「はてな匿名ダイアリー」に投稿された「年収1000万の人は埼玉に来ると幸せになれるよ」と題する書き込みがインターネット上で大きな反響を呼んだのは、今年2月初旬のことだった。
投稿者は、年収1000万円を「何もしないには十分すぎる収入だけど、何もかもするには足りない収入」と位置づけ、「何をして何をしないか、よく吟味する必要がある」と説く。そして、食費、光熱費、保険、通信費などの支出を抑えても節約できるのはわずかだとし、「じゃあなにを減らすか? 住居費でしょ!」と、埼玉県に住むことを強く推すのだ。
確かに、埼玉の住居費は東京に比べると格段に安い。駅近くの3LDKの一戸建てが3000万円以内で購入可能で、場所にこだわらなければ、その価格で新築物件を建てることも可能かもしれない。
インテリジェンスが運営する転職サービス「DODA」の「平均年収ランキング2016」によると、30代の平均年収は467万円で、40代は564万円。一般的に見て年収1000万円は“勝ち組”であり、その上で住居費を抑えることができれば、より満足度の高い生活を送ることができそうだ。
しかし、「年収1000万円の人が埼玉に住んでも、幸せになれるとは限りません」と語るのは、夫婦でファイナンシャルプランナーとして活躍し、地方移住希望者へのアドバイスなども行うFPサテライト代表の町田萌氏である。
町田氏によれば、表面的なコストパフォーマンスだけで住む場所の良し悪しを判断するのは難しいという。
通勤時間の長さは全国3位、“公立王国”の弊害も
「年収1000万の人は埼玉に来ると幸せになれるよ」の投稿者が埼玉を推す理由のひとつとして挙げるのが、「都心が近い」という点だ。
大宮、浦和といった埼玉の主要都市は、都心まで30~40分程度。投稿者がいうようにアクセスは悪くなく、路線的に出やすいため「池袋にいるのは埼玉県民ばかり」といわれることもあるくらいだ。
だが、都心へのアクセスのよさは必ずしもメリットだけとは限らない。町田氏は「アクセスがいいと、自然と都内に出かける機会が増え、生活に占める移動時間の割合が増える傾向がある」と指摘する。
「2011年の総務省の『社会生活基本調査』によると、通勤時間の全国平均が片道36分だったのに対し、埼玉は46分と全国で3番目の長さでした。このデータでわかるのは、埼玉では多くの人が都内に向かって通勤し、移動にかなりの時間をとられているということです。
利用できる路線が限られている場合も多く、ベッドタウンならではの『通勤ラッシュがつらい』との声もよく聞きます。移動時間をロスと感じる人にとっては、埼玉から都内への移動は大きなストレスになるかもしれません」(町田氏)
また、「中学受験は少数派」「ショッピングモールがある」「車がいらない」という点も、埼玉を推すポイントとされている。
実際、東京と違って埼玉は「公立至上主義」とでもいうべき傾向が強い。筆者自身も埼玉出身で現在も埼玉に住み続けているが、成績のいい同級生たちは、ほぼ公立校に進学した。このように「中学受験が少数派」である分、子どもの教育にかかるお金を削減できるのは事実だろう。