デスクトップPCに向かって作業をしていると、時折、アップデートの誘いが画面上に表れる。個人で愛用しているiMacの現在のバージョンは「MacOS Sierra バージョン10.12.6」だから、本体はもうだいぶん古く、ハードディスクをオールリペアしたり、アップデートを繰り返したりをしながら凌いでいる。
その一方で、クルマのアップデート化はなかなか進まない。基本的には金属の塊としての歴史が長いから、最新仕様に乗りたければ新車に買い替えるか、ごく一部のモデルで進めているアップデートパーツを移植するしか方法はない。旧モデルを最新仕様に進化させるシステムが整っていないのである。
だがせめて、コンピュータ制御であるエンジンだけは、最新へのアップデートが可能になっても不自然ではないと思う。もはやクルマは電子化しているのだから。
その点で、もっとも進んでいるのがテスラで、インターネット環境さえ許せば、工場に持ち込むことなく最新バージョンに上書きされるのである。
そんなバージョンアップの時代、ボルボが展開している「ポールスター・パフォーマンス・ソフトウェア」には興味が惹きつけられる。工場入庫が基本だが、コンピュータ書き換えでバージョンアップが可能だ。
最新仕様になるのではなく、より高性能仕様へのスープアップ(チューンアップ)とはいえ、スロットルレスポンス、ギアシストスピード、オフスロットルレスポンス、エンジン出力といったエンジン関係の制御が、スポーティ仕様にグレードアップするのはありがたい。
クルマを買ったあとに、「やっぱり性能が物足りないなぁ」と思うことは、しばしばある。あるいは、あとから最新仕様が追加されて、「購入を早まったかな」と後悔することも少なくない。だが、グレードアップできるとなれば、そんなガッカリにも対応できるというわけだ。
これは販売店にもメリットがある。買い控えが減るだろうし、お客のディーラー通いが増えることは、販促の機会が増えることと同意だからだ。
対象モデルはさまざまだ。いつくか例を挙げるならば、「ボルボVC40 T5」ならば、オリジナルの最大トルクが350Nmから400Nmに高まる。「ボルボXC90 D5」ならば、480NMの最大トルクが500Nmに上がるだけでなく、オーバーブースト機能によって、さらなるパワーアップして520Nmが得られるという特典もある。
実際にドライブしたところ、数字以上のパワーアップを感じた。ピークパワーの数字を追うのではなく、実用域のトルクやレスポンスに磨きがかかっている。加速しやすいギアリングにも設定されているようで、市街地のちょっとした増減速や、高速道路への合流などで明らかな違いが体感できた。
いわば、ターボチャージャーのブーストアップである。もちろん、燃料調整や点火タイミングなど、仕様変更に合わせてアジャストされているはずだが、基本はブーストにかかり具合を調整しているのだ。ハイパワーになった分だけ、ターボラグが残るような場面もあった。
「ちょっとした整備で訪れるお客様が試乗され、違いに驚かれます」(ボルボ販売店担当者)
作業時間は10分程度。金額にして18.8万円。ディーラーでお茶を頂いているうちに作業は終わってしまう。それだけで、ハイパワー仕様のエンジンがアップデートされるのである。
もし、これがエアサスだったら、あるいは足回りまでアップデートが可能だったかもしれない。エンジンと足回りを含めたアップデートシステムが待ち遠しい。
(文=木下隆之/レーシングドライバー)