NHKの記者が不正な経費請求を行ったことが判明したとして、第三者委員会を設置して調査を進めると発表した。
NHKが発表したところによると、報道局に所属する30代の記者が不正な経費請求を行っているとの情報が寄せられ、実際に調べたところ、知人との私的な飲食費を業務上の経費として精算していた疑いが強いことがわかったという。NHKは、外部有識者からなる第三者委員会を設置し、ほかの職員も含めて同様の不正がないか調査を進めるとしている。
一般企業でも、飲食代金は「接待費」「交際費」として経費に計上することが多く、業務上の経費なのか私的利用なのか判別がつきにくい。そのため、不正に計上されることも珍しくない。実際に、元税務署職員の税理士は、「税務調査でも飲食費と交通費は私的利用とみられるケースが多く、修正申告の対象となることが多い」と明かす。
とはいえ、NHKの主たる財源は受信料。すなわち、国民から半強制的に徴収した、税金にも似た性格の公金で、その管理は厳格になされなければならない。そのため、NHKの予算等については、国会で審議されている。つまり、受信料の使途は国民(受信料納付者)の納得がいくものでなければならないといえる。
NHKは不正請求の対象となった飲食代金について、「取材・制作に関わる領域ではあるものの、説明責任を果たすため、外部有識者からなる第三者委員会を早急に設置し、事実関係などの調査を進める」としているが、一方で「このほかにも、不正が疑われる案件が複数ある」と述べており、ずさんな経費管理が常態化していた可能性もでてきている。
NHKは「報道の中核組織において、公金である受信料の私的利用という、あってはならないことが生じたことは言語道断であり、徹底的に調査して厳正に対処してまいります」とコメントしているが、実際には私的な飲食代が経費計上される例は少なくないようだ。
「NHKに限らずメディア関係では、人間関係の構築が重要になります。さまざまな人脈から情報を取得したり、取材につながったりするので、私的な飲食と業務上の飲食の線引きが難しいことが多いのです。そのため、一度でも取材したことがある相手や、今後取材する可能性がある相手との飲食代を経費として計上することは多々あります」(NHK関係者)
だが、今回の不正請求問題では、明らかに業務と関係ない知人との飲食代を経費に計上していたからこそ、その状況をしる人物がリークして白日の下にさらされることになったのだろう。NHKでは、飲食代などを簡単に経費請求できる状態なのか。
「一般企業と流れは変わらないと思います。経費を立て替えた場合は、上司の決裁を受けて経理に請求します。また、ロケや出張に出かける場合は概算で『前渡し金』を受け取り、使った分を後から精算するという流れです。
今は経費の使い方がシビアにチェックされるようになりましたが、かつては経費の監督が緩く、雑に経費精算をしていたことがあります。特に顕著だったのは、タクシーチケットです。
NHKでは部署によって、深夜まで勤務したり早朝出勤するケースがあるので、そのような部署ではタクシーチケットを利用します。タクシーを利用した際、このチケットを運転手さんに渡すと、タクシー会社が後からNHKに請求する、というものです。本来、終電後まで仕事をした場合などに使うものですが、22時や23時くらいに仕事が終わっても、深夜まで残業したことにしてチケットを使う、という例がかつて多発していました。あまりにもタクシー代が高騰したため、経理部から自粛要請が出たほどです。
また、番組制作などの予算は、ある程度決まっていますが、多く余るようだと次回から減らされるかもしれないから、ロケなどに出る際には『必ず使い切ってこい』と上司から言われ、スタッフや関係者を巻き込んで飲み会などで豪勢に使ったりします。これは業務上での飲食といえる範囲なのかもしれませんし、民放では珍しくないでしょうが、NHKではふさわしくないと思います。公金を使っているという意識が薄いといえます。こういったことが続けば、経費の感覚が緩くなるのは仕方ないのかもしれません。
今回、不正請求が発覚したのは報道局の記者ということですが、記者職は取材対象者との関係が私的な付き合いなのか業務上の付き合いなのか傍目からわからないことが多く、監査が難しいのが実情です。そのため、だんだんと私的な飲食代や交際費なども経費に乗せて請求するようになったのではないでしょうか」(同)
今回判明した不正請求は数万円といわれているが、実際は氷山の一角でしかない可能性もある。だが、第三者委員会が調査を行っても、すべてを明らかにするのは容易ではないだろう。
(文=Business Journal編集部)