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節税のつもりの確定申告で損することも?“国保料・介護保険料アップ”の落とし穴

2026.02.05 2026.02.04 22:30 経済

節税のつもりの確定申告で損することも?国保料・介護保険料アップの落とし穴の画像1

●この記事のポイント
・株の損益通算や繰越控除で税金が戻っても、確定申告で所得が増えると国保料・介護保険料が上がる場合がある。還付より負担増が大きい“逆ザヤ”に注意。
・年金生活者は、特定口座で完結していれば申告不要のケースが多い。だが節税目的で申告すると、軽減措置のライン超えで保険料が数万円単位で跳ね上がる危険がある。
・確定申告の判断は「税金が戻るか」ではなく「手残り」で決めるべきだ。自治体の試算で保険料増を確認し、NISA活用や申告しない選択も視野に入れたい。

 確定申告の季節がやってくる。新NISAのスタートを機に、老後資金の運用として株式投資に本腰を入れるシニア層も増えた。そうした中で、多くの人が一度は耳にするのが「株の節税」である。

「昨年は損をしたから、利益と相殺して税金を取り戻そう」
「損失は繰り越して、来年以降に役立てよう」

 投資家としては“正解”に見えるこの行動が、年金生活者の家計を直撃する「大誤算」につながることがある。その正体は、所得税よりも“重い”インパクトを持つ 国民健康保険料(国保)や介護保険料だ。

 確定申告は、本来「払いすぎた税金を取り戻す」ための制度でもある。だが年金生活者の場合、その一筆が 保険料・自己負担割合・給付条件まで連鎖的に動かし、結果として“損”になるケースが現実に起こり得る。

●目次

投資家が狙う「損出し・繰越控除」のメリット

 通常、証券会社の「特定口座(源泉徴収あり)」を利用していれば、株の売買益からは約20%(所得税+住民税+復興特別所得税相当)が天引きされる。この場合、投資の税金は“口座内”で完結するため、原則として確定申告は不要だ。

 しかし、以下のケースでは確定申告を行うことで税負担を軽減できる可能性がある。

損益通算(損出し・益出し):A社で出た利益とB社で出た損失をぶつけて利益を圧縮し、払いすぎた税金の還付を受ける。
繰越控除:その年の損失を申告しておき、翌年以降3年間にわたり利益から差し引く。

「1円でも税金を安くしたい」というのは、投資家として自然な判断である。ところが――年金生活者にとって問題となるのは、この「税金を安くするための申告」が、別の場所で高いツケを回してくる点だ。

落とし穴の正体は「社会保険料の算定基準」という見えない罠

 会社員時代、健康保険料や厚生年金保険料は給与額に応じて決まっていた。しかし定年後に国民健康保険(国保)や後期高齢者医療制度に加入している場合、保険料は原則として 前年の所得をベースに算定される。

 ここが運命の分かれ道になる。特定口座(源泉徴収あり)の中で税金まで完結していれば、株の利益は“申告しない限り”表に出ない。

 だが、節税のために確定申告をした瞬間、株の利益は自治体側にも反映され、国保料や介護保険料の算定土台に乗る可能性が出てくる。税金は取り戻せても、翌年度の国保料や介護保険料が上がれば、家計全体では逆ザヤになりかねない。

 税理士・村井綾乃氏はこう指摘する。

「確定申告は所得税のためだけの手続きと思われがちですが、実務上は“住民税”“国保”“介護保険”などへ波及するケースが少なくありません。特に年金生活者は、軽減措置の境界線をまたぐだけで年間数万円単位の負担増になることがあり、税の還付だけを見て判断すると危険です」

 つまり、確定申告は“税金を最適化する行為”であると同時に、行政側から見れば「所得を確定させる行為」でもある。

【シミュレーション】申告が“得”になるケースと、“損”になるケース

 年金生活者が株の損失を相殺するために確定申告(損益通算)を行った場合の例を見てみよう。

前提条件(例)
居住地:東京都23区内(例)
世帯構成:65歳以上、単身世帯、国民健康保険加入
年金収入:250万円(公的年金等控除後の所得 140万円と仮定)
株:特定口座(源泉徴収あり)で利益50万円、別口座で損失50万円

①損益通算で利益が“0”になる場合(基本は得になりやすい)
 所得税・住民税:還付が発生しうる
 合計所得金額:大きく変わらず
 国保料・介護保険料:原則、急変しにくい
 結論:申告した方が得になりやすい。

