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利益は青山の15倍…AOKI、独り勝ちの秘密 スーツ需要激減をハングリー経営で克服

文=A4studio、協力=中井彰人/流通アナリスト
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AOKIのHPより

 低迷が囁かれる紳士服業界でAOKIグループが独走状態になっている。AOKIは紳士服ビジネス以外の異業種に進出しており、子会社の快活フロンティアが経営するネットカフェ「快活CLUB」の売上が好調なのだ。そこで今回はAOKI好調の原動力となった経営戦略について、流通アナリストの中井彰人氏に話を聞いた。

1992年をピークに右肩下がりの紳士服業界

 まずは、紳士服業界の簡単な歴史を振り返りつつ現状を解説していただこう。

「アパレル産業は1960年頃までオーダーメイドが主流でしたが、それ以降に既製服の大量生産体制が確立されたことで、量産されたスーツをリーズナブルに扱う紳士服業界も拡大していきました。さらに1980年代からはバブル景気の影響もあってその勢いはうなぎのぼり。しかし、需要に供給が追いついたことやバブル崩壊の影響もあって、90年代前半にはその人気はピークアウトしてしまうのです。

 1992年のピーク時には国内のスーツ販売数は約1350万着にものぼっていましたが、それ以降は働き方の多様化などでスーツの需要は減り続け、2020年には約400万着となっています。ピーク時と比較すると約7割も落ち込んでいることになるのです。追い打ちをかけるように2020年以降はコロナ禍でリモートワークが定着し、スーツ需要は下降線の一途をたどっています。ブーム時は雨後の筍のように乱立した大型紳士服専門店でしたが、ピークアウト後は限られた需要を奪い合うような戦国時代に突入していたのです」(中井氏)

 では現在の勢力図において、AOKIはどんな立ち位置なのだろうか。

「現在は店舗数1位の『洋服の青山』、2位の『AOKI』、3位の『コナカ』、4位の『紳士服・スーツのはるやま』が業界の四天王的な存在として知られていますが、このなかでも青山とAOKIはグループの売上高が1000億円を超えており、実質2強体制といっても過言ではないでしょう。2023年3月期決算を見ると、青山の売上高が1231億6400万円、営業利益が2億8200万円、AOKIの売上高が1190億7400万円、営業利益が43億9800万円となっています。売上高こそ青山が僅差で上回っていますが、営業利益はAOKIが15倍ほどの差をつけているわけです」(同)

ネカフェやカラオケ店への業態転換で成功

 AOKIも青山も1000億円を越える売上高を記録しており、営業利益ではAOKIが圧勝しているとはいえ、青山もきちんと黒字化できている。その要因は冒頭でお伝えしたとおり、異業種進出の成功がカギになっているようだ。

「1992年のピークアウト後の紳士服業界は、『限られた需要を奪い合うような戦国時代に突入した』とご説明しましたが、これは言い換えるなら、売上の良い店舗を残して売上が悪い店舗を畳んでいく経営に移行したということでもあります。このときにAOKIと青山は、ただ単に売上の悪い店舗を畳むのではなく、別業態の店舗に改装して再利用するという戦略を取っていたのです。

 AOKIはカラオケ店のコート・ダジュール、ネットカフェの快活CLUBなどのまったくの異業種のオリジナルブランドを確立して業態展開していました。一方の青山は大創産業とフランチャイズ契約をして、100円ショップの『ダイソー』に業態転換するなどして運営を続けていたんです。紳士服店として不採算店だった店舗を、こうした業態展開で再利用することにより損失を最小限に抑えられるだけでなく、新たな利益を生み出すチャンスに変えていったのです」(同)

 異業種参入という根底の戦略は共通していたAOKIと青山だが、利益率で差が出てAOKIに軍配が上がった要因とは。

「青山がとったダイソーに業態転換していくという方法は、新規事業にかける手間やノウハウの構築を必要としないため、手軽に空き店舗の再利用できるというメリットがありました。ですが、デメリットとして大創産業側に高額のフランチャイズの契約料を払わねばならず、ダイソーという人気ブランドのおかげで売上高は上がっても、実際のところあまり利益は出せていないということでしょう。

 一方のAOKIは快活CLUBを自力で立ち上げ、その売上から高い利益を生み出しました。異業種にいきなり参入するのはハードルが高いように思えますが、実際ネットカフェビジネスはそこまで複雑ではないので、AOKIはあっという間にビジネスのコツを理解し、圧倒的な資本力でネットカフェ業界を席巻していきました。ネカフェ業界にとってAOKIの参入は『黒船到来』のように映ったはずですが、これはAOKIの経営戦略がお見事だったということです」(同)

 売上高好調の青山だが、その実態はリスク覚悟で勝負に出ていたAOKIと違い、汗をかかずにラクをしていたようなものなのか。

「やはり青山には業界1位という肩書きがあるせいか、チャレンジ精神が足りなかった印象です。逆にAOKIは業界2位といっても年々需要が低下する紳士服業界にきちんと危機感を覚え、意欲的に新ビジネスを展開してきました。AOKI成功の要因は、そういったハングリー精神の強さが確実に関係していると思います」(同)

異業種への参入で本業のダメージを軽減

 本業が斜陽産業となってしまった企業に求められるのは、AOKIのように多角化経営に本腰を入れていく視点なのだろうか。

「おっしゃるとおりです。スーツの需要は着実に減り続けており、紳士服業界は、カジュアルシフト、レディース取り込みに必死です。また今、多くの紳士服専門ブランドは量産スーツではなく、オーダーメイドスーツで利益を上げる方向に舵を切っています。これは、昨今のユーザーの嗜好を捉えたものではあるので、一定の需要は見込めるでしょうが、そもそもスーツを着るカルチャーが薄れつつあるので根本的な解決には結びつきづらい。だからこそ『乗っている船の補修』だけではなく、同時進行で『新たな船を造る』という経営が求められるわけで、AOKIはまさにそれで結果を出したわけです」(同)

 最後に、AOKIの今後の戦略予想を聞いた。

「コート・ダジュールというブランドを確立したカラオケビジネスを、変化させていくのではないでしょうか。というのも、AOKIのカラオケビジネスは、コロナ禍の影響で1年ほど前までかなり客足が落ち込んでいたものの、さすがAOKIと言うべきか、実は客足が落ち込み始めた段階で、そのスペースを別目的で提供するビジネスの布石をすでに打っていました。それはオフィス環境を共有できるコワーキングスペースビジネスです。

 近年、リモートワークの流行で、人に邪魔されることなく仕事ができるスペースを確保する難しさが叫ばれおり、コワーキングスペースの需要が高まっています。現在AOKIはこうしたコワーキングスペースを都心部で展開していますが、今後はそこで得たノウハウを生かして、郊外のロードサイドで紳士服店やカラオケ店を業態転換して、大規模なコワーキングスペースに改修するといった一手を打ってくるかもしれませんね」(同)

 紳士服業界での成功に必死にしがみつくのではなく、時代の流れを読んで異業種にチャレンジしていくAOKIの経営センスには驚かされるばかり。縮小し続ける紳士服業界に依存しない同社が今後どんな躍進を遂げるのか、今後も目が離せない。

(文=A4studio、協力=中井彰人/流通アナリスト)

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A4studio

エーヨンスタジオ/WEB媒体(ニュースサイト)、雑誌媒体(週刊誌)を中心に、時事系、サブカル系、ビジネス系などのトピックの企画・編集・執筆を行う編集プロダクション。
株式会社A4studio

Twitter:@a4studio_tokyo

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