「トヨタC-HR GRスポーツ」の試乗が許されると聞いて、心をワクワク躍らせながら大磯プリンスホテルで行われた会場に足を運んでみると、そこには思わぬクルマが待ち受けていて驚いた。
主催はトヨタ自動車のスポーツカーブランド「GR」を展開するトヨタGRカンパニーだったはずなのに、ダイハツ「コペン」が並んでおり、しかも「コペンGRスポーツ」を発売すると宣言したのだ。トヨタがダイハツのクルマを発売する――。
両社には資本関係があるのだから、経営的に無理はない。トヨタとダイハツが業務提携を結んだのは1967年11月で、その関係は良好のまま進み、今ではダイハツはトヨタの100%完全子会社になった。トヨタのクルマの一部をダイハツが生産もしている。いわば兄弟会社なのである。
しかも、今回のGRスポーツ開発は、両社の思惑が一致している。
スポーツ車輌を生産販売するGRカンパニーは、GRスポーツブランドの充実を急いでいる。次々に魅力的なモデルをリリース。今では11台のGRスポーツをラインナップするまでになった。
「ノア/ボクシー」といったミニバンから、「86プリウス」や「アクア」といったハイブリッドモデル、「C-HR」と「ハリアー」といったSUV(スポーツ用多目的車)にまで手を広げている。「86」といったスポーツカーはもちろんのこと、ミドルセダンの「マークX」までラインナップに加えているのである。それにもかかわらず、コンパクトなモデルが手薄だった。オープンモデルもない。そこで白羽の矢を立てたのが、ダイハツコペンだったというわけだ。
GR開発担当者は、次のようにコペンの必要性を語る。
「トヨタにはライトウェイトオープンスポーツがありません。気軽に楽しめるオープンスポーツを提供することは、GRのエントリーモデルとしても重要なのです」
なるほど、トヨタに欠けているピースを、見事にコペンが埋めてくれるわけである。しかも、ダイハツは、コペンを知り尽くしていることはもちろん、GRについても知見がある。ダイハツのテストドライバーである松本豊氏は、かつてトヨタGAZOOレーシングがニュルブルクリンク24時間へ参戦した際にメンバーとして加わっている。ともに1台のマシンを開発してきたメンバーがコペンを仕上げることになるのである。外野が想像するより障害は少ないのである。
ボディを裏返しにすると、ボディ補強の痕跡はありありと見える。オリジナルのプラットフォームの剛性では飽きたらず、長短のアームが前後左右に複雑にクロスしているのだ。あらゆる方向からの入力を吸収し、跳ね返すのだろう。
実際に完成したコペンは、いかにもGRらしい軽快な乗り味であり、その手法は、徹底してボディ剛性にこだわるという正攻法だ。ルーフを失ったことによるボディ剛性の低下は軽微にとどめている。ハンドリングは軽快、ひらひらとコーナーを縫うように駆け抜けてくれる。
トヨタとダイハツ初のGRコラボ作品は、なかなか小粒でピリリと辛い。
(文=木下隆之/レーシングドライバー)