トライアル流“垂直統合”…西友買収とスギHD提携で加速、物流コストも15%削減

●この記事のポイント
トライアルホールディングスは2025年の西友買収に続き、2026年1月にスギホールディングスと資本業務提携を発表。自社開発の「スマートレジカート」や需要予測AI、物流最適化システムを中核とする“リテールAI”を経営基盤に据え、店舗運営・発注・物流・広告までを統合する垂直モデルを拡張している。西友を首都圏の実証拠点とし、スギ薬局の調剤機能と連動した健康提案型売場を構築。さらに2027年までに幹線輸送コスト15%削減を目指す。イオンの「規模の経済」に対し、トライアルは「データとAI」で流通再編に挑む。
日本の流通地図が、音を立てて塗り替えられようとしている。
かつてダイエーやマイカルを取り込み、「規模の経済」で巨大帝国を築いたイオン。その牙城に、まったく異なるロジックで迫る企業がある。九州発のディスカウント大手、トライアルホールディングス(以下、トライアルHD)だ。
2025年の西友買収、そして2026年1月のスギホールディングス(スギHD)との電撃提携。矢継ぎ早の展開の裏にあるのは、単なる店舗拡大ではない。レジ、発注、物流、広告、顧客分析までを統合する「リテールAI」を経営基盤として内製化し、それを軸に事業を再構築するという戦略だ。
トライアルは今、「安売りの達人」から「流通テクノロジー企業」へと姿を変えつつある。
●目次
西友を“実験場”に変える…首都圏攻略の本気度
トライアルによる西友買収で業界が驚いたのは、規模よりも統合スピードだった。買収後、旗艦店へ即座に投入されたのが自社開発の「スマートレジカート」。決済機能とAIレコメンドを統合し、顧客はレジに並ばず会計を完了できる。さらに、カート搭載のタブレットが購買履歴やカゴ内商品に応じてクーポンをリアルタイム表示する。
これは単なる省人化装置ではない。客単価を引き上げる“収益装置”だ。
加えて、PBアパレル「RIALT(リアルト)」を西友の衣料品売場に展開。GMSの慢性的課題である衣料部門を、低在庫・高回転モデルへ転換する。従来の西友が持っていた都市型スーパーのイメージを保ちつつ、収益構造を裏側から書き換える試みだ。
戦略コンサルタントの高野輝氏はこう分析する。
「トライアルは西友を“再建”しているのではありません。リテールAIの実証フィールドとして再設計しているのです。首都圏の購買データを大量に取得し、モデルを高度化することが真の目的でしょう」
“外販ツール”ではない、経営そのものを動かすリテールAI
近年、小売DXツールは数多い。例えば、IdeinとSCデジタルが展開する「RetAil OS」は、カメラとエッジAIで人流や棚前行動を可視化する優れた分析ツールである。
しかしトライアルのアプローチは根本的に異なる。同社が展開するリテールAIは、後付けのツールではなく「店舗運営の基幹システム」そのものだ。自社エンジニアを多数抱え、POS、在庫管理、発注、物流、デジタルサイネージ広告までを一気通貫で設計する。
つまり、西友やスギHDとの連携は、単なる事業提携ではない。自社AI基盤を動かすための“巨大な実装フィールド”を手に入れたことを意味する。高野氏は続ける。
「従来の小売は“店舗網”が資産でした。しかしトライアルは“データを生み出す装置”として店舗を見ている。発想が完全にソフトウェア企業です」
スギHDとの提携で“健康インフラ”への進化
2026年1月に発表されたスギHDとの提携は、トライアルを単なるディスカウントストアから“生活インフラ”へ引き上げる一手となった。
トライアル店舗内にスギ薬局の調剤機能を導入。生鮮食品の買い物ついでに処方箋を受け取れる動線を作る。重要なのは、その先だ。
薬剤師の専門知見と購買データを掛け合わせ、健康提案型売場を構築する。例えば、高血圧患者向け減塩食品のレコメンド、サプリメントと食材の連動販売など、AIと専門職を融合させた売場づくりが可能になる。
高野氏はこう指摘する。
「ドラッグストアは高粗利、スーパーは高頻度来店。この2つをデータで結合できれば、イオン(ウエルシア連合)に匹敵する競争軸が生まれる」
トライアルは価格競争から脱し、「健康×データ」という高付加価値領域へ踏み込もうとしている。
物流コスト15%削減…垂直統合の威力
小売各社が苦しむ「物流2024年問題」に対しても、トライアルは自社AIによるルート最適化と需要予測を導入している。西友やスギHDの物流網と統合することで、2027年までに幹線輸送コスト15%削減を見込むという。
これは単なるコストダウンではない。発注精度向上、在庫圧縮、廃棄ロス削減まで連動する。
「物流まで自社設計できる小売は日本では稀です。トライアルは“テクノロジーによる垂直統合”を実行している。これは資本統合よりも強固な競争優位を生む可能性があります」(同)
帝国の死角
もっとも、リスクは存在する。
第一に、西友ブランドの毀損リスク。徹底的なローコスト化が進みすぎれば、中所得層の離反を招く可能性がある。
第二に、スギHDとの文化統合(PMI)だ。独立性の強いドラッグストア企業との統合は、現場摩擦を伴う。
第三に、継続的なIT投資負担。リテールAIの進化には資本が不可欠であり、景気後退局面での投資持続力が問われる。
イオンが資本による連邦型モデルで頂点に立つ中、トライアルはテクノロジーによる垂直統合で対抗する。自社で磨き上げたリテールAIをM&Aで拡張し、業界全体の効率構造を塗り替える。そのスピードは従来の小売常識を超えている。トライアルが売っているのは、安い商品だけではない。テクノロジーで最適化された「次世代の購買体験」そのものだ。
2026年、日本の流通は「規模の経済」から「データの経済」へと軸足を移すのか。その転換点に、トライアルという存在がある。
(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=高野輝/戦略コンサルタント)











