南阪奈道路のトンネル掘削工事において、中心線が設計位置から最大9cmずれ、覆工コンクリートの厚さが最大10cm不足したことが判明。発注者の西日本高速道路会社によると、施工した清水建設は、現場の担当者が覆工コンクリートの打設前にずれを把握していたにもかかわらず、上司に報告せずに工事を進めていたという。なぜこのような事態が起こったのだろうか。
清水建設は南阪奈道路の竹内トンネル(延長1.5km)を含む延長2.9kmの付加車線設置工事を約53億円で受注し、2015年10月~19年1月の工期で施工。しかし、工事のミスが発覚したことから、延長200mにわたって覆工コンクリートをすべて撤去し、中心線を是正したうえで打設し直すという。
元大手ゼネコン社員は、この工事ミスに関し、次のように語る。
「トンネル工事を進める上で、中心線と呼ばれる基準となるラインをもとに、掘削、覆工と進めていきます。なんらかの原因で、基準となる線がずれてしまい、そのまま間違った線をもとに工事が進んでしまったのだと思います」
西日本高速道路会社によると、清水建設の測量ミスが原因で、掘削方向の左側に中心線がずれたという。だが、この測量ミスが判明した時点で、なぜ上司に報告せずに進めてしまったのだろうか。
「間違いを報告して上司に怒られるか、上司の叱責を免れるために黙って進めるかの2択で悩んでいたはずですが、上司に報告して叱責されることを避けるため後者を選択したのだと思います。
冷静に判断すると、いずれ発覚することなので間違いをすぐに報告して是正すべきなのですが、現場管理の仕事はかなり多忙で精神的に追い詰められている場合が多いため、そのような判断になってしまったのだと思います」
このようにミスを報告せず、後から大きな問題となるようなケースはよくあるのだろうか。
「ここまで大きなミスはめったにありませんが、小さな(バレるリスクの少ない)ミスの場合は、上司に相談せず、そのまま隠して進めることもあるだろうとは思います(あくまで憶測です)」
200mにわたって覆工されたコンクリートをすべて撤去し、中心線を是正したうえで打設し直すとのことだが、どれだけ追加コストが発生すると考えられるだろうか。
「工法やサイズによっても異なるため、費用に関してはわかりかねますが、
・1回目の施工費
・取り壊し費用
・修復費用
・2回目の施工費用
が発生するため、通常の倍以上の費用はかかることが想定されます」
清水建設といえば、昨年5月に現場監督の過労自殺が労災認定されたが、これは清水建設特有の事情、もしくは建設業界特有の事情などがあるのだろうか。
「清水建設特有というよりは、建設業界は似たような環境だと思います。長時間労働はどの業界にもあると思いますが、建設業界の特徴としては、
・業務量が多い
・1日中気が抜けない
・歩き回るため体力も使う
・下請けの職人から怒鳴られることも多い
・怖い上司が多い
こういったことが挙げられます。
自殺とまではいきませんが、体調を崩して休んだり、退職したりといった事例は多かったです」
どの業界でも、上司にミスを報告することを恐れ、さらに問題が拡大してしまうという不祥事は起こり得る。他山の石としたいところである。
(文=Business Journal編集部)