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藤和彦「日本と世界の先を読む」

鳥インフルエンザ、鳥から人に感染例…想定死者数64万人、国内のワクチンがゼロ

文=藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー
鳥インフルエンザ、鳥から人に感染例…想定死者数64万人、国内のワクチンがゼロの画像1
厚生労働省のHPより

「新型コロナの流行は以前に比べてはるかに落ち着いてきており、その脅威は今年中にインフルエンザ並みに落ち着く可能性がある」

 世界保健機関(WHO)は3月17日、このような見解を示した。 日本でもポストコロナの流れが加速している。3月13日からマスクの着用に関するルールが「個人の判断」となった。新型コロナウイルスの感染症法上の分類も5月8日に5類に引き下げられることが決まっている。

 パンデミックから3年が経ち、世界で安心感が広がっているが、油断は禁物だ。国際赤十字・赤新月社連盟のシャバガン事務総長は1月下旬、「次のパンデミックはすくそこまで来ている」と危機感を露わにした上で、各国に対し、年内に準備態勢を強化するよう求めている。世界では数年に1回の割合で新たな感染症が出現しており、「次のパンデミックは何か」との関心が高まりつつある中、筆者が懸念しているのは鳥インフルエンザの大流行だ。鳥インフルエンザが猛威を振っている原因として、専門家は「ウイルスが弱毒化し、感染した野鳥が死なずにウイルスを周囲に出し続けているからだ」と指摘する(3月12日付日本経済新聞)。鳥インフルエンザは様々な鳥にうつりやすくなっており、哺乳類への感染例も相次いで報告されている。鳥インフルエンザの人への感染は心配する必要はないとされているが、WHOのテドロス事務局長は2月上旬「鳥インフルエンザが変異して人から人に感染する事態となることも想定しておかなければならない」と警戒感を強めている。

「H5N1型の種の壁は想像以上に低い」

 インフルエンザウイルスは、HA(ヘマグルチニン、18種類)とNA(ノイラミダーゼ、11種類)という2つの抗原によって分類されている。世界で感染が拡大している鳥インフルエンザはH5N1型だ。日本では3年ぶりにインフルエンザが流行し、全国各地で学級閉鎖などが相次いだが、人に感染するインフルエンザはH1N1型とH3N2型だ。ウイルスが感染するためには宿主の受容体(レセプター)と適合する必要がある。H5N1型インフルエンザは鳥のレセプターと適合できるが、人のレセプターとは適合しずらいとされており、人から人への感染例は報告されていない。

 だが、鳥から人への感染例は少なからず発生している。H5N1型インフルエンザの人への感染が最初に報告されたのは1997年5月、香港だった。18人が感染し、そのうち6人が死亡した。その後、欧州や北米、アフリカなどにも波及し、世界全体の感染者の累計は868人に上り、そのうち457人が亡くなっている。東京大学の河岡義裕特任教授らが2012年に「H5N1型の種の壁は想像以上に低い」との研究結果を発表したことから、研究者の間で「H5N1型インフルエンザのパンデミックが発生するのは時間の問題だ」との危機感が募るばかりだったが、2010年半ば頃からH5N1型の流行は急速に衰えた。

 自然界から姿を消したかに思われたH5N1型が復活し、以前をはるかに凌ぐ規模で大流行しているのが現在の状況だ。その理由は定かではないが、人為的な要因が関係しているのではないかと筆者は疑っている。新型コロナの起源はいまだに明らかになっていないが、「機能獲得実験によって誕生した『人工』のウイルスが研究所から漏出した」との説が有力になっている。H5N1型インフルエンザウイルスについても機能獲得実験が行われていたことが明らかになっており、どこかの研究所で保管されていた人工のウイルスが外部に流出し、大流行につながった可能性は排除できないだろう。

最大の想定死者数はコロナを上回る

 いずれにせよ、流行すればするほど、脅威となる変異型が出現する確率は高くなる。政府は新型コロナのパンデミックに対処するため「新型インフルエンザ等対策特別措置法」に基づく措置を講じてきたが、H5N1型インフルエンザがパンデミックを引き起こした場合への備えがこの法律が制定された理由の1つだった。H5N1型は全身に症状があらわれ、致死性が高いのが特徴だ。病原性が高いまま人に感染するタイプになると仮定して、政府が導き出したH5N1型による死者数は最大64万人だ(現時点の新型コロナによる死者数の約10倍)。

 今回のパンデミックで痛感したのはワクチンの有効性だ。政府はパンデミックに備えH5N1型のワクチンの製造を2006年に開始し、1000万人分以上を備蓄したが、その後更新されることがなく、現在、使用可能なワクチンはゼロになってしまった(3月15日付東洋経済オンライン)。だが、朗報もある。米ペンシルベニア大学は昨年11月、H5N1型を含む20種類のインフレエンザに対応できるメッセンジャーRNAワクチンを開発し、動物実験で有効性が確認されたという(米サイエンス誌)。今後、世界での開発が進むことを期待したいが、ワクチンの副反応をめぐる訴訟に長年苦しんだ日本企業の開発能力はがた落ちになっている。残念ながら、日本は自力でワクチンを確保するのは難しい状況にあるといわざるを得ない。このような厳しい現実を踏まえ、政府は国際協力を積極的に進めるなどワクチン確保のための取り組みを直ちに開始すべきではないだろうか。

(文=藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー)

藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー

藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー

1984年 通商産業省入省
1991年 ドイツ留学(JETRO研修生)
1996年 警察庁へ出向(岩手県警警務部長)
1998年 石油公団へ出向(備蓄計画課長、総務課長)
2003年 内閣官房へ出向(内閣情報調査室内閣参事官、内閣情報分析官)
2011年 公益財団法人世界平和研究所へ出向(主任研究員)
2016年 経済産業研究所上席研究員
2021年 現職
独立行政法人 経済産業研究所

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