新型スープラで露呈したトヨタデザインの“迷走”…過剰なボリューム感に“微妙な反応”
5月17日、いよいよ日本市場で正式発表・発売となったトヨタの新型スープラ。各自動車媒体ではさっそく試乗記が書かれ、ライバルとの比較も賑やかに展開されている。その走りの内容については大方評価されているようだけど、微妙な感じなのがデザインなのである。
たとえば、「個人的にはまだこの格好に慣れない」「タイヤを含め、カスタマイズすることで魅力が出るようだ」なんて評論家諸氏の記事が散見されるけれど、登場時点でこの手の声が聞かれるということは、少なくともデザインは「成功」とはいえないというのが一般的な見方だろう。
で、僕が新型スープラを見て思うのが、「共感が難しい過剰さ」である。
5代目である新型のスタイルは、2014年の米デトロイトショーに出品されたコンセプトカー「FT-1」を基本としている。トヨタにはフラッグシップとなるスポーツカーが必要だとして北米スタジオが製作した同車は好評で、一部メディアや走り屋方面のマニアからは、早々に「これが次期スープラだ!」と結構な盛り上がりを見せていた。
けれども、本当にそうなってしまったところに、まず基本的なズレがあるんじゃないかと。FT-1は、まさにフラッグシップとしてノーズにF1マシンのイメージを持ち込み、トータルのイメージには往年の名車である2000GTの香りがする。きっと、それ自体に間違いや疑問はないだろう。
ただ、じゃあそれがスープラなのか? といえば、チョット違うということだ。そもそも、2代目であるセリカXX以降、同シリーズはGT色の強い性格で、たとえば日産GT-RやホンダのNSXと比較するようなクルマじゃなかった。4代目こそ若干スポーツ色を強めたけれど、基本は万人向けのGTカーだ。
それを、若い社長自ら伝説のスポーツカーのように「Supra is Back」などと声を上げても、「はぁ?」というのが素直なところ。つまり、いきなりフラッグシップと言われたところで結構な無理があって、そこに最初のズレがあると。
そして、あくまでスーパースポーツとして製作されたFT-1を、このミドルサイズに落とし込んだところにも無理がある。「コンデンスド・エクストリーム」という新型のデザインコンセプトに沿い、全幅で100mm、ホイールベースで300mmも大きなFT-1の存在感を再現させようとするあまり、過剰なボリューム感、抑揚感を持ってしまった。
加えて、スープラとしてはF1ノーズの必然性は感じられず、2000GTをモチーフとしたのは現行「86」の時とまったく同じ唐突感だし、意味のないダミーのスリット類に至ってはシエンタより始末が悪い。そして、先のテーマに合わせた過剰な曲面や強い絞り込みは、見る人に決定的な「戸惑い」を感じさせる。で、共感ができないのである。
当初、FT-1とは関係のないところから始まったとされる開発が、結局、採用案としてそれを超える提案がなかったところに、現在のトヨタデザインの限界や混迷、あるいは「浅さ」が見え隠れする。
もちろん、個人の好き嫌いはあるとしても、新型スープラのエクステリアデザインは完全に「勇み足」だ。仮に、モチーフがFT-1以外にあり得なかったとしても、どこかにそのエッセンスを感じる程度に止め、すっきりとシンプルなまったく別の佇まいにするべきだったと僕は思う。
(文=すぎもと たかよし/サラリーマン自動車ライター)