生前贈与、税務調査で「なかったこと」にされ多額相続税が発生の危険
今回は本連載の前回記事から引き続いて、相続税と生前贈与について、女性公認会計士コンビ、先輩の亮子と税務に強い後輩の啓子が解説していきます。
亮子「相続税の税務調査も増えているみたいね」
啓子「そうですね。自営業の方や社長さんは税務調査にも慣れているかもしれませんが、一般のサラリーマン家庭に税務調査が来たら、あんまりいい気持ちはしないですよね」
亮子「そういう時に生前贈与が問題にならないように、注意ポイントを伝えておきたいね」
啓子「はい。今回は生前贈与のデメリットなども整理してみたいと思います」
生前贈与のメリット・デメリット
前回示したとおり、生前贈与は簡単な相続税対策としてオススメです。ただ、残念ながらデメリットもあります。メリットとデメリットをしっかり理解して生前贈与を活用してください。
まず、生前贈与のメリットは、生前中にいつでも誰にでも財産を引き継ぐことができることです。いつでも贈与することができるため、何年にも分けて贈与するなど、計画的に財産を引き継ぐことができます。また、遺言書がない場合には、亡くなった方の財産をどのように分けるべきか、その方の思いがわからないまま話を進めることになりますが、生前贈与であれば、みんなで相談しながら財産の分け方や処分方法などを決めていくことができます。
一方で、デメリットもあります。たとえば預貯金や株式などであれば、財産を明確に分けることも可能ですが、不動産など分割して贈与しにくい財産もあります。ひとつの不動産を計画的に基礎控除の枠内で生前贈与するのは難しいという点は、生前贈与の使いにくさといえるでしょう。
また、贈与は当事者同士の合意があって成立するものなので、贈与する側と贈与される側の両方の合意が必要です。たとえば、財産を譲り受ける側が贈与を拒否する場合には贈与することができません。また、注意事項を守って贈与をしないと、せっかく贈与したのに、贈与が有効に成立していないと判断されてしまい、相続税が課せられてしまうということもあります。
生前贈与で最も注意してほしいポイント
生前贈与をする際には、それを有効に成立させることが何よりも重要です。これができていないと、税務調査などで追及されてしまいます。
たとえば、親から子に生前贈与をしようというケース。子供名義の銀行口座をつくって、一定金額のお金を毎年その口座に移してくれていたという場合、実は子供がこの口座の存在を知らず、子供がこの口座の管理をしていないと生前贈与が成立していないと判断されることがあります。そうすると、生前贈与が成立していないとみなされて、せっかく贈与したと思っていた財産についても相続時に相続税の対象となってしまうわけです。
贈与は当事者間の合意がある場合に成立すると決まっていますので、お金をもらった人がそのもらった事実を知らない場合、贈与自体がなかったことにされてしまうのです。
有効に成立させるために、次の2つの方法をおすすめします。
お金を受け取った方が預金通帳やキャッシュカードを管理しているという事実があれば、お互いの合意があったと主張できます。その上で、贈与契約書をつくって署名押印をしておくと安心です。参考までに贈与契約書のひな型を掲載しておきます。