ビジネスジャーナル > マネーニュース > 「値上げの今、投資すべき」の違和感
NEW
松崎のり子「誰が貯めに金は成る」

「値上げが相次ぐ今だから投資すべき」の違和感…お金に関する欠かせないルール

文=松崎のり子/消費経済ジャーナリスト
【この記事のキーワード】,
預金通帳とお札(「gettyimages」より)
「gettyimages」より

 2022年を象徴する言葉といえば「値上げ」だろう。ここ1年、何度となく値上げ対策についての取材を受けてきた。その時に聞かれるのが「値上げが相次ぎ給料も増えない今、投資をしたほうがいいでしょうか」という質問だ。筆者は経済評論家でもアナリストでもないので原則として投資についてコメントしない方針だが、これに強い違和感を感じてきた。

 メディア側の気持ちはわかる。政府も2024年からの新NISAについて、制度の恒久化とともに投資枠を年間合計360万円まで拡大すると打ち出した。お金を増やすには、貯蓄より投資すべきだという「流行り」に乗りたいのだろう。しかし、筆者の答えは残念ながら「投資は値上げ対策にはならないし、向いていない人はしなくてもいい」というものだ。

 それより働く時間を増やすなどで収入を上げたほうが手っ取り早い。運用でリターンを得られるには時間がかかる。すぐに利益を得られる人がいるとすれば、それなりの金額をつぎ込んで、効率のいい運用ができる人だけだ。値上げとセットで語るのには首を傾げざるを得ない。

 そもそも投資はすべきなのか。その問い自体が本質からズレていると思う。投資も貯蓄も、目的のための手段でしかなく、その目的に合致しているかが大事だからだ。

 たとえば、学資保険に入るのは、18歳の時までに教育資金を確実に貯めたいからだ(金融商品としての良しあしは別として)。保険ではなくジュニアNISAでの積み立てを選ぶ人もいるかもしれない。18歳まで運用すれば、学資保険よりお金が増える可能性があるとの判断あってだろう。どちらが正解かは人によって異なるが、教育資金を用意するためという目的を持って金融商品を選んでいるのに過ぎない。

何のために投資するのかが抜け落ちている

 このように「投資すべきかどうか」には、「○○のためには投資すべきか」という目的から始めた方がいい。みんながしているからという理由でやみくもにするものでもなければ、短期的な値上げ対策でもない。初心者向けにと、よく長期・分散・積立のつみたてNISAを勧める声があるが、現在から数年後までの値上げに対抗するために、たかだか年間40万円(2024年以降は120万円まで)までの投資を始めて、1年で年5%のリターンが得られたとしてもせいぜい2万円程度だ。しかも、増えた資産を売却して初めて得られるので、1年で売ってしまっては積立投資の意味はない。

 現政府が推し進める新NISA案では、生涯にわたる非課税限度額は1800万円とのことだ。たとえ1万円ずつでも長期に渡り積み立て式で運用していけば、十分資産形成につながるだろうとの目論見で、はっきり言えば老後資金を自助努力で準備してほしいということに尽きる。

 今20代なら65歳まで働けば40年ほど、30代でも35年間の投資ができる。元本保証のない投資商品は値動き次第で増える時もあれば減る時もあるからこそ、「長期でならしてみると預貯金よりも増えます」という言い方しかできない。おまけにそれは30年後40年後の数字なので、大きく増やしたいなら数十年は使えないお金として忘れておく方がいい。どっちにしろ、近々の値上げ対策には使えないのだ。

投資は気が進まないならしなくてもいい

 長期投資は老後資金を作るために有効だとしても、現在の生活を切り詰めてまでする必要はない。それこそ生活費が値上げによって圧迫され、月に1万円しか余裕資金を捻出できないとしよう。すでに1000万円近く貯蓄があれば別だが、そうでなければ1万円を全額投資につぎ込むのは危険というものだ。

 また、1円でも元本が減るのが耐えられないという人も、投資向きとは言えない。相場は上がれば下がるし、下がれば上がるの繰り返しで、積立資金が半減することだってある。損益がマイナスのまま何年も回復しないこともざらだ。日経平均はいまだに1989年12月29日につけた3万8957円を抜いていない。2021年に3万円台に乗ったのだって30年ぶりと騒がれた。

