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清水建設・過労自殺:建設業界「月の残業180時間」常態化、入札の構造的問題

文=Business Journal編集部
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清水建設のHPより

 16日付け朝日新聞記事は、大手ゼネコン・清水建設の男性社員が過労自殺し、5月に労災が認定されていたと報じた。朝日記事によれば、男性は下水処理施設の工事の作業所に配属され、月の平均残業時間が100時間を超えていたが、会社へ過少報告していたという。以前から建設業界では長時間労働の常態化が問題視され、ここ数年は業界全体でその見直しに向けた取り組みが行われているとされるが、なぜ同業界では同じような不幸が繰り返されるのか。元ゼネコン社員などに話を聞いた――。

 ゼネコン社員の過労死事案はこれまでもたびたび発生してきた。2017年には国立競技場の地盤改良工事の作業管理に現場監督として従事していた男性(23歳)が過労自殺し、改めて建設業界の工事現場が過酷な労働環境であるとの印象を世間に与えた。背景には業界全体は抱える人手不足という問題と、建設需要の高止まりがある。2024年4月には働き方改革関連法に基づき建設業界にも時間外労働の上限規制が適用され、時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満に制限されるが、業界全体が工事現場従事者の長時間労働を前提に回ってきたため、広い範囲で工事遅延などの発生や人手不足の深刻化が懸念され、「2024年問題」と呼ばれている。

 23年3月期決算では大手ゼネコン4社の鹿島、大林組、清水建設、大成建設はそろって増収、大成建設以外の3社は増益(当期利益)と業績は好調なものの、資材費の値上がりや人手不足、低採算工事の受注に今後は残業規制による労務費増加も加わるなど、業界全体が置かれた状況は厳しい。特に人手不足解消のために若い人材の流入を増やすには長時間残業の解消をはじめとする労働環境の改善は急務なだけに、今回のような出来事は業界全体にとってマイナスといえるだろう。

入札時のルールづくりが必要

 数年前までゼネコンに勤務していた元社員はいう。

「年齢と仕事内容から、亡くなった方は現場監督だったと考えられる。私が数年前に現場監督をやっていたときは、平日は朝7時に出勤して夜10時過ぎに退勤で、一日の残業時間は6~7時間、土曜も毎週出勤で11時間働き、月の時間外労働は合計180時間ほどでした。他のゼネコンも同じようなものですが、それだけ残業が多い理由は、単純に業務量が多いから。現場が動いている昼間は職人や業者から引っ切りなしかかってくる電話の対応に追われ、夜は今後の工事工程を見直したり、検査の写真や報告関連の書類をまとめたりし、あっという間に22時を超える。私の会社では昔からそれが当たり前なので、会社として長時間労働を改善しようという動きになりつつあったが、業務量・人員・工期の兼ね合いを考えると現実的に不可能に近いため、現場では暗黙の了解のような形で長時間労働が行われていた。 業務時間の過少申告も現場監督はみんなやっていた。

 私の経験や同僚から聞いた話からいえるのは、メンタルの不調に追い込まれるかどうかは、現場の上司である所長次第ということ。例えば、私が現場監督を務めていたある現場は忙しくて、毎日、現場で寝泊まりしていたが、上司が『怖い上司』ではなかったので、それほど苦ではなかった。逆に、所長がよく怒るような怖いタイプの人だと、精神的に追い込まれるし、現場全体が常にピリピリして人間関係もギスギスしてくる。会社がそういう管理職の振る舞いを許していると、今回のような取り返しのつかない不幸な出来事が起こる」

 24年の時間外労働の上限規制適用によって、建設業界の長時間労働は改善されるのか。

「例えば入札時に1社だけが、土曜休み前提にしたり、一人当たりの残業時間低減のために人員を多く積み上げれば、その分、他社より金額見積もりが高くなってしまい、受注できない。なので、1社だけが残業削減のための取り組みを進めても意味はなく、入札時にゼネコン各社の見積もり条件を同一にしたりと、ルールを決める必要がある。そうすると当然ながら工事金額は上がるので、発注元であるディベロッパー側の理解も必要。

 亡くなった清水建設の方は、上司から労働時間の削減が人事面での評価対象になると言われていたとのことだが、最近はどのゼネコンも社員に対して『残業時間を減らせ』『土曜は休め』と口では言っているが、一人当たりの業務量が変わらないので業務時間を過少に見せかけたり土曜出勤したりしている。入札で低い見積もり金額を提示しないと受注できず、予算と工期を絶対に厳守しなければならないという業界全体が抱える構造的な問題を解決しない限り、かたちだけ上限規制を導入しても根本的な解決にはつながらない」(同)

(文=Business Journal編集部)

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