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永濱利廣「“バイアスを排除した”経済の見方」

2023年、一転して物価上昇減速・円高・貿易赤字縮小が進むと予想される根拠

文=永濱利廣/第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト
2023年、一転して物価上昇減速・円高・貿易赤字縮小が進むと予想される根拠の画像1
日本銀行のHPより

2023年の物価は伸び鈍化

 原稿執筆時点における直近11月の東京都区部消費者物価を見ると、生鮮食品を除く総合が前年比+3.6%となり、東京のCPIコア指数が8カ月連続でインフレ目標の+2%を上回っている。さらに、そのインフレ率は前月から+0.2pt拡大しており、季節調整値の前月比で見ても+0.4%と加速している。

 背景には、これまでインフレ率押し上げの主因となってきたエネルギーに、食料品値上げの加速や携帯端末の大幅値上げが加わったことがあり、少なくとも2022年の秋時点で日本のインフレ率は加速していたことになる。

 しかし、2023年を展望すれば、エネルギー価格の上昇はピークアウトしていることから、消費者物価の伸び率も鈍化の可能性が高いだろう。というのも、足元ではエネルギー価格の元となる原油価格が130ドル/バレル超えから70ドル/バレル台まで下がっており、すでにガソリン価格の値下がりに結び付いている。また、原油や天然ガス価格は燃料費調整制度を通じて電気やガス料金に今後影響してくることから、原油価格が再度急騰するようなことがなければ、総合経済対策による価格抑制策もあることから、電気・ガス料金も年末から年明けにかけて、さらなる価格上昇が抑制される。

 ただ、政府による電気・ガス・ガソリンや灯油の価格抑制は来年9月までとされているため、政府が9月以降に化石燃料価格の下落を反映して価格抑制を弱めたり、政策自体を止めるようなことになれば、エネルギー価格のピークアウトが遅れる可能性があることには注意が必要だろう。

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 一方、生鮮を除く食料品の価格については、すでに穀物価格自体はピークアウトしているものの、円安傾向が続いてきたことから、今後もしばらく価格転嫁が続く可能性が高いだろう。ただ、当初は10月の政府小麦売り渡し価格がロシアのウクライナ侵攻の影響を受けて大幅に引き上がることが懸念されていたが、岸田政権が価格を据え置くことを決断した。このため、当初懸念されていた年末から来年にかけての小麦関連製品の大幅値上げは回避されそうである。

為替は来年ドル安進行

 ただ、今夏の携帯端末価格の大幅値上げのように、円安の進展を理由に家電や外食産業などの値上げは2023年以降もしばらく続きそうだ。となると、為替の動向も2023年の物価を大きく左右しよう。

 しかし、物価上昇の主因となってきたドル高も2023年以降は円高に向かいそうである。というのも、すでに米国経済はこれまでの金利上昇などの影響を受けて明確に減速している。そして米国では、2年債利回りが10年債利回りを上回るとその後、必ず景気後退局面に入るという経験則があるが、すでに今年の夏時点でこの状況にあることからすれば、2023年の米国経済はさらに減速の度合いが強まることが予想される。

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 また、そもそもドル高のきっかけが、米国のインフレ率上昇に伴うFRBの利上げ観測の強まりである。しかし、米国のインフレ率上昇の主因の一つとなった一次産品価格は世界経済の減速などを見越してすでにピークアウトしている。となれば、来年以降は米国のインフレ率も低下傾向がより明確になるだろう。

 事実、FRBが+2%のインフレ目標とするPCEコアデフレーターを直近3カ月平均前月比が今後も続くと仮定してインフレ率を延長すると、早ければ来年の春以降にもインフレ率は+2%台に近づくことになる。となれば、今年は立て続けに急速な利上げを実施しているFRBも、来年以降は利上げ打ち止め、景気悪化の度合い次第では利下げに転じる可能性すらあるだろう。

 一方、円安の要因となっていた日本の経常黒字の縮小も、輸入一次産品価格が円安の進行以上に下落していることからすれば、日本の貿易赤字も縮小に向かおう。さらに、サービス収支の赤字も今後の水際対策の緩和に伴うインバウンド消費の増加などにより縮小に向かう等から、経常収支の黒字が拡大に転じることが2023年の円高要因となろう。

 また、日銀人事も円高圧力となる可能性がある。というのも、来年3~4月にかけて日銀副総裁、総裁の任期が満了となる。そして、最も重要な日銀総裁の後任人事は、これまで財務省と日銀の襷掛け人事となってきたことからすれば、次は日銀出身の総裁が誕生する可能性が高い。となると、リフレ的な政策志向の強い黒田日銀よりもタカ派にシフトする可能性があることからすれば、これも円高圧力となる可能性がある。

来年の家計負担は一人当たり+1.6万円程度

 以上を踏まえれば、来年以降のインフレ率は低下に転じる可能性が高いだろう。というのも、足元のインフレ加速は輸入物価上昇に伴うコストプッシュによるものであり、すでに原因となる一次産品の国際商品市況はピークアウトしているからである。実際、日経センターが公表している最新11月分のESPフォーキャスト調査によれば、CPIコアインフレ率は今年の10―12月期にピークを迎える見通しとなっている。

 持続的なインフレ率の維持にはディマンドプルインフレが必要であるが、来年にかけて世界経済は減速が強まる可能性が高く、そもそも日本は海外と異なり需要不足である。このため、来年以降はコストプッシュインフレ圧力の低下により日本のインフレ率は低下に転じ、コアCPIのインフレ率も+1%代前半まで下がるとエコノミストはみている。

 なお、ESPフォーキャスト通りに今後も消費者物価が推移すると仮定すれば、2022年のインフレ率は+2.2%に対して2023年のインフレ率は+1.8%に鈍化することになる。そして、家計の一人あたり負担増加額は2022年に前年から+2.2万円増加することに加え、2023年は+1.8万円増加すると試算される。インフレ率が鈍化するとはいえ、家計の負担はさらに増えることには注意が必要であろう。

(文=永濱利廣/第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト)

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永濱利廣/第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト

永濱利廣/第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト

1995年早稲田大学理工学部工業経営学科卒。2005年東京大学大学院経済学研究科修士課程修了。1995年第一生命保険入社。98年日本経済研究センター出向。2000年4月第一生命経済研究所経済調査部。16年4月より現職。総務省消費統計研究会委員、景気循環学会理事、跡見学園女子大学非常勤講師、国際公認投資アナリスト(CIIA)、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)、あしぎん総合研究所客員研究員、あしかが輝き大使、佐野ふるさと特使、NPO法人ふるさとテレビ顧問。
第一生命経済研究所の公式サイトより

Twitter:@zubizac

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