ビジネスジャーナル > 自動車ニュース > 自動車メーカー、グーグルが駆逐?
NEW
大崎孝徳「なにが正しいのやら?」

日本の自動車メーカー、本当にグーグルに駆逐されるかもしれない…もはや大きな利益は困難か

文=大崎孝徳/名城大学経営学部教授
日本の自動車メーカー、本当にグーグルに駆逐されるかもしれない…もはや大きな利益は困難かの画像1「Thinkstock」より

現在の自動車業界

 自動車といえばアメリカのビッグ3(ゼネラルモーターズ<GM>、フォード・モーター、クライスラー)といわれた時代ははるか昔のことであり、今となっては「本当にそんな時代があったのか?」とまで感じてしまいます。

 現在はトヨタ自動車を筆頭に日本の自動車メーカーが各社とも絶好調です。近年、トヨタと熾烈なトップ争いを展開しているドイツのフォルクスワーゲン(VW)は、現在、排ガス偽装問題で苦境に立たされているものの、おそらくそうした影響は一時的なものでしょう。

10年後の自動車業界

日本の自動車メーカー、本当にグーグルに駆逐されるかもしれない…もはや大きな利益は困難かの画像2『すごい差別化戦略』(大崎孝徳/日本実業出版社)

 では10年後の自動車業界はどのようになっているのでしょうか。家電などを参考に、中国やインドなど、新興国勢が大きな存在感を示していると考える人も多いことでしょう。しかし、例えば2009年にインドのタタ自動車から10万ルピー(約20万円)を下回る価格で発売されたナノは、当時、「自動車業界を一変させる」と騒がれたものの、実際の販売はまったく順調に推移していません。こうした状況を勘案すれば、自動車業界における新興国勢の影響力拡大には依然として大きな壁が存在しているとも考えられます。

20年後の自動車業界

 20年後の自動車業界はどうでしょうか。もっと近い未来のこととなるかもしれませんが、おそらく近年注目を集め始めている自動運転が広く普及していることでしょう。自動車の世界においては、これまでもプリウスに代表されるエンジンとモーターを動力とするハイブリッド車や電気自動車、さらには水素を燃料とする自動車など、数多くのイノベーションが生まれてきていますが、この自動運転というイノベーションは、自動車業界の構図を一変させる可能性を持つと筆者は注目しています。

ポーターの5F

 米経営学者のマイケル・ポーターは、業界を分析するために注目すべき5つの力(5F:Five forces)として、「業界内の競合者」「売り手の交渉力」「買い手の交渉力」「代替品の脅威」「新規参入者の脅威」を挙げています。これらのうち、業界内の競合者、売り手の交渉力、買い手の交渉力の3つに関しては現実に起こっている事象で、日々の業務の中でも実感できるため、比較的捉えやすい力です。もちろん、将来的にどう変化していくかという点には注意が必要です。

 一方、代替品の脅威、新規参入者の脅威に関しては、将来起こる事象であり、推測すら困難な場合が少なくありません。

自動運転の脅威

 自動運転というイノベーションは、既存の自動車メーカーに深刻な代替品の脅威および新規参入者の脅威をもたらす可能性があります。

 まず、代替品の脅威に関しては、自動車が現在の自動車でなくなる、言い換えれば、自動車が本当の自動車になってしまうということです。つまり、自動車とはいえ、これまでは人間が運転していたわけですが、自動運転では人間の制御が必要なくなるわけです。客観的に捉えれば便利になってよいと思われますが、自動車メーカーでは素直にそうした事実を受け入れられないのではないでしょうか。

 なぜなら、人間の制御がまったく不要になると運転の楽しさが消え、ひいては保有する喜びがなくなることにも通じ、誰もメーカーや商品ブランドにこだわらなくなり、その結果どのメーカーも大きな利益を上げることが難しくなってしまうでしょう。

 また、自動運転で重要となる技術は自動車自体に付随するものではなく、自動運転を支える地図情報や位置情報などの情報システムとなります。そうなれば、世界で最も多くの情報を保有するグーグルが自動車業界に新規参入することは容易に想像できますし、実際すでに本格的な実証実験を行っています。

既存の自動車メーカーvs.グーグル

 グーグルは既存の自動車メーカーにとって極めて厄介な存在となるでしょう。現在、公表されている自動運転に対応したコンセプトカーを比較すると、自動車メーカーではハンドルがあるものの、グーグルはハンドルがありません。

 こうした違いは、自動車本体の魅力をなんとか残したい自動車メーカーと、自動車自体にはまったく執着がなく効率的な自動運転のシステムのみに注力できるグーグルという基本的な立ち位置の差を表しているように思えます。

 パソコンの世界で大きな利益を獲得するのは基本ソフトを支配するマイクロソフトであり、一方でパソコンメーカーは大きな収益を上げることが困難になっています。自動車業界が同じような状況に陥らないために、自動車メーカー各社がするべきことはなんでしょうか。

 過去の事例を参考にするならば、大きな変化の到来を遅らせたり、なるべく変化を小さくとどめようと抵抗するよりは、積極的に変化の波に乗っていくことが成功の確率を高めるように思えます。
(文=大崎孝徳/名城大学経営学部教授)

大﨑孝徳/香川大学大学院地域マネジメント研究科(ビジネススクール)教授

大﨑孝徳/香川大学大学院地域マネジメント研究科(ビジネススクール)教授

香川大学大学院地域マネジメント研究科(ビジネススクール)教授。1968年、大阪市生まれ。民間企業等勤務後、長崎総合科学大学・助教授、名城大学・教授、神奈川大学・教授、ワシントン大学・客員研究員、デラサール大学・特任教授などを経て現職。九州大学大学院経済学府博士後期課程修了、博士(経済学)。著書に、『プレミアムの法則』『「高く売る」戦略』(以上、同文舘出版)、『ITマーケティング戦略』『日本の携帯電話端末と国際市場』(以上、創成社)、『「高く売る」ためのマーケティングの教科書』『すごい差別化戦略』(以上、日本実業出版社)などがある。

日本の自動車メーカー、本当にグーグルに駆逐されるかもしれない…もはや大きな利益は困難かのページです。ビジネスジャーナルは、自動車、, , , , , の最新ニュースをビジネスパーソン向けにいち早くお届けします。ビジネスの本音に迫るならビジネスジャーナルへ!