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松本人志さん休業、テレ朝・TBSは報道セオリー順守…各局報道の姿勢に差

取材協力=水島宏明/上智大学文学部新聞学科教授
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TBS放送センター(「Wikipedia」より)
TBS放送センター(「Wikipedia」より)

 先月発売の「週刊文春」(文藝春秋)によって女性への問題行為が報じられていたタレントの松本人志さん(ダウンタウン)が8日、芸能活動休止を発表した。昨年、旧ジャニーズ事務所(現SMILE-UP.)が社名を変更するまでに至った創業者の故ジャニー喜多川元社長による性加害問題をめぐり、これまで「週刊誌による芸能ゴシップ」と考えて報道してこなかったテレビ各局は検証番組などを放送し反省の姿勢を示したが、今回の松本さんの問題についてはどう報じているのか。日本テレビ報道局記者兼ドキュメンタリー番組ディレクターとしてテレビ局の報道畑を中心に番組制作の現場に携わってきた上智大学の水島宏明教授に解説してもらう。

最初にニュース番組で「速報」を伝えたNHK

 8日夜に吉本興業が松本さんの休業を発表したことを受け、ニュース番組で真っ先に「速報」として放送したのがNHKの『ニュース7』です。吉本興業のHPから引用するかたちで「性的被害受けたとする女性の証言 週刊誌掲載受け」と伝えています。先月発売された「文春」に「松本から9年前に都内のホテルで性的な被害を受けた」とする女性の証言が掲載され、この報道に対して吉本興業が「当該事実は一切なく、タレントの社会的評価を著しく低下させ、名誉を毀損するものです」などとするコメントを12月27日に発表したという経緯を伝えました。その上で「松本から、まずは様々な記事と対峙して、裁判に注力したい旨の申入れがございました」という吉本興業のコメントとともに活動休止を発表したと報じました。主に吉本興業のHP画像を使った1分半あまりのニュースでした。NHKは同日の『ニュースウオッチ9』でも同じように1分程度のニュースで伝えています。

民放の夜ニュースは「文春」側のコメントを報じる番組と報じない番組に分かれる

 同日の民放の夜ニュースでは、NHK同様に吉本興業の発表内容だけを伝えたものが目立ちました。日本テレビの『news zero』、フジテレビの『Live News α』などです。日テレは松本さんが自身のX(旧Twitter)上で「事実無根なので闘いまーす」と投稿したことも伝えています。

 一方、テレビ朝日の『報道ステーション』は「文春」側の「一連の報道には十分に自信を持っており、現在も小誌には情報提供が多数寄せられています。今後も報じるべき事柄があれば、慎重に取材を尽くしたうえで報じてまいります」というコメントも報道しました。

 当事者同士が裁判で争うことが確実な場合、本来、双方の言い分を伝えるのが報道のセオリーですが、吉本側のコメントだけを報じる局が目立ったのは残念です。ただ、急に飛びこんできたニュースのため放送枠がなかったせいもあるのだろうと想像します。この日の夜のニュースで「文春」側のコメントを伝えたのはテレ朝と次に述べるTBSだけでした。

TBSはトップニュースで「街の声」ともに報道

 ジャニーズ問題について重大な人権侵害問題であると認識して、さまざまな番組で強く反省の姿勢を示していたのがTBSです。夜のニュース番組『news23』では松本さん休業の件をトップ項目扱いで3分30秒にわたって放送しました。特徴的だったのは「街の声」をかなり長く報じたことです。これは一般の人たちがどう感じているのを伝える手法で、今回のように何が事実なのかがわからない場合にさまざまな見方を視聴者に示すテレビ報道のテクニックのひとつです。

(尼崎市出身の女子学生)
「めっちゃ嫌や。尼崎って言ったら『松本人志の場所(出身地)や』って言われるくらい有名人やから、なくてはならない存在やな』

(東京・20代の女性)
「他にも影響をいろいろ与えそうですよね。結末がどうなるかじゃないですか。事実がどうなのかわからないからどっちとも言えないですよね」

(大阪・20代女性)
「テレビ終わりやなって感じ。あの人おらな、おもんなくないですか」

(50代男性)
「(活動休止は)妥当だと思います。けじめつけるにはいいと思いますよ」

 TBSは吉本興業が12月27日とこの日の夜にHP上で発表したコメントに加えて、松本さんのXでの「事実無根なので闘いまーす」という投稿、「文春」の「十分に自信を持っており…」というコメントを報じていました。

