長引くコロナ禍にあって、心身のバランスを崩す人も多い。「病は気から」と諺にもあるように、ストレスによって体調を崩し、その果てに、うつ病になってしまうケースもある。うつ病の原因はひとつではないが、米学術雑誌「サイエンス」(5月9日号)に画期的な研究結果が紹介され、関心を集めている。その内容は「うつや気分障害に腸内細菌がかかわっていることが解明されてきた」というものだ。予防医療研究協会理事長で麹町皮ふ科・形成外科クリニック院長の苅部淳医師が解説する。
競争の激しい現代社会は、ストレスとの戦いである。それに加えて長引くコロナ禍で、人との接触も減少するなど、ストレスは増大するばかりだ。そんなストレスこそが、うつを誘発しかねない。
「ストレスは腸内環境を乱す大きな要因となり、脳神経やホルモン分泌、腸内細菌が代謝する分泌物などにより双方向にやりとりをしています(腸脳相関)が、これが崩れてしまうのです」(苅部淳医師)
ストレスで腸内環境が乱れるという経験をしている人は多いだろう。テスト期間や会議の際に腹痛が起きるなどの状況は、まさに腸脳相関といえる。ならば、腸内環境を整え強化すれば、ストレスに強くなるのだろうか。
「そうですね。それには腸の自然免疫、αディフェンシンが鍵となります」
αディフェンシンとは、小腸から分泌される自然免疫の作用因子である。腸内環境は、恒常性により一定の状態を保っているが、過度のストレスにより恒常性を失うと腸内細菌のバランスが崩れ、αディフェンシンが減少し、不安や鬱を感じるようになる。
「北大の綾部教授らが発表した研究論文によると、αディフェンシンとは名前のごとく、抗菌ペプチドで病原菌を強力に殺菌します。殺菌といっても、抗生物質とは決定的に違い、腸内に必要な常在菌は維持し、腸内環境の恒常性が保っています。αディフェンシンは、腸内環境を良好に保つために必要なものなのです」
αディフェンシンの減少を防ぐためには、可能な限りストレスを排除することが有効だ。
ストレスを受けない習慣
「強いストレスがかかると、このαディフェンシンが減少し、腸内環境が乱れ、うつになる可能性があることが初めてわかったのです。ストレスは精神的なものというイメージがありますが、そうではありません。ストレスは仕事や家庭内の精神的なものでも、過度な運動、睡眠不足、怪我などの肉体的なストレスでも同じです」
ストレスに強くなることも大切だが、ストレスを受けない生活習慣を心がけることも重要だ。
「これからの時代は、腸内環境に対する検査、乳酸菌投与などのアプローチで精神的不調や神経系疾患を予防、治療していくのが大切です。私が勧める“ストレスを受けない習慣”は、以下の6つです」
(1)加工食品は食べない(コンビニ弁当、お菓子など)
(2)発酵食品をたくさん摂る(漬物、キムチ、みそ、納豆など)
(3)食物繊維を大量に(緑黄色野菜、海藻など)
(4)小麦は抜く(リーキーガットの予防)
(5)糖分は抜く(清涼飲料水、白砂糖は厳禁)
(6)適度な運動(1日15分程度の軽い運動でも可)
今後も続くであろうコロナ禍で、ストレスに負けないよう、苅部医師が勧める習慣を心がけてほしい。
(文=吉澤恵理/薬剤師、医療ジャーナリスト)