日本初の長距離巡航EVの称号は、日産自動車「アリア」に与えられたといっていい。
アリアの「B6 2WD」には、66kWhの大容量バッテリーが搭載される。最高出力は160kW、満充電からの航続可能距離は470km(WLTCモード)に達する。日産「リーフ」の航続可能距離は322km、「リーフe+」のそれは458km。最長記録を更新したことになるのだ。
カーボンニュートラルを旗印に、積極的にEVを投入する欧米勢には、航続距離の長いモデルも少なくない。大容量のバッテリーを搭載し、長距離巡航を可能としている。だが日本では、リーフe+が400km超に達しただけで、EVの存在価値をシティコミューターと割り切る傾向にある。
インフラ的に未成熟だから、自宅で満充電した電力の範囲での行動半径が、日本では都合がいい。電欠の心配をしながらの長距離移動は、EVには馴染まないとされてきた。それが、アリアの誕生で日本人のEVに対する意識が変わるかもしれない。
デビューした「B6(2WD)」の航続可能距離は470kmであり、この夏に追加が予定されている「B9(2WD)」には、さらに大容量の91kWhバッテリーを搭載する。航続可能距離は640kmとアナウンスされているのだ。リアルワールドではWLTCモードは不可能かもしれないが、辛く見積もって500kmだとしても、東京-大阪間を無給電で走破できる計算だ。
一方、動力性能が優れたモデルもスタンバイしている。「B6(2WD)」の最高出力は160kWだが、「B6(4WD)」は250kwにパワーアップ、さらに大容量バッテリーを搭載する「B9(2WD)」は178kw、最強の「B9(4WD)」は290kWものパワーを誇る。足の長さだけではなく、力強さも備える。欧米の多くがEVがそうであるように、力強くロングドライブも受け入れるのである。
給電能力にも細工が施された。バッテリーは、旅の道中に頻繁な給電を行えば熱を持ち性能が低下する。気温25度を頂点に、暑くても寒くても急速充電性能は下がるのである。だから夏場のドライブや寒冷地への移動では使い勝手が悪い。また、高速走行直後は、ほとんど充電を受け付けてくれない。30分の急速充電でも期待した電力を補充できず、給電ホッピングに迫られた。
だが、日産はバッテリー温調システムを開発。常に理想的な温度をキープさせることに成功したのだ。ちなみに、EVのリセールバリューの低さの元凶となっているバッテリーの劣化も抑えられているという。一般的には、10万kmで60%ほどまでバッテリー性能がダウンするとされているのだが、アリアではそれが90%にとどまるという。価格の高さだけではなく、下取り価格の低さもEV普及を妨げていると触れている。流通のための効果も期待されるのである。
そもそも、走りは力強い。これでもシリーズのなかでは、もっともローパワーだというから驚きである。乗り心地もシットリしている。優雅な乗り味ではないが、バッテリーを床の下に低く薄く搭載することで、SUVにありがちな不安定な操縦性能にはならない。
ともあれ、470kmに達する航続可能距離は魅力的で、東京から静岡を往復するようなロングドライブをしていても、電欠の心配をそれほどすることがなかった。距離を気にせずに走り、帰宅したら深夜電力を利用して充電をすれば、普通の生活ができる。EVが身近に迫ってきた感覚である。
(文=木下隆之/レーシングドライバー)