1月中旬、SNS上に投稿された動画が話題になった。その動画には、朝日新聞の腕章を着けたカメラマンが、規制線の張られた事故現場らしき場所で、脚立に乗って写真を撮っている様子が映っている。係員が立ち止まらないように呼びかけ、写真撮影も遠慮してほしいと頼んでいるなか、カメラマンは撮影を続けている。この独善的な行為に、ネット上で批判の声が渦巻いた。
動画が投稿されたのは2024年1月12日。「これが朝日新聞か。腐ってるな」とのコメントと共にX(旧ツイッター)に投げかけられると、瞬く間に拡散され、さまざまな批判コメントが飛び交ったほか、2月1日時点で約140万回も表示されている。
これが朝日新聞か。腐ってるな。 pic.twitter.com/AxlYZXpo70
— 【動画まとめ】大炎上bot (@ejyou_bot) January 12, 2024
この動画に映っているのは確かに朝日新聞のカメラマンなのか。また、この行為を朝日新聞は把握しているのか。動画に対して朝日新聞としてはどのように考えているのか――。Business Journal編集部は朝日新聞の広報に問い合わせたところ、「この動画は4年前のもので、ニュースでもなんでもないのに今さら報じるんですか。報じるとしても特にコメントはないです。よく調べてから問い合わせてください」と、取りつく島もない回答だった。
報道のためには多少嫌われるようなことがあっても仕方がない、と擁護する声もある。だが、報道するにも一定のルールはあるだろう。それが一般人の感覚とズレがあると、この動画のように批判されることにつながるのではないだろうか。
そこで、古い動画であることを承知のうえで、元社会部の新聞記者にこの動画を見てもらいつつ、報道のルールなどを解説してもらった。
「『阻止線、もしくは非常線(警察などが張る黄色のテープ)のぎりぎり外側までならムービー、スチールともに撮影可能』というのが、報道関係者の一般的なルールです。
20年前くらいまでは、事故現場の近くにテープを張り巡らせていました。しかし、この20年間で非常線の位置は、だいぶ現場から遠い場所に張られるようになりました。
無理な写真や動画を撮ろうとするカメラマンが非常線近くに陣取り、警察の現場検証や鑑識の邪魔になったり、はたまた事故などの復旧作業の邪魔になったり、近隣住民の通行を阻害したりするということが相次ぎ、さまざまな苦情が寄せられた警察がラインをどんどん現場から遠ざけている、という現状があります。
和歌山毒カレー事件や秋田児童連続殺害事件の時のメディアスクラムなどが契機になったともいわれています。メディア各社のカメラマンは、他社より少しでも良い写真や動画を撮ろうと躍起になっています。特に事件事故の写真やムービーは、誰が見ても優劣がはっきりわかってしまうので、なおさらです。
『非常線の中に入ってでも、良い画(え)を撮るのがジャーナリズム』と言って譲らない昔気質のカメラマンもいます。『警察など公的機関が都合の悪い現場をマスコミに撮らせないようにしている』などと、そもそも非常線を設置すること自体に反発するカメラマンもいます。
共同通信の伝説的カメラマンの原田浩司さんがペルー日本大使公邸襲撃事件で撮影したスクープ写真のような事例もあるので、そうした考えすべてが悪いというわけではないでしょう。“ジャーナリズムはどうあるべきか”という問題にもなってしまうので、意外と難しいテーマでもあるとは思います。
今回の動画の朝日新聞のカメラマンでは、一応、『非常線の外側から写真を撮る』というルールは守っています。ただ、脚立を設置して一般の方々の通行を妨げているのが、気になるところです。混雑している所で通行人の導線を遮断する行為は危険です。車いすや足の不自由な人が撮影している背後を通りかかるかもしれません。
このカメラマンは撮影に夢中で、周囲に気を使っている雰囲気がまったくありません。そういう『無配慮』な雰囲気こそ、この動画が物議を醸した最大の原因だと思われます。
無頼派の記者やカメラマンが、遮二無二ネタや写真、動画を撮ってくることが『素晴らしい』という時代ではもうありません。少なくとも、『記者、カメラマンだから多少の無理は許される』という時代ではないのだと思います。記者やカメラマンは、読者や視聴者の代わりに現場に立っています。偉い仕事だからでも、そうした行為が許される仕事だからでもありません。
周囲の顰蹙を買うような取材を行うということは、自身が所属する会社と媒体そのものと、それを読んでいる読者の顔に泥を塗るような行為と同義です。メディア関係者一人ひとりが、よく考えながら仕事をしないといけないのだと思います」
一般市民に事件・事故の様子を伝えるためとはいえ、周囲への配慮を欠いた撮影は、昨今社会問題になっている“撮り鉄”と大差がない行為と言わざるを得ない。メディアの腕章を巻いても、免罪符にならないことを自覚した報道をしなければならないのだろう。
(文=Business Journal編集部)