「レクサスRXの3列シートが人気だそうですね」
そんな声を頻繁に耳にする。確かに、レクサス「RX」はMクラスの高級SUV(スポーツ用多目的車)として安定した販売を維持している。レクサス最量販モデルであり、ドル箱でもある。そしてそれを支えているのが、ホイールベースを伸ばすことで、シートを2列から3列に増やした「RX450L」だというのである。
そう聞けば、「やはりSUVには3列シートが欠かせないのか」と、短絡的な想像してしまう。だが、実情は異なる。ユーザーの多くが3列シートを必要としているのではなく、ロングホイールベースに魅力を感じているわけでもないらしい。
飲食店などで「一番高いやつ、持ってきて」と言うがごとく、ユーザーの多くは、そのクルマのもっとも装備の充実したモデルを希望する。つまり、一番高いクルマであることが重要らしいのだ。
つまり、レクサスRX450Lが売れている理由は、高価であることにある。装備が充実しているからだ。それが証拠に、3列目のシートにはあまり興味を示さず、普段は折りたたむことで荷室にしているという。レクサスユーザーは想像通り、裕福なのだ。
ただし、さらに実情は、レクサスユーザーに限ったことではないようだ。先日、発表されるやいなや、話題の中心になっているマツダ「CX-60」にも同様の現象が起きているというのだ。
SUVらしく、高いオフロード性能を求める。しかも上質な走り味を希望する。日頃から野山を駆け回り、スキーやキャンプへとアクティブな生活を送っていながら、ウィークデイは都会で颯爽とビジネスをこなす。そんなビジネスエリートなライフスタイルを演じているユーザーが多いそうだ。だから、多少価格が上積みされようとも、必要なものには投資する。
しかも、良いものを見る目が肥えているという。マツダはCX-60に、SUVとしては贅沢ともいえる直列6気筒3.3リッターディーゼルエンジンを新開発し、しかもFRプラットフォームを採用したのは、まさに目の肥えたアッパーミドルのユーザーの期待に応えるためである。
日産も高価格・上質なクルマを望む層が増加
この夏にデビューした日産自動車「エクストレイル」も、同様の傾向にあることが判明した。Mクラスに属するエクストレイルの年齢層が、40歳以上にシフトしているというのだ。2011年には66%だったそれが、2020年には75%に高まっている。少子高齢化やサブスクの充実など、要件はさまざまなれど、アッパーミドルがターゲットになりつつあるのは事実。
セグメントの購入価格帯も、350万円以上が過半数を占める。2010年前はわずか15%だったこの価格帯を求めるユーザーが、2020年は56%まで増えたという。逆に、300万円以下を希望するユーザーは、2010年には58%もいたのに、2020年ではわずか3%まで低下した(データソースNCBS)。
それを証明するようなデータがある。SUVに求めるユーザーのニーズの満足度を調査すると、重要だと考えているのに満足度が低い項目は「悪路や雪路での走破性」と「品質と仕上げの良さ」だというのだ。
オフロード性能と都会的洗練度という、ともすれば相反する特性の両立である。そのために日産は、エクストレイルに世界初VCターボを開発し、静粛性と質感を高めた。最新のAWDシステムを採用することで、悪路走破性にも磨きをかけたのである。
そして同時に、愛車で野山を駆け回ることができるほど資金的余裕があることを意味する。結果として、多少のコストは気にせず、ホンモノを求めることになる。レクサスもマツダも、そして日産も、同様の属性を抱えているのだ。
それから想像できるのは、SUVのますますの高級化である。すでに予兆はある。日本でもミニバンのシェアをSUVが抜いたのだ。世界的ではすでにSUVが圧倒的な成長ジャンルではあったのだが、日本もようやく世界に足並みを揃えたことになる。
SUVで趣味を満喫しなから、都会の高級ホテルのエントランスに横付けする姿が浮かぶ。
(文=木下隆之/レーシングドライバー)