 日本はダメでも全世界に投資すれば必ず上がるという声もあるだろう。しかし、投資した資金がしばらくマイナスのままで数カ月――ということに耐えられるかどうか。投資した資産が回復しないことに我慢できない人は、無理に投資で資産形成をせず、コツコツ預貯金に回す原資を増やすのでも別に悪くない。

 筆者自身は、節約も投資も趣味でやるものだと思っている。趣味とは、楽しめることが大事だ。節約に興味がない人は、いくらやれと言われても続かないし、無理に続けてもストレスがたまるだけで効果は上がらない。投資も同様で、興味が持てない人はあれこれ勉強する気にもならないだろうし、「他の人がいいと言っているから」という程度で銘柄選びをすることになる。それで一時的にでも運用がマイナスだったりすると、とてもショックを受けるだろう。

 元本保証がない投資の場合、結果は誰のせいにもできない。「何の勉強もいらないほったらかし投資で資産倍増」が事実なら、日本人は全員資産家になっている。「お金のことは難しくてよくわからないし、勉強も面倒」という人は、無理に投資などしないほうが心の安定は保てるだろう。

老後資金のために今の生活で無理をしないことが大事

 とはいえ、この先も日本の金利は劇的には上がりそうになく、預貯金だけでの資産形成は不利だ。だからといって、身の丈以上に投資に資金をつぎ込むのはやめたほうがいい。先にも書いたように、運用効果を上げるには10年単位で時間がかかるのだ。これからさまざまなライフイベントが続く若い世代は、特に結婚や出産、マイホームのための資金を貯めるほうが先決で、使うのは当分先になる老後資金用の投資には、無理なく出せる継続可能な金額にしておくべきだ。

 投資商品の運用先としてiDeCoも挙げられるが、こちらも引き出しできるのは60歳以降。拠出できる金額の目いっぱいまで行う必要はない。余裕ができたら増やせばいいだけのこと。とはいえ、教育費や住宅ローン返済と、お金がかかるライフイベントは年を経るごとに増え、投資用の資金をどんどん積み増しできるかどうかは未知数だが。

 最後に自分の投資体験を書くとすると、大学生時代から月5000~1万円ずつ積み立てし、給料が上がったらその差額をさらに上乗せし、生活コストは変えないまま投資金額を増やすという方法で元手を増やしてきた。当時はNISAもiDeCoの制度もなく、証券会社に出向いて入金するというアナログな方法だったが、コアな資産はそれで貯めることができた。

 しかし、運用益よりも積み立てに回す元手を増やすことに重きをおいた。投資は元手が大きいほどリターンも期待できるからだ。かなり損もしたが、おかげで自分の投資スタイルも固まった。やってみたからこそ向き不向きがわかる。投資はしてもしなくてもいいが、人任せにせず自分のお金に責任を持つこと。それは欠かせないルールだと思う。

松崎のり子/消費経済ジャーナリスト

松崎のり子/消費経済ジャーナリスト

消費経済ジャーナリスト。生活情報誌等の雑誌編集者として20年以上、マネー記事を担当。「貯め上手な人」「貯められない人」の家計とライフスタイルを取材・分析した経験から、貯蓄成功のポイントは貯め方よりお金の使い方にあるとの視点で、貯蓄・節約アドバイスを行う。また、節約愛好家「激★やす子」のペンネームでも活躍中。著書に『お金の常識が変わる 貯まる技術』(総合法令出版)。
Facebookページ「消費経済リサーチルーム

Twitter:@geki_yasuko

『定年後でもちゃっかり増えるお金術』 まだ間に合う!! どうすればいいか、具体的に知りたい人へ。貧乏老後にならないために、人生後半からはストレスはためずにお金は貯める。定年前から始めたい定年後だから始められる賢い貯蓄術のヒント。 amazon_associate_logo.jpg

「値上げが相次ぐ今だから投資すべき」の違和感…お金に関する欠かせないルールのページです。ビジネスジャーナルは、マネー、, の最新ニュースをビジネスパーソン向けにいち早くお届けします。ビジネスの本音に迫るならビジネスジャーナルへ!