②利益が残る/繰越控除のために申告する場合(危険ゾーン)
 損益通算しても利益が30万円残ったり、損失を翌年に繰り越すため申告したりする場合、状況は変わる。

 所得が“わずかに増えた”だけでも、軽減ラインを超えれば保険料が跳ね上がるからだ。

1円が境界線になる――国保の「軽減判定」という地雷

国民健康保険には、低所得者に対する「均等割の軽減措置(7割・5割・2割)」がある。この軽減は、基準を1円でも超えると消滅し、翌年の負担が一気に増えることがある。

(例)世帯1人の場合の判定基準イメージ
 7割軽減:~43万円
 5割軽減:~73.5万円
 2割軽減:~99万円

 株の利益を申告して合計所得金額が99万円を超えた瞬間、2割軽減が消滅し、均等割が満額請求される。つまり「税金の還付は2万円だったのに、国保料が数万円上がった」という事態が起こり得る。

「還付金2万円」のために「保険料10万円増」もありうる

 例えば、ある年金生活者が損益通算で所得税・住民税が合計2万円還付されたとする。通知を見た瞬間は「得をした」と感じるだろう。

 だが翌年、国民健康保険料が年5万円上がり、介護保険料も段階が変わって年3万円増えれば、合計負担は8万円増だ。2万円取り戻すために、8万円の追加支出――典型的な“逆ザヤ”である。

 介護保険料(65歳以上)は自治体ごとに所得段階が設定されている。株の利益(あるいは配当)の扱いで段階が変わると、毎月の保険料が上がり、年間で見れば数万円単位の増額になり得る。

「介護保険料は“給与のような毎月の感覚”ではなく、前年所得の段階判定という仕組みなので、本人が増加に気づきにくい。しかも自治体差があるため、一般論で安全と言い切れないのが難点です」(村井氏)

さらに怖いのは「医療費自己負担割合」の変化

 社会保険料だけでなく、所得区分が上がることで、次のようなリスクが浮上する。

 ・医療費の自己負担割合が増える可能性
 後期高齢者医療制度では、所得区分によって1割・2割・3割が分かれる。境界線を超えると負担感が一変する。

 ・高額療養費の自己負担上限が上がる可能性
 大きな病気や入院が必要になった場合、上限が上がれば“守られる額”が小さくなる。

 ・自治体独自給付の条件から外れる可能性
 住民税非課税世帯要件などの支援策を失うと、生活防衛が難しくなる。

 確定申告は“税金だけの問題”ではなく、老後生活の安全網そのものを動かしてしまう可能性がある。

【重要】2024年度分以降は「所得税だけ申告して住民税に反映させない」が難しい

 かつては「所得税で申告しても、住民税では別扱いにできる」という誤解が広く残っていた。しかし近年は行政側のデータ連携が進み、所得税で確定した所得が住民税へ反映され、さらに国保料等の算定へ連動する流れが強い。

「制度として“選択”できる余地があった時代の情報がネット上に残っています。ですが今は、所得税で確定した内容が住民税や保険料に反映されやすく、年金生活者ほど“昔の常識”で動くと損をします」(同)

賢い投資家は「税」ではなく「手残り」で判断する

 では、どう立ち回るべきか。判断のポイントは、税金だけを見るのではなく、出口のトータルバランス(手残り)で勝敗を決めることだ。

①あえて「申告しない」という合理的選択
 国保加入のシニアや、扶養・軽減の境界線付近にいる人ほど、特定口座(源泉徴収あり)で納税を完結させるのが安全策になる。申告しなければ、少なくとも“申告したことによる所得増”は発生しにくい。

②「新NISA」を徹底活用する
 NISA口座内の売買益や配当金は非課税であり、原則として確定申告の対象にならない。社会保険料への影響を避けやすい点で、シニアにとって極めて強い防衛策となる。

③申告するなら「事前試算」を必須にする
 損失繰越などで申告が必要・有利になることもある。その場合は、自治体HPの試算ツール等で「所得がいくら増えると保険料がどう変わるか」を必ず確認したい。

検索キーワードはシンプルでいい。
「国民健康保険料 算定 〇〇市」
「国民健康保険税 試算」
「介護保険料 所得段階 〇〇市」

目先の「還付金」に惑わされるな

「節税」という言葉には抗いがたい魅力がある。だが日本の制度は、税制と社会保障が複雑に絡み合っている。所得税を1割減らした結果、国保料・介護保険料が2割増えるなら本末転倒だ。

 確定申告書を提出する前に、一度立ち止まってほしい。その一筆が、あなたの老後資金を増やすのか、それとも自治体への納付金を増やすのか――答えは「税」ではなく 手残りでしか見えない。

 本当の意味で賢い投資家とは、株の損益だけで勝敗を決めない。所得税だけでも判断しない。社会保険料、自己負担割合、給付条件まで含めた「家計の最終利益」で勝つ人のことである。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)