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ジャニー氏・性加害、軟着陸の兆し…ジャニーズ社長の会見は不可欠、テレビ局に変化

文=水島宏明/ジャーナリスト、上智大学文学部新聞学科教授
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ジャニーズ事務所

 ジャニーズ事務所の創業者である故ジャニー喜多川氏による未成年の少年たちへの性虐待・性暴力疑惑。ここにきてようやく「出口」が見え始めてきたように感じられる。これまでは「週刊文春」(文藝春秋)がジャニーズの元少年たちの証言をいくら報じても、テレビをはじめとする大手メディアは反応しなかった。海外のBBC(英国放送協会)が“文春砲”をベースに検証しながら取材したドキュメンタリーをいくら放送しても、さらにはBBCの制作者が日本外国特派員協会で記者会見しても、新聞で単発の報道がされることがある程度で、影響力が大きいテレビはこの問題を扱わなかった。しかも「国民の知る権利」に奉仕する公共的な目的を持つニュース番組でさえもほとんど扱わない。

 なぜなのか。テレビはジャニーズ事務所に「おんぶにだっこ」状態だからだ。テレビ各社の番組を見てみよう。朝の情報番組、夕方や夜のニュース番組、あるいはバラエティー番組やドラマまでジャニーズを中心とするタレントたちが大勢出演している。ゴールデンウィーク中もKing & Prince、Kis-My-Ft2、KinKi Kids、Snow Man、なにわ男子、二宮和也、亀梨和也、東山紀之、村上信五、木村拓哉、岡田准一、櫻井翔、風間俊介、松本潤などが各番組に出まくっていた。民放でもNHKでもテレビで見る男性タレントの大半を占めていることがわかる。しかもドラマなら主役級、バラエティーでも司会を担う大物が目立つ。

 そうしたタレント群を擁するジャニーズ事務所は圧倒的な“権力”ともいえる存在になっている。テレビ局が性加害の問題に触れないのは、そうした大物たちを抱える芸能事務所への“忖度”だった。「ジャニーズ事務所ににらまれてタレントを引き揚げられたら大きな損失につながりかねない……」。そうした思惑から自社のニュースなどで報道することを控えてきた。

 3月8日にBBCが『Predator: The Secret Scandal of J-Pop』というドキュメンタリーでジャニー喜多川氏による少年たちへの性加害の事実を報道しても、日本の大手メディアは黙殺した。2017年に米国ハリウッドの大物プロデューサー・ワインスタインによる女優らに対する仕事上の力関係を背景にした性暴力が次々に明るみになり、「#Me Too」の声が世界中で広がった。その後でも日本では大物芸能プロデューサーでもあるジャニー喜多川氏による性加害問題は、「週刊文春」以外のメディアは扱おうとはしなかった。

厳しい姿勢を示すスポンサー会社も

 だが、ここにきて潮目が少し変わりつつある。4月12日、「週刊文春」のインタビューに顔出し・実名でジャニー氏による性被害を生々しく証言したカウアン・オカモト氏(26)が外国人特派員協会で記者会見した。さらに4月21日に朝日新聞デジタルは、ジャニーズ事務所が社員や所属タレントらに聞き取り調査を行ったことを取引先の企業に伝えたと報じた。この「取引先の企業」というのはレコード会社やタレントがCMに出演するスポンサー企業などだ。「週刊文春」(5月4・11日ゴールデンウィーク特大号)によると、ジャニーズ事務所は一部取引先企業に対して4月21日に次のような文書を送ったという。

<本件につき、問題がなかったなどと考えているわけではございません>

創業者であるジャニー喜多川氏に過ちがあったのであれば、そこから決別する意思を示唆するような内容である。さらに、これまでもタレントに面談やヒアリングをしてきたとした上で以下のような文章が続いた。

<今回、退所されたタレントの会見後も、あらためて同様のヒアリングを行います>

「週刊文春」は、この文書がどの範囲にまで送られたものかを確認するため、116の企業や公的機関に対して質問状を送ったという。コーセーなど18社が文書を受け取ったと回答し、うちブルボンなど6社は広告代理店経由で文書を受け取ったと明かしたという。一方で、ジャニーズのタレントがCM に出演している企業でも、日産自動車や森永製菓など受け取っていないところもあったという。つまり送付先の選定に一貫性はなく、まだ様子見のような段階らしい。「週刊文春」側の問い合わせに対して、少なくない企業が口をつぐんだという。