朝のニュース・情報番組

 翌9日の朝の民放の情報番組では、TBSの『THE TIME,』は前夜の『news23』の映像を短くして繰り返し報じました。日テレの『ZIP!』、テレ朝の『グッド!モーニング』も同様です。フジの『めざましテレビ』は松本さんがXで「事実無根なので闘いまーす。それ含めワイドナショー出まーす」と投稿したことを伝えました。『ワイドナショー』はかつて松本さんが出演していたフジの番組なので、日テレなどは『ワイドナショー』に関するコメント部分をカットしていましたが、フジはあえてその部分も伝えていました。

ワイドショー・情報番組では『モーニングショー』『ひるおび』が特集

 ワイドショーと呼ばれる情報番組が本領を発揮するのが、スタジオでパネルにまとめた情報を元に討論形式で伝えるコーナーです。テレ朝の『羽鳥慎一モーニングショー』は11分あまりにわたり報道しました。吉本興業の発表内容、「文春」側の反論コメントに加え、街の声や各スポーツ紙の記事などをパネルにまとめて、今後の見通しを玉川徹さんや菊間知乃弁護士らが語りました。ポイントは2つで、裁判の見通し、松本さんが出演していたテレビ番組への影響です。

 TBSの『ひるおび』は2回に分けて約30分にわたってこの問題を扱いました。特にテレビ番組やCMへの影響についてスポーツ紙などを引用するかたちで詳しく伝えています。ダウンタウンが司会を務める1月4日の特番では提供クレジットが表示されずCMの一部がACジャパンの広告に差し替わるなどの事態が起きていたことも伝えました。また、松本さんが相方の浜田雅功さんとコンビで務める大阪万博のアンバサダーについて「2人とも降りることになる可能性が高い」という関係者の見通しも伝えています。

 また、弁護士が裁判の行方について見方を示しました。

(河西邦剛弁護士)
「もしかしたら、これ『文春』は松本さんが訴訟を提起することを『待ってました』というニュアンスで考えている可能性もあって、当然ながら報道する時に、これだけの日本に影響力がある方ですから、おそらく大きな事件になっていって、裁判で争うのは想定していると思う」

 河西弁護士は「文春」が発表した「情報提供が多数寄せられています」という言葉に着目して「同じようなことが行われていて、今はA子さんB子さんですが、C、D、Fと出てくると裁判でA子さんB子さんの証言を補強する材料になってくる」と語っています。「裁判を終えるまでに2年くらいかかる」と裁判の長期化の予想を語った元東京地検特捜部副部長の若狭勝弁護士も「『文春』の二の矢、三の矢によって変わる」と語っています。

 9日夜のTBS『news 23』は、大阪府の吉村洋文知事が記者会見で松本さんの大阪万博アンバサダーの仕事も休止になるという見通しを示したことを伝えました。テレビや新聞などの記者たちが官房長官の記者会見などで質問したこともあり、ジャニーズ問題でも見られた流れですが、いろいろなものが「見直し」の方向になりつつあります。この日の『news 23』でも「街の声」が伝えられています。

(30代の女性)
「(『文春』の)文章読んでいたらヤバっと思って、やっていることはヤバいかなと思うんですよ。事実やったら批判しかないでしょう」

放たれた「次の矢」

 そうしたなか、10日発売の「文春」で早くも「二の矢」が放たれました。同日の朝のTBS『THE TIME,』は、「文春」に新たに女性3人の証言が掲載されたと報じました。「文春」がリードして報道し、それをテレビなどの他のメディアが追いかけて、出演番組のスポンサーや行政機関などに取材を広げていく。ジャニーズ問題の報道でも見られた展開が早くも進行しています。今後はジャニーズ問題で見られたように、被害を受けたと主張する人物が記者会見を行ったり、証言を独自に報道する番組が現れるのかどうかが大きなポイントになってくると思います。

(取材協力=水島宏明/上智大学文学部新聞学科教授)

水島宏明/上智大学文学部新聞学科教授

水島宏明/上智大学文学部新聞学科教授

1957年生まれ。東大卒。札幌テレビで生活保護の矛盾を突くドキュメンタリー「母さんが死んだ」や准看護婦制度の問題点を問う「天使の矛盾」を制作。ロンドン、ベルリン特派員を歴任。日本テレビで「NNNドキュメント」ディレクターと「ズームイン!」解説キャスターを兼務。「ネットカフェ難民」の名づけ親として貧困問題や環境・原子力のドキュメンタリーを制作。芸術選奨・文部科学大臣賞受賞。2012年から法政大学社会学部教授。2016年から上智大学文学部新聞学科教授(報道論)。著書に『内側から見たテレビ やらせ・捏造・情報操作の構造』(朝日新書)、『想像力欠如社会』(弘文堂)、『メディアは「貧困」をどう伝えたか:現場からの証言:年越し派遣村からコロナ貧困まで』(同時代社)など多数。
上智大学 水島宏明教授プロフィールページ

Twitter:@hiroakimizushim

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