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日銀は「金融政策のみでの2%物価目標」を諦めた…過去25年の政策レビューに着手

文=中島精也/福井県立大学客員教授
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植田和男・日銀総裁(YouTube「日本銀行動画チャンネル」より)

 新しく日銀総裁に就任した植田和男氏のもとで4月27〜28日、初の金融政策決定会合が開かれた。マーケットはイールドカーブ・コントロール(YCC)の変更について何らかの動きがあるのではないかと見る向きもあったが、蓋を開けて見ると、これまでの黒田体制で採用された政策をそのまま踏襲しており、現状維持を決めたことから、やや失望する声も上がって、為替市場では一時円安に動く場面もあった。

 現状維持の金融政策の中身を確認すると、第1に短期金利は▲0.1%のマイナス金利を適用する。長期金利はゼロ%で推移するよう、上限を設けず長期国債を買い入れる(イールドカーブ・コントロール/YCC)。第2に長期金利の変動幅を「±0.5%程度」とし、0.5%での指値オペを実施、金融市場調節方針と整合的なイールドカーブの形成を促すため、大規模な国債買入れを継続する。第3は長期国債以外の資産買入方針については、

(1)ETFとJ-REITの買入れはそれぞれ年間12兆円、1,800億円に相当する残高増加ペースを上限に、必要に応じて、買入れを行う
(2)CP等、社債等については感染症拡大前と同程度のペースで買入れを行い、買入れ残高を感染症拡大前の水準(CP等:約2兆円、社債等:約3兆円)へと徐々に戻していく

というものである。

植田総裁誕生の意味

 今回の声明文で注目されるのは2点。第1点は「2%の物価安定の目標」に関して、その前文で「賃金の上昇を伴う形で」が付記されたことである。金融政策のみでは物価目標の実現が難しいことを踏まえてのことかと推測される。第2点は第1点とも絡むが、過去25年間の金融政策運営について1年から1年半程度の時間をかけて、多角的にレビューを行うことを決めたことである。

 日銀はデフレのスタートを金融危機が起きた90年代後半と捉えて、それから25年間、「物価の安定」を実現すべく、さまざまな金融緩和政策を実施してきたが、2%物価目標の実現はいまだに達成されていない。日銀内部では結局、金融政策のみでは2%物価目標は無理ではないかという見方が強まっている。第1点の「賃金の上昇を伴う形で」という表現は、日銀の思いが詰まったものとみられる。もし、金融政策のみでは物価目標の実現が無理ならどう対応すべきか、望ましい金融政策とは何か、これらを検討するタイミングに来ているとの認識である。

 さて、過去25年という大掛かりなレビューを行うとすれば、金融政策の基本に立ち返って考察する必要がある。その作業を主導する人物は経済学、金融論に精通した学者であるのが相応しいというわけだ。それが植田総裁実現の背景にありそうだ。しかも、植田総裁は審議委員として金融政策決定に関わった経験もあり、いわゆる学者バカではない。

 海外の中央銀行のトップを見ても、FRB(米連邦準備理事会)のバーナンキ議長やイエレン議長、ECB(欧州中央銀行)のドラギ総裁など学者が多いのが実情である。日銀もいつまでも財務省と日銀の間で総裁ポストをやり取りするこれまでの方式では時代遅れであり、時に学者が総裁ポストについて金融政策をリードする局面があっても良いのではないか、という意見が政府を動かしたようだ。一度、原点に戻って、レビューを行い、日銀としてあるべき中央銀行の姿を模索する、これが植田人事の背景かと思われる。

中島精也/福井県立大学客員教授

中島精也/福井県立大学客員教授

1947年生まれ。横浜国立大学経済学部卒。ドイツifo経済研究所客員研究員(ミュンヘン駐在)、九州大学大学院非常勤講師、伊藤忠商事チーフエコノミストを経て現職。丹羽連絡事務所チーフエコノミストを兼務。著書に『傍若無人なアメリカ経済─アメリカの中央銀行・FRBの正体』(角川新書)、『グローバルエコノミーの潮流』(シグマベイスキャピタル)、『アジア通貨危機の経済学』(編著、東洋経済新報社)、『新冷戦の勝者になるのは日本』(講談社+α新書)等がある。日経産業新聞コラム「眼光紙背」と外国為替貿易研究会「国際金融」に定期寄稿。

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