このような日産の強気とは裏腹に、同社は13・14年度と2期連続で決算見通しを期中に下方修正しており、市場関係者の間では「ゴーン氏のコミットメント経営が揺らいでいる」(外資系証券会社の自動車担当のアナリスト)という不信が広がりつつある。
日産が強気な理由は、30年ぶりに復活する「ダットサン」の新型車など10車種を新規に投入するからだ。メキシコ、ブラジル、インドネシア、中国などの新工場の稼働も寄与する、としている。同社の15年3月期連結業績の見通しは、売上高が前期比2.9%増の10兆7900億円、営業利益が同7.4%増の5350億円の見込み。国内販売台数は消費増税の反動で11%減の64万台としており、「死守する」としてきた100万台を割り込む見通しだ。
「100万台割れ」は日本の自動車輸出が本格化した1960年代以降で初めてであり、新興国などでの現地生産の拡大に伴い日本からの輸出が減るほか、消費増税で国内販売も減少するとみられているためだ。14年3月期の国内生産台数は前期に比べて5.7%減の100万190台で、今期は90万台規模になる見通し。3期連続で国内生産が減少する。一方、トヨタ自動車は「国内300万台体制死守」の方針を堅持している。
●中期経営計画にも暗雲
日産の今期の営業利益見通し(5350億円)は14年3月期の当初予想(6100億円)を1割以上も下回るが、それでもこの目標の達成は簡単ではない。新興国市場は景気の減速が不可避となっているため、トヨタや本田技研工業(ホンダ)などはより慎重な見方をしている。他社に先駆け「ダットサン」などを投入するなど、日産が力を入れているロシアはウクライナ問題で通貨の下落が現実のものになっており、インドも利益を圧迫する要因になる。
日産は16年度までに「世界シェア8%、連結営業利益率8%」を目指す中期経営計画「パワー88」を掲げているが、この達成は予断を許さない。日産幹部は「利益率8%の達成はコミットメントという意識だが、世界市場シェア8%は努力目標」と打ち明ける。「パワー88」発表時、ゴーン氏は「(16年度までに)グローバルな市場占有率を10年度の5.8%から8%に伸ばすと同時に。売上高営業利益率を10年度の6.1%から8%に改善し、その後、維持していく」と明言している。前出幹部の発言どおりならが、日産の現状としては利益とシェアの二兎は追えないということになる。
●円安の増益寄与率の高い日産
14年3月期決算でトヨタ、ホンダ、富士重工業など競合他社は、円安の追い風に乗り増益幅を伸ばした。トヨタを筆頭にスズキ、マツダ、富士重工業、三菱自動車、ダイハツ工業の6社が税引き後利益で過去最高の数字を計上したが、大手自動車メーカーの中で唯一、日産だけが期初に発表した業績見通しを引き下げ、2期連続で下方修正に追い込まれたのだ。本業の儲けを示す営業利益4983億円のうち、円安による増益効果が2476億円と半分を占めた。
円安による営業利益の押し上げ効果をみてみると、輸出台数が多いトヨタは9000億円で、営業利益2兆2921億円の4割弱、ホンダは2887億円で同7502億円の約4割、富士重工業は1702億円で同3264億円の約5割。マツダは1127億円で同1821億円の約6割を占める。つまり、大手トップ3の中では、円安による増益寄与率は日産が最も大きかったことになる。もし円安の風が吹かなかったら、日産の決算はより厳しいものになっていたことがうかがえる。
(文=編集部)