不動産・住宅情報サイト「LIFULL HOME’S」が発表した『住みたい街ランキング』2023年版中間結果によると、首都圏で借りて住みたい街の1位に「大宮」が躍り出たばかりか、ランキング上位を占めるのは準郊外エリアがすらりと並ぶ事態になったという。
当調査はイメージ頼みの人気投票ではなく、実際の物件問い合わせ数をもとにしたランキングのため、「本気」で住みたいエリアを示すと説明されている。同じ調査でも「買って住みたい街」の方は資産価値の高い都心部が顔を出すものの、賃貸となると2022年版で1位になった「本厚木」(2位)のほか、八王子(3位)、柏(4位)など、「憧れの街」とは言い難い地名がずらりと並ぶ奇妙な光景となるのだ(「LIFULL HOME’Sコロナ第7波下で変化の兆候?住みたい街ランキング<2023年版中間結果>」より)。
一つには、ご想像通りコロナ禍の影響がある。テレワークが定着し、必ずしも毎日通勤電車に揺られる必要がなくなったため、職住近接の都心部を選ぶインセンティブが薄まったこと。また、寝に帰るだけなら十分だったワンルームや1LDKも、そこで働くとなるとさすがに手狭で息がつまる。それならばと、郊外でも広めの物件を求める人が増えたとの要因もあるだろう。
コロナ前はベスト4に入っていた池袋や中野、高円寺はコロナ禍が顕在化した2020年調査から順位を落とし、今回の2023年版中間結果ではベスト10からも脱落している。年後半の数字を入れた最終結果は来年に発表されるが、ここから大きく変化するのかまだわからない。
ランキング上位はコスパがいい街?
今回上位となった街には共通の強みがあるという。「大宮」は都心部へは電車で30分程度、2位以下の「本厚木」「八王子」「柏」「三鷹」はいずれもJR山手線のターミナル駅まで乗り換えなし、最短20~40分程度でアクセス可能だ。駅周辺に生活に必要な施設が整っており、都心アクセスも便利な「コスパがいい」街が選ばれているというのだ。
しかし、“人気エリアの郊外化”の理由はコロナ禍だけではないと、LIFULL HOME’S総研副所長・チーフアナリストの中山登志朗氏は分析する。このところ我ら生活者を悩ませている物価高がそれだ。
上位4エリアの平均家賃(専有面積50㎡以下)は、5万円台後半から7万円未満。都心に比べると割安だ。とにかく東京23区に住むには住居費がかかる。人気エリアではワンルームでも10万円超えとなり、収入の半分近くが家賃に消えてしまうという若者も少なくないだろう。住居費を1万でも2万でも圧縮できれば、そのぶん支出に回せる。しかも、食品をはじめ生活必需品の値上げが止まらない中、今のうちに少しでも固定費を削りたいというのは人情だろう。
郊外エリアはディスカウントストア天国という一面も
コスパという面で、もう一つ触れておきたいのが大型ディスカウント店の存在だ。都心部では家賃や床面積、駐車場等の問題があり、大規模なディスカウントショップの出店は難しい。そうした店は、埼玉県や千葉県、神奈川県のロードサイドに向かう。土地が広く確保できるので、店の規模も大きくでき、品ぞろえも豊富だ。
流通業界誌によると、埼玉県は安売りをうたうスーパーやディスカウントストアの激戦区となっており、ロヂャースやスーパーバリューをはじめ7社もがしのぎを削っているという。競合店が増えれば価格競争になるのは必然で、客を呼び込むための「特価」が飛び交い、メーカーの値上げ圧力も通じない。
このご時世、必ずしも安値が永遠の正義とまでは言えないが、消費者にとっては天国のような環境だろう。この恩恵に預かるには車の所有がマストになるので、そのぶん生活経費が上乗せになるが、それを差し引いても生活必需品が安く買える店が近所にひしめいているとすれば、うらやましい限りだ。
筆者も以前、埼玉県の県北部に住んでいたことがある。車で5分もかからないエリアには大型ホームセンターや安売りスーパーが4店、日用品の店頭価格は東京よりも安いものが多かった。近所に農産物の直売場もあり、農家直送野菜はスーパーで買うのがバカらしいほどの価格で買える。
ネックは交通インフラだ。先にも書いたが、郊外に行くほど車がないと買い物にも困る。しかも、夫婦で2台持ちの場合もある。そのぶん駐車場代も都心よりかなり安いのだが。そういう意味でも、公共交通の便がいい「大宮」あたりが手頃なのだろう。
さらに郊外に向かうのか、都心回帰か
「借りて住みたい」のは都心へのアクセスがいいプチ郊外となったが、一生の住処となると話は少し変わるようだ。物件の供給状況にもよるが、1位「勝どき」、2位「横浜」、3位「白銀高輪」と人気エリアが並ぶ。
注目すべきは4位に「茅ヶ崎」が入っていることで、昨年調査より16ランクもアップした。5位に入った「平塚(昨年と同順位)」と並んで都心へのアクセスは悪くはないが、電車で1時間程度かかり、どちらかといえばオンよりオフのイメージだ。通勤時間はそこそこかかっても、自宅で過ごす時間を豊かなものにしたいという願望の表れだろう。
首都圏に通える郊外でも、移住支援金制度の対象になる地域がある。本来は東京圏からUIJターンにより起業・就業をする人を対象に支援金を支給する制度だが、自治体によってはテレワーカーも対象に入れている。
埼玉県の9市町村では、東京23区の在住者または通勤者(移住直前の10年間のうち通算5年以上、東京23区内に在住または千葉・神奈川・埼玉に在住して東京23区に通勤し、移住直前にも連続して1年以上通勤していた人など)が勤務先の業務をテレワークで継続する場合、最大130万円の支援金が出る。ただし、すでに今年度予算が終了している市町村もあるので注意が必要だ。
とはいえ、住まいを買うとなれば、やはり資産価値も無視できない。都心ブランドは捨てがたいと考える人もいるだろうし、それよりテレワークしながら自然豊かな郊外で暮らしたいと考える人もいる。もちろん、子どもの教育環境や家族の希望もあるだろう。もう少し先の未来に目を向けると、高齢者施設の費用も気になる。やはり都心部では顎が外れそうな金額が必要となるからだ。
現在、そして将来の生活コストを考慮した上での住まい探しは一筋縄ではいかない。そもそも、新築・中古ともに物件価格は高騰する一方だ。その住宅ローンが生活コストをさらに押し上げ、さらにはリタイア後まで返済が残れば老後資金を圧迫することにもなる。ランキングの発表会では「身の丈郊外」という言葉が出ていたが、まさに身の丈に合った住まい選択が求められる時代だろう。
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