 一方で、スポンサーのなかにも「公平かつ適正な調査によって事実関係を明らかにすることが重要」(ローソン)、「事実であれば誠に遺憾。文書に記載されている今後の対応策が進展すること期待している」(アサヒグループHD)などと厳しい姿勢を示す会社もあった。

多くの人が望む軟着陸

 では、この問題は今後どうなっていくのか。テレビ局にとっても芸能事務所にとっても、鬼よりも怖い存在がスポンサー企業だ。一番動向が気になるのはスポンサーの姿勢である。過去のことで加害者がすでに亡くなっているとしても、問題は未成年=子どもへの性加害だ。本来、決して許されることではない。であれば、早めに一度、ジャニーズ事務所としては社長が記者会見して謝罪するというプロセスはどうしても不可欠だろう。

 ジャニーズ事務所も、いつまでもこの問題を長引かせて対応が後手後手に回っているという印象を残すことは避けたいはずだ。そのためには調査を信頼できる第三者の手に委ねて、きっちりと実施することが重要だ。これまで無視を決め込んでいたテレビだが、今回の「ジャニーズ事務所による所属タレントらへの聞き取り調査実施」のニュースは、4月22日以降にNHKやテレビ朝日、フジテレビ、TBSが報じている。少しずつではあるが、この問題はメディアにとってタブーではなくなりつつある。

 今後どこかのタイミングでジャニーズ事務所が記者会見などをして「公式謝罪」をしてしまえば、現在は忖度してほとんど報道しないテレビ各局も雪崩を打つように報道を始めるに違いない。テレビ局は何よりも世の中の流れを読むことにかけては敏感なメディアだからだ。ジャニーズ事務所が「性加害との決別」に向けて舵を切ったとき、テレビ局は一斉に、あたかも以前からそうしていたかのようにジャニー喜多川氏の問題を報じるだろう。

 他方で加害者がすでに故人であることから、「過去の問題」としてなるべく今後に引きずらせないように“軟着陸”も試みるはずだ。罪は罪とし、功は功として評価する。ジャニー氏が熱心にオーディションや稽古につき合って数多くのタレントたちを発掘してきたという“神話”は今後も守られ、リピートされるはずだ。

 一般の人々は、ジャニー氏の行為については、徹底的に追及すべきというよりも、過去の忌まわしい記憶と決別して新しい時代に向かってほしいというのがジャニーズのタレントたちのみならず、多くのファンにとって共通する願いだろう。できれば人気タレントたちが一斉に事務所を去るような事態に陥らず、なるべく穏便に済ませて、芸能界の性をめぐるコンプライアンスを守っていきたいと考えているはずだ。

 ジャニーズ事務所がその腹を固めてしまえば、多くのテレビ局やスポンサー企業、さらにファンの多くが望む“軟着陸”は実現できるに違いない。さじ加減はかなり難しい面もあるが、ジャニーズの経営陣がそうした世論を読み違うことなく、無事に新しい時代に向かっていくことを期待したい。

(文=水島宏明/ジャーナリスト、上智大学文学部新聞学科教授)

水島宏明/上智大学文学部新聞学科教授

水島宏明/上智大学文学部新聞学科教授

1957年生まれ。東大卒。札幌テレビで生活保護の矛盾を突くドキュメンタリー「母さんが死んだ」や准看護婦制度の問題点を問う「天使の矛盾」を制作。ロンドン、ベルリン特派員を歴任。日本テレビで「NNNドキュメント」ディレクターと「ズームイン!」解説キャスターを兼務。「ネットカフェ難民」の名づけ親として貧困問題や環境・原子力のドキュメンタリーを制作。芸術選奨・文部科学大臣賞受賞。2012年から法政大学社会学部教授。2016年から上智大学文学部新聞学科教授(報道論)。著書に『内側から見たテレビ やらせ・捏造・情報操作の構造』(朝日新書)、『想像力欠如社会』(弘文堂)、『メディアは「貧困」をどう伝えたか:現場からの証言:年越し派遣村からコロナ貧困まで』(同時代社)など多数。
上智大学 水島宏明教授プロフィールページ

Twitter:@hiroakimizushim

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