燃料電池車特有の問題点
燃料タンクからタイヤまでの経路を、燃料電池車と電気自動車で比べると、燃料電池車は電気自動車よりも経路が2つ多いことがわかる。
電気自動車の経路は、「電池→インバーター→モーター→タイヤ」である。これに対して燃料電池車は、「水素タンク→燃料電池→回生ブレーキ用電池→インバーター→モーター→タイヤ」となる。
燃料電池は発電機だが、電気自動車の電池と考えれば、燃料電池車は、水素タンクと回生ブレーキ用電池の2つが、電気自動車に比べて多いことがわかる。
ミライの車重は1850kgであり、重い電池を搭載する電気自動車と比べても軽くないのは、上記の部品があるからだろう。
ガソリンであれば、122.4リットルの燃料タンクには122.4リットルの燃料が入る。充填できる水素の量は、航続距離に直結する。他社の電気自動車の航続距離に差を付けたい燃料電池車としては、たくさん詰め込むために700気圧という超高圧で水素を充填する。
これほどの高圧で水素を充填するのは容易ではない。特別な圧縮ポンプが必要だ。そして、難敵は温度上昇だ。例えば、摂氏20度、1気圧の空気を700気圧に圧縮すると、なんと3752度という高温になってしまう(断熱圧縮)。鉄の溶融温度は約1500度、アルミは660度だから、このまま充填すると鉄の容器も、もちろんアルミの容器も溶けてしまう。
そこで燃料電池車に充填する前に水素を冷却する。これをプレクールという。そのために、かなりの電力を使う。この電力を火力で発電すれば、それに伴って二酸化炭素が発生してしまう。
水素ステーションの設置当初は、ほとんどのステーションが350気圧であったように、350気圧で充填する方法もあるが、航続距離で電気自動車に圧倒的な差を付けられないということもあって、700気圧案が浮上したともいわれている。
しかし、350気圧で空気を圧縮した場合でも2776度になるため、やはりなんらかの冷却が必要だ。
700気圧で充填するのか。それとも水素の冷却に必要なエネルギーが少なくて済む350気圧にするのか。これは燃料電池車の航続距離をどう選ぶかという選択である。それだけではなく、粛々と確実に航続距離を伸ばす電気自動車に対抗する上で、燃料電池車開発者のプライドの問題でもあるだろう。
ただし、充填圧力が高いほどに冷却に伴うエネルギー消費量が多くなり、エネルギーの選択によっては二酸化炭素の排出量も多くなってしまうという問題も抱える。
ミライは、そのジレンマにどう対処しているのか。次回、詳しく見ていきたい。
(文=舘内端/自動車評論家、日本EVクラブ代表)