研究の中心的役割を果たした人ですが、国立の研究所を退職したあと、懺悔の言葉を記した本を出版し、話題になっています。「過去30年間、国家として2.5兆円近い研究開発費を投入してきたことから、遺伝子の発見だけは相次いだ。しかし向精神薬や社会のサポート体制など、患者の苦しみを救う手立てはまったく進歩していない」という厳しい内容です【注4】。

 ニューヨーク・タイムズ紙には、さまざまな医療機関を受診した挙句、10種類もの向精神薬を処方された10歳代の若者の事例が紹介されています。最初は注意欠如・多動症(ADHD)と診断されていた人ですが、うつ病の症状もあり、次第に抗うつ剤なども処方されるようになりました。病院を移るごとに薬がどんどん増えていった、という誰にでも起こりうる状況だったようです。
(文=岡田正彦/新潟大学名誉教授)

参考文献
【1】   Pearce M, et al., Association between physical activity and risk of depression, a systemic review and meta-analysis. JAMA, Apr 13, 2022.
【2】   Bass A, “Side effects, a prosecutor, a whistleblower, and a bestselling antidepressant on trial,” Algonquin Books of Chapel Hill, 2008.
【3】   Editorial, Is GSK guilty of fraud? Lancet, Jun 12, 2004.
【4】   Barry E, The ‘Nation’s Psychiatrist’ takes stock, with frustration, New York Times, Feb 22,2022.
【5】   Richtel M, This teen was prescribed 10 psychiatric drugs. She’s not alone. New York Times, Aug 29, 2022.

岡田正彦/新潟大学名誉教授

岡田正彦/新潟大学名誉教授

医学博士。現・水野介護老人保健施設長。1946年京都府に生まれる。1972年新潟大学医学部卒業、1990年より同大学医学部教授。1981年新潟日報文化賞、2001年臨床病理学研究振興基金「小酒井望賞」を受賞。専門は予防医療学、長寿科学。『人はなぜ太るのか-肥満を科学する』(岩波新書)など著書多数。


岡田正彦

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