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公務員より「夢がある建設職人」?建設業は低賃金だから人手不足という誤解

文=日野秀規/フリーライター、協力=高木健次/クラフトバンク総研所長
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「gettyimages」より

「建設、物流、医療の2024年問題」がやってくる。他の職種ではすでに進められてきた残業規制など、世にいう「働き方改革」がいよいよこの3業種にも適用されるようになる。関係者のモーレツな働きでギリギリ機能してきたこれらの業種では、今後労働力(時間)がボトルネックとなり、消費者はいろいろな形の目詰まりに直面することになる。

「物流倉庫やバブル期の建築物の改修需要など、建設投資が伸びる一方、建設業就業者は減り、高齢化が進んでいます。需給のミスマッチがすでに起きています。大手も人手不足のため工期の確保を進めており、清水建設などのゼネコンでは、週休2日を確保できる工事の受注が原則とする方針です。また、自治体施設の建設工事にどの会社も入札しない『入札不成立』が相次いでいます」

 土木・建設会社のコンサルティングや建設業界内外におけるさまざまな情報発信を行っているクラフトバンク総研所長の高木健次氏はこう言う。工期が延びてコストが増えれば価格が上がり、ついには家が建たなくなる。我々はこんな時代を生きていくことになるのかもしれない。

480万人を抱える建設業は「非効率な紙のやり取りが残る」ゆえに改善の余地大

 建設業の2024年問題を正確に理解するために、まずは現状について高木氏に解説してもらおう。

「建設業に従事する約480万人のうち、2割は事務職で、施工管理や職人などの『現場職』は7割以下です。このなかでは特に現場職が人手不足です。さらにこの10年で若手~中堅人材が都市部、大手に転職していったため、地方ほど深刻な高齢化・人手不足が進んでいます。

 また、建設業就業者の約3割は一人親方(建設業におけるフリーランス)または社員4人以下の事業所(多くが家族経営)に勤めています。約7割は中小~大企業勤めです。建設業は人手不足といわれますが、実は約7割の『会社』に勤めている人の減少は緩やかで、むしろ新卒入職者は増えています。残り3割の個人・家族で働く層が高齢化による引退で減っているのです。一人親方の4人に1人が65歳以上です」

 一人親方、および高齢層の引退によって直近は地方中心に人手不足が進む。ただし、建設業には生産性改善の余地がまだあると高木氏はいう。

「建設業は非効率な紙のやり取りが色濃く残っている業界です。まず取引先(大手ゼネコンや自治体など)によって書式が異なるので、対応に事務方も現場も余計な手間がかかります。遠い現場から書類処理のために事務所に戻るだけで時間と移動費のロスになるのも大きな負担です。書式の統一、IT化による事務・移動負担の削減で、生産性はかなり改善します」

 近年では建設会社でもITツールやロボットの活用が進み、一部の会社ではスマートフォンで遠隔の現場の状況がデータで分かるようになっている。高齢職人の減少と相まって、少ない人手で高い生産性を実現する時代が到来しつつあるのだ。

大きな誤解「低賃金だから若者が転職する」

 より大きな問題は、労働者の偏在と働き方の改善だと高木氏は続ける。

「若手の新卒入職者が増えているのに人手不足なのは、人材が都市部、大手の企業に転職してしまうからです。その流れを食い止めるには、地方の企業が働きやすさの改善、および地域における好待遇の実現につとめ、それを広く発信していく必要があります。国交省が若手人材の離職理由を調査したところ、移動負担や休みの取りにくさが上位に並び、賃金は4位でした」

 実は、30人以上を雇用する建設事業者の就業者の労働時間は減少しつつある。それでもまだ他の産業より長く、勤務時間にカウントされない事業所・現場間の長時間移動もある。労働時間・拘束時間の長さは否めないので、ここはまだまだ改善が必要だと高木氏は力を込める。地域格差と長時間労働を是正し、建設業全体のイメージアップを図ることが、2024年問題解決の糸口といえそうだ。

「イメージの部分で、建設業についての最大の誤解は『低賃金だから若者が辞める』です。実際のところ、一人親方以外の建設業就業者はサービス業など、他の業種に比べても給与水準は高い。離職理由は給与以外にある。このことが知られればもっと人材を集められるはずです」

 建設業が低賃金と誤解される理由は2つ。1つは一人親方の存在で、ある論文では、一人親方の3分の1は生活保護レベルの収入だという。そしてもう1つが、すでに述べてきた業界特有の非効率さで、「給与は高いが大変で、割に合っていない」のだ。

「建設業は年功序列要素が薄く、若いうちから腕と資格があれば稼げるので、他の職業よりも男性就業者の結婚が早く、既婚者が多く、子どもも多いという厚労省統計があります。災害時には率先して復旧に従事し、活躍します。その意味では職人には夢があります。AIの台頭で事務職の価値が下がっています。実際に地方公務員、地方銀行員の年収は低下傾向にあります」

 かつては3K、ブルーカラーという聞こえの良くない表現もあったが、現実に年収1000万円のブルーカラーがゴロゴロいるのが建設業。仮に地方なら、ホワイトカラーだと人気の公務員と比べて、建設業が魅力のない職場だとは決していえないだろう。

カギは改革進める若手経営者の存在、SNSマーケティングでイメージアップ

 最後に、建設業界底上げのカギを握る、経営の世代交代について聞いた。

「イメージアップと労働環境の改善をともに進めることは、現場の問題ではなく、経営の問題といえます。山形県の新庄砕石工業所は、3代目で30代の経営者によるSNSマーケティングが成功のカギとなっています。安定需要である公共工事をベースに、給料アップと労働環境の改善が進む現状を積極的に発信し、大卒を含め就活生に強くアピール。結果、かつては公務員や銀行員を志望していた地元国立大学生が入社するほどの存在となっているのです」

 待遇、働き方のすべての面で、地域に根差し、経営改革が進む建設会社には人は集まる。若手経営者と若い人材の出会い、そして両者によるITの活用によって変化する、建設業がその真っただ中にあることはもっと知られてほしいと、高木氏は力強く語った。

(文=日野秀規/フリーライター、協力=高木健次/クラフトバンク総研所長)

高木健次/クラフトバンク総研所長

京都大学在学中に塗装業の家業の倒産を経験。その後、事業再生ファンドのファンドマネージャーとして計12年、建設・製造業の事業再生に従事。認定事業再生士(CTP)。2019年にクラフトバンクの前身の内装工事会社に入社。建設会社のコンサルティング、ゼネコン安全大会、業界団体等での講演、専門紙での連載のほか、報道番組での建設業界に関する解説を担当。
クラフトバンク総研

Twitter:@TKG_CraftBank

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